キングサラマンダー
「(これで2回目の魔石交換・・・・・・もう80発は撃ったと思うがキリがないな)」
素早く雷管代わりの魔石を交換しつつ、石動は焦りを感じる。シャープスライフルの銃身が連続して射撃しているのでかなり熱くなってきており、雷管モドキを交換している間もブリーチを開放して空気を通すようにして銃身を冷やしているが、焼け石に水の状態だ。
余りにも銃身が高温になると根元にある薬室内の温度も上がるため、紙巻薬莢の場合だと装填した途端に発火しかねない。
石動は已む無く、鉄が収縮して曲がりが出ない事を祈りつつ、マジックバッグから出したペットボトルの水を銃身に掛けて強制的に冷やす。
ジュッと音を立てながら湯気が立ち昇る銃身に水をたっぷりかけ、その上で薬室からボロ布を銃身内に通し、銃身内に水が入ってないことを確認した後、再び眼下に視線を移した。
神殿前広場は控えめに言っても惨憺たる状態になっていた。
神殿騎士や民兵たちは善戦しているがサラマンダーの数が多く、防ぎきれないファイヤーボールを受けたせいであちこちで炎が上がっている。
しかもナパーム弾の様なゲル状の物質があちこちで燃えており、水を掛けても消えないし踏み消そうとすると踏んだ足へ火が移り、その結果更に火事が広がってしまう。
まだ土嚢を積んだ最終防衛線の中まではサラマンダーの侵入は許しておらず、防衛線の外にはサラマンダーの死骸が山となっているが、その押し寄せる勢いは止まらない。
「(このままでは防衛線が破られるのも時間の問題だな・・・・・・いや、ここで何とか踏ん張らないと!)」
石動は少し銃身が冷えたシャープスライフルに再び50-90弾を装填すると、次々と湧き出てくるサラマンダーに狙いを付けた。
広場で指揮を執る騎士団長も石動と同じ思いなのだろう、くじけそうな騎士や民兵たちの心を鼓舞し、懸命に防衛線を維持し続けている。
その時、燃え盛る建物をガラガラと崩壊させながら巨大なモノがあらわれた。
炎に明るく照らされたその身体は深い蒼色に輝き、体長は10メートルは超える巨体だ。
頭の天辺から背中にかけて鋭い棘が生え、その棘は興奮色なのか金色に輝いている。
ほかのサラマンダーと違って身体つきもやや細身で西洋のドラゴンに似ており、目は鮮やかな黄色で今は炎の光を反射して金色に見えた。
口から洩れる炎の舌はバーナーの様な高温を示す藍色で美しい。
「キングサラマンダー・・・・・・」
誰かがポツリと呟いた一言が、静まり返った広場にいた全員の耳に響いた。
「GARRRRRRRRUUUUUUUUUU!!!」
頭を擡げて天に向かい咆哮を上げたキングサラマンダーは、ついでその金色に光る眼を防衛線の土嚢に向けると口を開け、深い海の底の色の様に藍色に輝くブレスを放った。
一瞬にしてブレスに触れたすべての物が蒸発し消え失せる。
高く積まれた土嚢は幅3メートル程が、ブレスの余りの高熱に晒されて溶けて消え、消えた跡には土嚢の中に入っていた土砂が溶け溶岩の様に赤く燻っていた。
その周辺で矢を射ていた神殿騎士や民兵たちは、直撃を受けた者は死体すら残らずに蒸発したように灰になり、ブレスの軌道近くにいた者もその高温の余波に焼かれて発火し、松明の様に燃えながら一瞬にして屍を晒している。
その凶悪なブレスは全てを燃やし溶かしながら広場中心にまで進み、中心に設えた大きな大理石の噴水場に達する。
その時、噴水場にある大量の水と超高温のブレスが反応して水蒸気爆発が起きた。
それにより起きた巨大な爆発は、大理石で出来た噴水の台座や装飾物を粉々に破壊し、その破片を手りゅう弾の破片の様に周囲にバラ撒いて、やっとブレスは止まったのだ。
爆発の衝撃波と破片は神殿の屋根に居た石動の所にも飛んできた。
爆発の瞬間、とっさに遮蔽物の影に伏せたので直撃は受けなかったが、大量の水と超高温のブレスによる水蒸気爆発の規模は凄まじく、遮蔽物にしていた石のように硬い屋根の飾りが破片によってかなり削られている。
まだカンカンと音を立てて雹のように小さな破片が降ってくる中で、身を乗り出して眼下を見下ろした石動は息を呑んだ。
まだ水蒸気が霧のように立ち込めて見難いが、噴水のあった場所が爆撃を受けた跡のように黒焦げのクレーターになっていて、広場にいた軽装の民兵は吹き飛ばされて手足を失った者や破片を受けて出血しながら倒れ伏した者が大多数で、そのほとんどが戦闘不能になっているようだ。
鎧を着ていた神殿騎士はまだマシだが、負傷した騎士達も多く、全体の戦力は半減どころではない。
たった一発のブレスでこれか・・・・・・。
サラマンダー達の方を見ると、ブレスで開いた土嚢の穴を通って神殿広場に侵入しようと集まり犇めいていた。
残りの神殿騎士たちが必死に矢を射て撃退しようと奮闘しているが、このままでは侵入を許してしまうのも時間の問題に思える。
なにより・・・・・・。
「(キングサラマンダー、アイツがもう一度ブレスを放てばそれで"詰み"だ。アイツを倒さねば!)」
石動は用心鉄レバーを下げて遊底を開き、薬室内に装填してあった50-90弾を抜くと、新たに弾薬ケースから出した50-130弾を装填する。
シャープスライフルの照準をキングサラマンダーの目と目の間に合わせた石動は、静かに引き金を落とした。
ドバァンッ!
明らかに50-90弾より火薬の多さを感じさせる盛大な発射音と煙を立て、発射された弾丸は狙いよりやや上に着弾し、頭の上に生えた金色の棘を一本、吹き飛ばした。
照準のダイヤルを50-90弾に合わせていたので、それより高圧の50-130弾をそのままの狙いで撃ったため、狙点がズレて弾が狙いより上に当たったのだ。
普通ならやらないミスを犯すことで、焦っている自分を自覚した石動は思わず舌打ちし、次いで深呼吸して気持ちを落ち着けると、再度装填したシャープスライフルを構え、照準ダイヤルを動かす暇はないので、狙点より少し下を狙って撃った。
ドバァンッ!
棘を飛ばされて怒り、首を擡げて警戒していたキングサラマンダーの眉間に、50口径の巨弾が着弾する。
がしかし、鉛の弾頭はキングサラマンダーの眉間を吹き飛ばすどころか、硬い鱗に潰れて張り付いたと思ったら溶けてしまう。
キングサラマンダーの鱗が硬いのに加え、鱗の表面の温度が高く、鉛の溶ける温度は327度であるからそれ以上の400度近い高温でバリアを張っているような状態のようだ。
それならと試しに前足の後ろや腹などにも撃ち込んでみたが、同様に弾頭が着弾と共に溶け、効果が無い。
「(くそっ、まさか弾頭が溶けるなんて考えもしなかった。銅で弾頭を作っておくべきだったな・・・・・・)」
銅の溶ける温度は1085度なので、そこまで鱗の温度が高いとは思えない。
その時、ハッと石動はマジックバッグに仕舞ってあるレミントンM700カスタムを思い出す。
「(308ウインチェスター弾のは銅の弾頭だ!!)」
慌てて、マジックバッグからレミントンとアモポーチを取り出す。
キングサラマンダーの方を見ると、弾頭は溶けて貫通はしないものの何発も銃弾を浴びせられ、その当たった衝撃や痛みは感じるようで、怒り狂い石動に向けて口を開けてブレスを放とうとしていた。
「(ヤバイヤバイ、急げ!)」
アモポーチから4発の308ウインチェスター弾を取り出すと、レミントンの用心鉄の前のボタンを押し、弾倉底のフロアプレートのロックを解除する。銃を裏返しバカッと開いたフロアプレートとマガジンフォロアーを避けて弾倉内に4発の銃弾をザラザラッと放り込んで素早くフロアプレートを閉じた。ボルトを引いてもう一発マガジンに弾丸を押し込んでボルトを閉じ、薬室に銃弾を送り込む。
文字にすると長いが、石動はこの作業を5秒でやり終えた。アモポーチの残弾はあと10発。
呼吸を整え、スコープの照準をキングサラマンダーに合わせる。
スコープの調整はこの世界に来てから出来ていないが、ぶっつけ本番で調整することにした。
まずブレスを放つのを阻止せねば!
ドゥーーン
黒色火薬と違い高性能かつ高圧力な無煙火薬の発射音を響かせて、発射された308ウインチェスター弾は狙った場所より少し右に着弾し、キングサラマンダーの右目横を貫いた。
やはりこの世界に来る前の「耳ナシ」の攻撃を受けた時に、ややスコープの照準が狂ったようだ。
「GARRRRRRRRUUUUUUUUUU!!!」
硬い高温の鱗によるバリアを破られて驚いたキングサラマンダーは、痛みの余りブレスを吐くのを止めゴロゴロとのたうち回り、そこらじゅうの建物や岩など触ったものに嚙みつく。
石動は冷静にスコープ内の目盛で照準をやや左にずらすことで調整し、弾倉内の残弾4発を狙い通りにのたうつキングサラマンダーの頭部に撃ち込む。
お読みいただきありがとうございました。
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作者の書き続ける活力になります。
感想にて指摘を頂き、キングサラマンダーに308弾を撃つ場面で、
「308ウインチェスター弾は銅の被膜がされている!」を
「308ウインチェスター弾のは銅の弾頭だ!」に修正しました。
北海道での猟では鉛による環境破壊を防止する意味で、ライフルの弾頭や
散弾銃の散弾も銅でないと認められません。
知っていながら、間違える間抜けなワタシ・・・・・・。
大変失礼しました。