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異世界スナイパー  ~元自衛隊員が剣と弓の異世界に転移したけど剣では敵わないので鉄砲鍛冶と暗殺者として生きていきます~   作者: マーシー・ザ・トマホーク
第三章 帝都編

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掩体

「しかし、凄まじいものだな、銃の威力というものは・・・・・・。実戦で使うところを初めて見たが、これはもう儂の知っている(いくさ)ではない。

 最強と謳われた騎兵が相手でもまるで屠殺のようなものではないか・・・・・・。

 こうなると、もはや騎兵のような兵科は遠からず時代遅れの遺物となってしまうのであろうな」

「いえ、閣下。騎兵はその機動力を生かすことによって、まだまだ生き残ることが出来ますよ。それに騎兵にも銃を持たせるようにすれば、また違った活用法も生まれてくることでしょう」

「なるほど、左様なものか」


 ブルクハウゼン侯爵は納得したようにうなずいていたが、石動も内心では侯爵の言い分が正しいのだろうな、と苦笑いしていた。


 例えば前世界の大日本帝国陸軍でも、騎兵第一旅団が華々しく活躍したのは、日露戦争くらいまでではなかったか、と石動は乏しい知識を思い出そうとして頭をひねる。

 石動もそのへんの記憶は今ひとつ曖昧で、日露戦争において当時世界最強と謳われたロシア帝国のコサック騎兵を打ち破った秋山好古騎兵第一旅団長の活躍を、司馬遼太郎著の「坂の上の雲」で描かれているのを読んだ程度だ。

 それも騎兵同士のぶつかり合いで勝ったのではなく、秋山旅団長の戦術で馬ごと入る塹壕を掘り、機関銃座を設けて迎え撃ったように覚えている。


 それでも、昔、第一空挺団と同じ習志野に騎兵第一旅団の編成地があったものの、今では大学のキャンパスや公園になっている、くらいのことは石動でも知っていた。


 実際に重機関銃の登場によって塹壕戦が主流となった第一次世界大戦の戦場では、騎馬による突撃などは全く意味をなさなくなってしまった。機関銃の発展に伴い、騎兵は次第に時代遅れの兵科となっていく。

 満州事変の頃から騎兵第一旅団は編成が度々変わり、1939年には旅団各隊は完全に自動車編制に改編されてしまうことになる。

 ただ、この世界でなら、もうしばらくは花形の兵科でいられるのかもしれないと、石動は思っていた。なぜなら、ここでは重機関銃はまだ戦場に投入されていないし、馬に代わる機動力が他に存在しないからだ。



 この男爵連合軍の敗北と壊滅により、戦局は大きく動き出すことになる。

 流石に大きくメンツをつぶされた形のベルンハルト皇子はようやく重い腰を上げ、全軍で出陣する動きを見せてきた。

 マクシミリアン陣営もこれには素早く反応し、全軍でいち早くブルクハウゼン侯爵領を出ると、帝都との間に広がるマールブルグ平原に陣を敷いた。


 ベルンハルト陣営も準備を整え次第、帝都を出陣すると布告し、遂に早ければ一週間後にはマールブルグ平原で両陣営の総力戦となる会戦が行われることが決まったのだ。



 そんな表舞台の裏では、この頃になると帝国情報部によるものと思われる破壊工作や暗部による暗殺未遂などの事案が増えてきていた。


 石動もライフル大隊に同行して出撃した際に、敵貴族の護衛をしている不審な人物を見かけたら必ず一緒に狙撃しておくことにしている。たいていの場合、それが帝国情報部か暗部の人間であることが多かったからだ。

 あとで分かった事だが、どうやら最初の出動でバルテリング子爵を待ち伏せした際に、馬車に同乗しているのを石動に察知されてハチの巣にされたのは、帝国情報部員とその護衛についていた暗部の者だったらしい。


 石動としてはそこまで察知して撃ったわけでは無かったのだが、その後は同様に不審な気配を感じた者に対しては容赦なく銃弾を浴びせるよう心掛けることにしたのだ。


 そんな石動らの動きに対抗するかのように、マクシミリアン陣営の貴族の周りもに暗部の者と思われる暗殺者が度々出没するようになっていた。

 実際にマクシミリアン陣営の男爵が一人、不審な死を遂げていたので調査したところ、暗部による殺害の可能性が浮上してきたのだ。


 その事件を契機に、マクシミリアンが各貴族に警戒レベルを上げるよう通達したのちは、一人だけ諜報部のハニートラップで殺された愚か者が出たくらいで、今のところ深刻な事態にまでは至っていない。


 代わりにというか、主要な街道にかかる橋などのインフラを狙った破壊工作や盗賊団を装った街道付近での嫌がらせが活発化していて、地方の貴族たちは手を焼いているようだ。

 しかし石動から見れば、破壊工作と言っても石動のように爆薬を持っているわけではないので、爆破による大規模破壊などの手段は当然採れるはずもない。そのため、さほど深刻なものにはならず、復旧に何日か掛かる程度の工作でしかなかった。


 あの狡賢いラファエル部長が、そんな生温い工作で満足するだろうか。

 何か、大きなことを企んでいるはずだ・・・・・・。

 大きな作戦を隠すためのカモフラージュではないか?


 そう考えた石動は警戒を緩めずにいた。

 そしてその予感は的中することになる。



 マールブルグ平原に陣を敷いたマクシミリアン陣営では、マクシミリアンが休む天幕を中心にしてブルクハウゼン侯爵や他の貴族たちの円形テントが並ぶ宿営地が出来ていた。

 それらは一般兵の粗末なテントとは比較にならないような豪華なもので、宿営地の中には作戦指令室の役割を兼ねる会議用の大テントも設置されている。

 そして宿営地の周りを警護するかのように兵士たちの宿泊用テントが配されていた。


 石動はそんな宿営地には目もくれず、この時のためにブルクハウゼン侯爵領内の鍛冶屋で大量に作らせていたスコップを隊員たちに配ると、早速平原の地形を生かした陣地の構築にかかっていた。


 陣地と言っても、基本的には二人用掩体をいくつも連ねたものになる。

 最初は連絡通路も備えた大規模な折れ線型の塹壕を掘ろうかとも考えたが、さすがに設営に不慣れな兵士たちばかりだから時間が足りなくなるだろうと判断し、諦めたのだ


 二人用掩体とは、U字の底を広げたような形に120センチほどの深さで壕を掘ったもので、掘り出した土はU字の間と周りに盛り上げることで防護積土とする。

 積土は射手の頭が隠れる程度の45センチ位の高さにしておいた。

 掘った壕にはU字の底の真ん中あたりに木材を渡し、そのうえにも土を盛って掩蓋を設けておく。これは本来、敵から砲撃を受けた際に兵士が避難する場所だが、この世界でも上から降ってくる弓矢攻撃を避けるのに有効だろう。


 平原の周りに生えている広葉樹の林の中にも、まず射界を遮る邪魔な木や灌木を伐採してから、いくつも掩体を掘っておく。

 また、陣地近くにある小高い丘の斜面にも急斜面用掩体を掘り、穴の両側に銃眼を開けておくことで、身を乗り出して射撃しなくても良いよう工夫した。


 掘り終わったら、最後に石動が全ての掩体を回って、照準杭と射界杭を打っておいた。

 照準杭とは、夜間などの視界が悪く照準が難しいときに役立つよう、予め敵の攻めてくる方向を予測して撃つ方向を示す杭を何本か打って設定しておくためのものだ。

 射界杭とは、夜間などに敵の接近があった時に左右の射撃可能区域を明らかにしておくことで、味方の隣接掩体への誤射を防ぐためのものになる。


 自衛隊だと、例えば直径1メートル、深さ1.5メートルほどの一人用小銃掩体を掘るような作業では、2時間程度で作業完了しなければ上官にどやされる。しかし、ここでは初めての作業であるうえに石動がいちいち教えなければならないため、時間がかかってしまったのは仕方がない。

 結局、ライフル大隊の全員が配置できるだけの全ての掩体が完成するまでに、3日も掛かってしまった。

 まだ手榴弾が投げ込まれたときに被害を受けることなく爆発させるための手榴弾孔などは掘らなくていいし、身を隠すためだけに単純化した掩体で良いから助かった、と石動は胸をなでおろす。


 あくまで予定ではあるが、会戦まではあと3日ほどある。

 ようやくライフル大隊の戦う準備が出来たので、本番で戸惑わないように今日から訓練重ねておかなければ、と石動は心の中で呟いた。


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