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異世界スナイパー  ~元自衛隊員が剣と弓の異世界に転移したけど剣では敵わないので鉄砲鍛冶と暗殺者として生きていきます~   作者: マーシー・ザ・トマホーク
第三章 帝都編

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アンクレットと魔力

 カルクルスの店を出てカプリュスと別れた石動は、ロサをスイーツが美味しいと評判だと宿の支配人に教えてもらっていた店に連れて行く。


 そこで好きなものを好きなだけ注文したロサは、ようやく諦めたように苦笑いして石動を軽く睨みつけた。


「はぁ~、もういいわ。今回のことは寝込んでて一緒に行けなかった私にも非はあるし、このくらいで勘弁してあげる。でも次からは予定外に遅くなるなら必ず連絡してちょうだい。私はツトムの背中を守るのが役目であって、心配しながら帰りを待つなんていうのは柄じゃないの」

「すまなかった。これからは気を付けるよ」


 結局、石動が高い食事代を払ってまで得た教訓は、パートナーには「報告・連絡・相談」を忘れない事、という当たり前の話であった。

 


 翌日から石動の身辺はにわかに忙しくなる。

 

 エルドラガス帝国へのシャープスライフル売却の正式な契約は、石動がマクシミリアン皇子から全権委任されているので、いちいち帝国へ相談する必要はない。

 そのかわり早く商談をまとめて、エルドラガス帝国へ戻る必要があるため、のんびりはしていられない。王宮やエルフの郷との調整はノークトゥアム商会が中心になって動いてくれているが、契約内容など細かい打ち合わせに石動も参加しなくてはならない。

 フィリップ騎士らも同席させて、連日詳しい段取りを詰めることになった。


 ウィンチェスターⅯ86の製造はカプリュスに任せようとしたが、流石に丸投げは出来なかった。

製造ラインの構築など他の工房との調整などはカプリュスに任せたが、シャープスライフルに比べて部品数も多く工程も複雑なので石動の協力が必須だ。

 任せられるようになるにはもう少し時間が必要だろう。


 そして今回の会合で決めたことの中で一番重要な工程は、(かなめ)である金属薬莢弾の製作をノークトゥアに委託することだ。

 今回エルフの郷まで行かなくても、クレアシス王国で師匠と細かい話を詰められるというのは、石動にとっても思いがけない僥倖だった。

 

 エルフの郷では既に雷管キャップの製造工程が確立しているので、真鍮製の薬莢の底に小さな穴を開けてサイズと形状を変えた雷管を填めるだけなので、それほど難しくはない。

 最初は真鍮製の薬莢をつくるのも結構手間なのでクレアシス王国で大量生産し、エルフの郷では薬莢に黒色火薬を詰めてから弾頭と雷管を填める形の分業で弾薬として完成させてはどうかと石動は考えていた。

 

「うーん、それって面倒ではないかなー。真鍮の板さえクレアシス王国側から供給してもらえたら、こっちで成型して薬莢も造れると思うけどね」

「それができるなら一番良いですけど、何万発単位になっても大丈夫ですか?」

「むしろ弾薬くらい一つの場所で一貫生産できない方が戦略的に問題じゃないかな。将来的には戦争に備えなければならないんだろう? 本当は真鍮板もエルフの郷で造れると良いんだが、そこまでの設備はエルフの郷にはないからねー」


 そう言って笑う師匠は、石動から見ても相変わらず頼もしかった。

 その笑顔に、ふと思い出した石動は師匠に尋ねてみる。


「全然話が変わりますけど、師匠の名前のノークトゥアって、ノークトゥアム商会の会長の名前に似てますけど、何か関係があるんですか?」

「ああ、何代か前の私の先祖であるハイエルフが、ダークエルフの男と恋仲になったらしくてね。森を出て結婚し、その後に開業したのがノークトゥアム商会なのさ。

だから、代替わりして薄れてはいるけど、今の商会長のノークトゥアムには正確に言うと森エルフの血が流れていることになる。

 私にとっても、親戚にあたるというわけだね。

 今度機会があれば、商会の紋章を見てみるといい。ハイエルフの女性の横顔が紋章になっているはずだよ」

「へぇー、そうだったんですか! ハイエルフのご先祖が嫁入りしたのって、いつ頃の話なんです?」

「さてね、2000年か3000年がそれくらい前じゃない? 私も伝承でしか聞いてないからよく分からないよ」

「さいですか・・・・・・」


 あまりに時間の流れのスケールが違う話に、石動は言葉が無かった。


 結局、真鍮板の供給などの手筈もカプリュスらと取り交わす必要が出てきたので、輸送を担当するノークトゥアム商会も交えて話し合いをする必要が出てきた。

 あちこち駆けまわりながら、石動はもう一つ身体が欲しい、と切実に思う。



 そんな中、最初に訪問してから二日後遅くに忙しい合間を縫ってなんとか時間をつくり、石動はカルクルスの店を再訪する。

 今日もロサは一緒だが。カプリュスは同行していない。


「・・・・・・オウ、来たか。準備は出来ているぞ」


 店に入ると、カルクルスが無愛想に迎えてくれた。

 そして、カウンターの下からビロードの台に載せたアンクレットと革袋を取り出す。

 石動とロサを近くで見るように手招きしていった。


「早速だが、結論から言うぞ。まず作動しなかった原因の一つは、どうやら魔石の魔力切れだったようだ。だから、お前さんが置いて行った大きな魔石を切り出して、嵌め込めるサイズに加工しておいたが、良かったか?

 あともう一つの原因はこの魔法陣だ。見てくれ」


 カルクルスが指さすところを見ると、アンクレットから魔石が取り外されていて、台座の内側に非常に小さな魔法陣が金文字で書きこまれているのが分かる。


「この魔法陣が魔石の魔力を吸い上げるだけではなく、使用者を登録するための役割を持つようだ。だから魔石を填める前に使用する者の魔力を登録しなければならない」

  

 そう言うとカルクルスは石動を見て続ける。


「使うのはお前さんなんだよな。じゃあ、この魔法陣を握って魔力を通してみてくれ」

「ええっ! 私に魔力なんかあるわけないですよ!」

「錬金術師なんだろ? スキルを発動すればなんとかなるんじゃないのか?」

「・・・・・・師匠がスキルと魔力は違うって言ってたけどなぁ。うーん、じゃあ試しにやってみますね」


 石動はアンクレットを両手にひとつずつ握り、錬金術スキルを発動させる。

 いつも錬金術で「錬成」などを行う時のように魔法陣を意識してみたが、しばらくたってもアンクレットに何も変化が無い。


「・・・・・・これって、登録できていないってことですよね」

「うーん、錬金術師なら大丈夫だと思ったんだがな。やはり人族だと難しいのかもしれん」


 石動は、そうなるとあの「亡霊(ファントム)」は魔力持ちだったという事か、と妙に納得する。こちらに来た時、ラタトスクから亜人は少しだけ魔力を使えると聞いていたから、アイツには亜人の血が入っていたのかもしれないな・・・・・・ん? 待てよ、亜人?


 そこまで考えて、石動は隣にいるロサを見る。

 

「ロサ、試しにこれを握って魔力を流してみてくれないか」

「ええっ! 私が?!」


 ロサは驚くが、石動に無理矢理アンクレットを押し付けられて、しぶしぶ試してみることにする。


 ロサが目をつぶって両手に握るアンクレットの魔法陣に魔力を流し込むと、握った指の間から光が漏れ、魔法陣が光ったのが分かった。


「おおっ成功したんじゃないか?! よし、では新しい魔石を填めてみよう」


 カルクルスがディアトリマの魔石をアンクレットに填められるサイズに削り出したものを革袋から出す。

 削り出したらこのサイズで10個も採れたから、両足で5回分はあると得意げに言う。


 カルクルスから魔石の嵌め込み方も教えてもらい、石動は嵌め込んだアンクレットをロサに差し出す。


「ロサ、足に填めて動くかどうか試してみてくれ」

「えー・・・・・・仕方ないな、出来るかどうか分からないけど、やってみるわ」


 ロサはアンクレットを受け取ると、しゃがみ込んで両足首に着ける。

 立ち上がると、カルクルスの方を見て尋ねた。


「で、どうすればいいの?」

「この類の魔道具は、自分の行きたい場所を念じるだけでいいはずだ。ただし、閉まっているドアや壁を通り抜けるようなことは出来ないから、気を付けろ。術者の方が大怪我するぞ」

「分かった」


 ロサは頷くと、店の奥まで歩いてから石動たちの方へ振り返る。


 ニコッと石動に笑いかけてきたかと思うと姿が消え、次の瞬間、石動の喉に冷たいものが当たっている。

 ゆっくりと頭を背後に巡らせると、背後からナイフの背を石動の首にあてて微笑むロサの顔があった。


「これスゴイわね! もし私が敵だったら、今のでツトムは死んでるわ。よくこんなものを持った相手に勝つことができたもんよね、感心する」 

「ハハハ・・・・・・ホントにそうだね」


 石動は冷や汗が背中をつたうのを自覚しながら、苦笑いする。

 しかし、これで心は決まった。


「ロサ、じゃあこのアンクレットは君が使ってくれ。私には使えないものだし、ロサが持つ方が相応しい」

「ええっ! いいの?! 貴重なものなんでしょ?」

「いいさ、私の背中を守ってくれるんだろ?」

「フフフ、任されたわ!」


 石動とロサはハイタッチしてから、グッと手を握り合い、笑顔で顔を見合わせた。


【作者からのお願い】


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