会議
その日の午後に、宿営地の中に設けられた会議用の大テントにて、マクシミリアン第三皇子をはじめとした主要な者達が集まって作戦会議が開かれた。
石動も大テーブルの末席に座り、会議に参加している。ロサは石動に割り当てられているテントで留守番だ。
石動はすでに会議が始まるより前にマクシミリアンへ直接、偵察の結果を詳細に報告していた。
その際にマクシミリアンから、会議の場でも偵察で得た情報を皆で共有するために報告するように頼まれてしまったので出席しているのだ。会議の開始と共に、マクシミリアンに指名されて立ち上がった石動は、気が進まないまま偵察で得られたベルンハルト陣営の様子や陣形などの報告を行った。
石動の報告を聞いた多数の貴族たちの反応は案の定、冷淡な態度に加え、バカにしたようなニヤニヤ笑いであった。
「ホホホ、ザミエル殿は余程ベルンハルト陣営が恐ろしいと見える。そんなに怖いならせっせと掘っていた穴にでも隠れていればよろしかろう」
「第3師団の鎧に我々の攻撃が通用しないだと? おもしろい、我が領兵たちが奴らを蹴散らしてごらんに入れましょうぞ」
「ボウガン、と言ったかな。つまりは弓矢なのだろう? そんなもの、今まで戦場で飽きるほど相対して来ておるわ。いまさら何ら恐れるに足りん!」
「「「「「ハハハハハハッ」」」」」
石動はそんな貴族たちの威勢のいい発言を聞いていて、ため息が出る思いだった。
この様子では何を言っても聞くまい。
それでも第2師団のディーデリック師団長やマクシミリアンと小声でヒソヒソと真剣な顔で話し合っている貴族も少なからず居て、何人かは多少の危機感を持ってくれたようだと報われる思いがした。
石動は馬鹿にしてくる貴族たちから何を言われても、嗤われても、無言のまま無視する。
何故こいつらはここまで能天気なのだろうか? 此奴らはマールブルグ平原に先着して、たまたま有利な場所に陣を張ったことで満足しているのだろうか?
勝ち馬に乗ったつもりでいても、戦場に安全な場所などは無い。
死ぬ時は、皆、平等に死ぬのだ。むしろ、油断している者から死ぬだろう。
とりあえず石動として、言うべきことは言った。
あとの陣形や戦術はマクシミリアンらが判断して決めることだ、と石動は開き直った気分だった。
次いでディーデリック師団長が会議室のテーブルにマールブルグ平原の地図を広げると、石動の報告を基に敵の配置や陣形を黒い四角の木片で示し始めた。
自陣の配置は白い木片で示している。
「では、ザミエル殿の報告を踏まえて、明日の方針を決めようと思う。諸侯の御意見を承りたい」
マクシミリアンの言葉に、口々に威勢のよい言葉を並べていいところを見せようとする貴族たちの意見というよりもアピール合戦が始まる。
反面、愚かな発言はせずにじっと観察している貴族たちも居て、貴族も一枚岩ではないのだな、と石動は感じた。
アピール合戦が一通り終わったところで、再びマクシミリアンが口を開いた。
「皆の意見はよく分かった。その言たるや非常に頼もしく思う。ただ明日は皆も理解している通り、この決戦によって我々の運命が決まる大事な戦だ。だから皆の意見をすべて聞き届ける訳にはいかないが、勝つための布陣と戦術を次のように決めよう。
ディーデリック師団長、始めてくれ」
「ハッ! では僭越ながら私から述べさせていただきます」
ディーデリック師団長から示された陣形は、無難に貴族領兵ごとに纏まって、いくつもの方陣を組んだものだった。
ただし、敵方のように方陣の周りにボウガン部隊はつかず、当然ライフル大隊からの支援もない。方陣の槍兵の周りは、それぞれ貴族自慢の騎兵が付くことになっている。
ディーデリック師団長が盤上の白い駒を指しながら、貴族領兵ごとにどういう順番で何処からどう攻めるのかなどの戦術が決められていく。
一方でライフル大隊は貴族領兵が出払った後の後方支援に回されることになり、掩体にて待機しながら本陣を守る形に決まった。
最後に明日の勝利を皆で祈った後に会議は解散となり、采配に満足した貴族たちに紛れてテントを出ようとした石動へマクシミリアンが声を掛けてきた。
「ザミエル殿、悪いがちょっと残ってくれないか」
「? 了解した」
石動は手招きするマクシミリアンの傍に近づくと、示された椅子に座る。
貴族たちが出ていったテントの中は、マクシミリアンとディーデリック師団長、そして石動だけとなる。
「先程の会議をどう思った?」
「どうとは?」
「言葉通りの意味だよ。まるで喜劇のようだと思わなかったか? 開戦のずっと前からザミエル殿とライフル大隊が兄上の勢力の戦力をいくつも削ってくれていたからこそ、明日はさほど兵力の差を感じずに会戦を迎えることが出来た。
それなのにあの貴族どもときたら、何もしていないくせにもう勝ったつもりでいる。これほど笑える喜劇があるか? ハハハハハッ」
マクシミリアンはさも可笑しそうに仰け反って哄笑した。しかし次の瞬間スッと向き直り、真面目な顔に戻って石動の眼を見た。
「ザミエル殿、明日、あ奴らは間違いなく第3師団の方陣に歯が立たずに敗走するだろう。敗走する兵たちは第3師団に追われて、本陣に向かって逃げてくるはずだ。追って来た第3師団やベルンハルトの兵たちをライフル大隊は迎え撃てるか?」
「味方が負けるのが分かっているなら、助けに行かなくていいのか? それに第2師団が陣形に加わっていないが、どう動くんだ?」
「フフフ、組織の人材を有能で勤勉な者、有能で怠惰な者、無能で勤勉な者、無能で怠惰な者の4つに分けるとするだろ? その4つのうち一番、組織に害を与える者はどれか、博識なザミエル殿なら知っているんじゃないか?
一番タチの悪い者は、無能で怠惰な者ではなく、無能で勤勉な者だ。
吾輩はこの機会に、あの貴族たちのような、これからの帝国に害を及ぼす者達を排除しておきたいと思っているのだよ。
なに、張り切って出陣してくれるのだ。彼らはせいぜい肉の壁になってから、敵を誘き寄せるエサになってくれれば良い。そのうえで誘き寄せた敵にライフル大隊が痛撃を与え、第2師団が最後に仕上げをするという寸法だよ。利口な貴族だけ生き残ってくれれば良い。
それで、先程の質問に戻るが、ライフル大隊の銃はエサに食いついて追って来る、第3師団の新しい盾や鎧を貫けるか?」
「それは問題ない。第3師団もデモンストレーションを見ているし、事前にライフル大隊に仲間の貴族たちが何度もやられているんだ。それくらいの対策はしてくるだろうと予測していたよ」
石動はマクシミリアンの言葉を聞いて、前世界におけるドイツ軍人ゼークトの組織論と同じ論理がこの世界にもあることに驚いていた。そして、愚かな貴族たちとは言え、平然と味方を切り捨てるマクシミリアンにも戦慄する。本性はこういう男だったのか、と思う反面、やはりそうだったかと納得している自分もいて、石動は複雑な思いだった。
「それを聞いて安心したよ。では敗走してきた味方を追ってくる第3師団を排除する役目は、ライフル大隊に任せることにしよう。他の敵貴族兵や追撃は第2師団に任せてくれ」
「了解した。承ろう」
「そして、ザミエル殿には仕上げとして、最も重要な仕事を頼みたい」
「最も重要な仕事?」
マクシミリアンはニコリと笑って石動に告げた。
「ベルンハルト兄者を狙撃してほしいのだ」
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