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異世界スナイパー  ~元自衛隊員が剣と弓の異世界に転移したけど剣では敵わないので鉄砲鍛冶と暗殺者として生きていきます~   作者: マーシー・ザ・トマホーク
第三章 帝都編

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陽動

誤字報告をありがとうございます。いつもながら感謝しております。

 その日の深夜、突然鳴り響いた銃声を聞いて、石動は簡易ベッドから飛び起きた。


 耳を澄ますと、「敵襲!」と叫ぶ声が立て続けに鳴る発砲音に混じって聞こえてくる。

 隣の簡易ベッドで寝ていたロサも既に起きあがっていて二人の目が合った。ロサに頷いてみせた石動は、ベッドから出て素早く装備を身につけ始める。

 すぐに身支度を終えた石動は、簡易ベッドの横にいつでも手が届くように立てかけていたFG42を手に取る。

 FG42のマガジンを抜いて8ミリモーゼル弾がフル装填されていることを確認し、再び銃に戻す。 

 そしてチャージングハンドルを引いて、薬室が空なのを目視してから手を離すと、勢いよくボルトが前進して初弾が薬室に装填された。


 セレクターレバーがセミオートになっていることを確認した石動は、引き金に触れないよう右手の人差し指は銃に沿って伸ばしたまま、FG42を構えてテントから走り出る。 

 その後ろから、マリーンM1895のレバーハンドルを素早く操作して、同じく初弾を薬室に送り込みながらロサが続く。


「どうやら、東の方からのようだな。急ぐぞ!」

「了解!」


 発砲音と気配察知スキルから戦闘地域を素早く特定した石動は、ロサに一声かけると走り出す。

 


 敵の夜襲に反応して発砲したのは、陣地の東側に設けた掩体の中で、交代にて夜間警戒に当たっていたライフル大隊の兵士だった。

 非番で休んでいたはずの他のライフル大隊の隊員たちが銃声を聞くなり素早く反応して、全員兵舎代わりのテントから駆け出すと各自の担当掩体に飛び込み、シャープスライフルを構えて全方位への警戒に当たるさまを横目に見ながら石動は走り続ける。


「日頃の訓練の成果が出ているな・・・・・・」と石動は内心、満足そうにニヤリと笑う。


 東側の交戦地区に到着すると、既にライフル大隊の兵士と、あとから駆けつけたとみえる第2師団の兵士たちが一緒になって敵と応戦していた。

 石動は応戦中の兵士がいる掩体に飛び込むと、自身もFG42を構え夜襲をかけてきた敵に向けて発砲しつつ、掩体の中で応戦中のライフル大隊員に発砲音に負けないような大声で怒鳴る。


「状況報告!」

「ハッ! 10分ほど前に草原に仕掛けていた警戒線に仕掛けた鳴子が鳴ったので誰何したところ、矢を射かけながら接敵してきました! 現状敵兵力不明! 現在までに20名ほど射殺しましたが、まだ残敵は相当数いる模様!」

「了解」


 石動は今回陣地を構築するにあたり、極細のワイヤーを張り巡らせることで敵がワイヤーを切るとアラームとランプがついて警告する「ナイトウォッチ」のようなものを仕掛けたい、と思っていた。

 しかしそんな初期的な代物とはいえ、電子機器などこの世界では望むべくも無いので、そのかわりに細く黒い紐を陣地から50メートル程離れた草叢の通り道になりそうな場所に張り巡らせておいたのだ。

 その紐に敵が触ると鳴子が鳴るという原始的な仕組みだが、腰の高さほどある草原を掻き分けながら接近する敵には夜間だと黒い紐は見えにくいだろうと考えたからだ。

 できることなら一緒にクレイモア地雷でも設置したいところだが、贅沢は言えない。

 そして今、まんまと敵が罠に引っ掛かったことを聞いて、石動はやっておいてよかった、と心の中で安堵する。


「それにしても妙だな・・・・・・」


 石動は現場の様子に違和感を覚える。


 そもそも現在のところ、敵であるベルンハルト陣営本隊のマールブルグ平原到着は遅れている。今日の昼間の段階でも、その本隊の姿は全く見えず、ごく一部の兵が僅かにテントを張り始めたに過ぎなかった。

 そのため、決して油断していた訳ではないが、石動たちも接敵するのはもう少し先だろう、と思っていたのだ。石動たちでさえそう思っていたくらいなので、マクシミリアン陣営にいる他の貴族らの兵は対応すらできずに、油断しきった姿を晒してあたふたしているだけだ。


 いや、それだけではないかもしれない、と石動は思い直す。

 貴族領兵たちが油断していたところを突かれているのも確かだし、咄嗟の対応能力に問題があるのも間違いないだろう。

 しかしそれ以上に、昼間のコーネイン男爵軍とのいざこざが尾を引いている可能性が高いかもしれないと思いついた。


 貴族が平民にやり込められたという話は貴族間ではあっという間に広がるし、なにより貴族とは面子を重んじる生き物だ。貴族(じぶんたち)を蔑ろにされて面白いはずもない。


 さらに言えば、保守的な貴族にとって、ライフル大隊のような自分たちの価値観に相容れないものを受け入れる度量などは欠片も無く、どちらかと言えば異物として弾かれるのが常だろう。

 そのあたりが第2師団の士官や師団長たちのように、優れたものならすぐに受け入れて戦術に取り入れようとする軍人の意識とは、根本から違う。


 ライフル大隊もマクシミリアン第三皇子の直属部隊であるからこそ、貴族たちにも一目置かれているが、そうでなければとっくに弾き出されているに違いない。


 今回も自分たちの兵は温存したまま手を出さず、ライフル大隊が突発的な夜襲ですら対応できないようなら、後日御前会議で徹底的に叩いてやろうという、貴族らしい底意地の悪さが透けて見えるようだ。


 敵襲だというのに暢気なものだ。高みの見物という訳か、と石動は心の中で独り言ちる。

 もしこれが 敵本隊による襲撃だったなら、見物しているうちに自軍が全滅する可能性だってあるだろうに・・・・・・。

 

 ああ、マジで面倒くさい・・・・・・。

 人間の世界が一番ドロドロしていて気持ち悪い。

 エルフの郷やクレアシス王国が懐かしいな。帰りたくなってきた・・・・・・。

 しかし、それにしても・・・・・・。


 舐められたものだ、と怒りの炎が石動の心を焼く。

 そこまでやってくるなら実力を示せばいいだけ、と殊更に燃えてきた。

 と同時に開戦直前にも関わらず、ここまで貴族たちの反発を招き、部隊内で不和の原因を造ってしまった自分に、ちょっとやりすぎたかも? と少しだけ反省する。


 とりあえずそれは置いておくとしても、夜襲をかけてきた敵の攻撃が単調過ぎる、と石動は改めて考え込む。

 威力偵察というなら既に一当たりしたので、偵察兵もライフル大隊の練度はある程度確かめられたはずだ。

 初期の目的を達したなら、これ以上人員の損害が拡大しないうちにさっさと撤退するはずなのに、未だにグズグズと残っている。

 しかも、最初のうちは敵も突撃して乗り込んで来ようと接近してきたらしいが、こちらの守りが堅いと分るや、今では物陰に隠れて矢を射って来るだけだ。


 撤退しない理由は何だ?

 足止め? それとも注意を引きたいだけ・・・・・・ということは時間稼ぎ? 

 では陽動か?! 主力はどこを攻めてくる!?


「ここは任せてもいいか? 他の場所を見てくる。なにか攻撃に変化があれば報告しろ」

「イェッサー!」


 石動はロサと共に他の掩体を見て回り、他方面からの新たな攻撃が無いか確認して回ることにした。


「周辺に偵察を出す方がいいか? いや、夜間の作戦に慣れていない者を偵察に出す方が返り討ちに逢いそうだ。うーん、こいつはなんとも厄介だな。今夜はいつになったら寝られるのやら・・・・・・」


 石動は夜空を見上げてため息を吐く。



 石動が夜襲をかけてきた敵と掩体の中で向かい合っていた頃、突然の敵襲で混乱している宿営地の中を目立たないように歩く二人組がいた。

 暗い宿営地を松明を持って走り回る兵士たちが騒ぐ中、二人は目立たないように進んでいく。


 近くを擦れ違う兵士が持つ松明の灯りに薄っすらと照らされた、二人のうち一人の顔はディーデリック第2師団長であった。その後ろからフード付きのマントを頭から被った男が影のように続いている。

 男はマントを着ているため姿形ははっきりしないが、背はさほど高くなく、中肉中背としか言いようがない。性別もマントやフードに隠されてはっきりしないが、顕わになっているズボンや足元の靴から見て男性ではないか、と思われた。


 混乱した貴族領兵たちが右往左往している中を、ディーデリック師団長に先導され、二人は誰にも咎められることなくマクシミリアン第三皇子の丸テント近くまでやってくる。


「なんともにぎやかなことですねぇ。陽動が効きすぎましたかな? ここまで警戒されないとはねぇ」

「お前が仕組んだ騒ぎだろう? 戯言を言うな。まあ、そのお陰で目敏いザミエルといえど気づかないだろうが・・・・・・」


 他に聞こえないよう、小声でディーデリック師団長が背後のマントの男を窘める。

 間もなく二人はテントの前に到着し、ディーデリック師団長は入り口を警護する近衛騎士に頷いてみせ、中へ通すよう合図した。


 ディーデリック師団長の顔を認めた近衛騎士が先にテントの中に半身を入れ、マクシミリアンの許可を取ったのちに入り口を開き、二人をテントの中へと招き入れる。


 テントの中から洩れた灯火のあかりで、入り口を広げて待つ近衛騎士にもフードを被った男の顔がチラッと見えたが、その顔はたとえ正面からじっくり見たとしても横を向いた瞬間には忘れているほど印象に残らない顔をしていた。


 ただ、近衛騎士の記憶に残るものがあるとすれば、特徴のない顔の男の口角が上がっていて、悪魔のような笑みを浮かべていたことだけであった。

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