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貴方は神を信じまスカ?

「あの……貴方は……神を……信じまスカ?」

「え? いや……どうだろう……」


 俺は多少混む駅前の道を歩いていると、金髪で目鼻立ちが整った30台くらいの男性に話しかけられた。

 顔が普段から笑っているせいか、よく外国人にも道を聞かれる。

 その為に反応してしまったのだけれど、それは間違いだったかと後悔してしまった。


「そうなんでスカ!? 神はとても素晴らシイ……。いつも我々を守ってくれていマス……。貴方は優しそうな雰囲気をしていマス……。きっと霊にも憑かれる可能性が高いデス……。是非一緒に私達と一緒に居まショウ……」

「あ、いえ、そういうのは結構なんで」


 俺はそれだけ言うと足早に立ち去る。


「たく……。何なんだ……人が霊に憑かれやすいとか……」


 これまで人生の20年。

 一度も幽霊を見たことはない。

 勿論、そういった場所に行ったことすらないのだけれど……。


 それから大学へ行き、何時ものオタクの友人達と会った。


 オタク友達はちょっと太めのA、ガリガリで厚底メガネをかけたBだ。

 一番最初に会った時からなんとなくこいつは同類だ。

 そう思って3年間一緒に過ごしてきた。

 その時の思いは間違っておらず、大学に入ったのはこいつらと遊ぶためだった。

 そう思うほどだ。


「よっす俺氏。最近の調子はどう?」

「どうもこうもないよ。さっき変な宗教の勧誘にあってさ……」

「本当でござるか? それは大変だったでござろう」

「まぁ、興味ないって言ったら直ぐに引いてくれたから問題なかったんだけどさ」

「気を付けるといいよ。俺氏はなんだかお菓子を上げるっていったらほうほいついて行きそうだから」

「そんなことはしないよw」


 そんな事を話ながらだべり、昨日見たアニメはなんだ。

 エロゲーはなんだ。

 とそんな話をし続けていた。

 そこで、ガリガリのBが面白いエロゲーがあると言って紹介してきたのだ。


「それは、自分が坊主になって、霊の女の子をエッチなことをして成仏させて上げるっていうものなんでござる」


 という訳の分からないことをのたまいながらも、必死で一緒にやろうと捲し立ててくるのだ。


 最初は笑いながら聞いていた俺とAだったけれど、Bが余りにも推して来るのだから、じゃあ今夜一緒にBの家でやろう。

 そういう話になった。


 Bは大学の近くに下宿していて、それで大学からも近い。

 それに、スーパーやゲームセンター等も色々とあるので遊ぶには最高の場所だったのだ。


 それから一緒にそのゲームを楽しみ、とてもいい時間を過ごした俺達。

 そんな時に、ふとAが突拍子もないことをいう。


「お、おでたちも……。こういうことできないかな」

「はぁ?」

「な、何を言っているのでござるかA氏?」


 俺達は互いに童貞3銃士になると誓いあった仲ではないか。

 ダッチワイフはセーフが合言葉で、リアルなんてクソくらえと朝まで飲んだことを忘れたのだろうか。


 しかし、Aが言うにはこうだ。


 勿論その誓いは忘れていない。

 忘れていないけれど、相手が霊であれば別に3次元ではない。

 いわゆる霊界にいるのであれば現実世界にはいない。

 いいかえると2、5次元の所にいるのではないかと。


 ラブドールも同様に2,5次元の存在だ。

 であるならば、別に霊とそういう関係になっても俺達の問題は起きないのではないだろうか。

 ということだ。


「どう思うB?」

「否定しきれないのが辛い」

「だよな……。俺もそう思う……」

「なんなら吾輩が一番先に行かせて貰いたい」


 いつの間にかAだけではなくBも同様に乗り気になってしまっていたのだ。


 因みに、この時の俺達は深夜テンションで意味の分からない事を言っていたとは今だと思う。

 ただ、この時はそうとは思えなかったのだ。


「それでは近くの公園にいこうではないか!」


 そう言って立ち上がったのはBだった。


「公園?」


 俺とAは当然首を傾げる。


「近くには公園があるのですが、そこはかなり出ると噂のある場所なんですぞ!」

「ほう」

「では……」


 その話を聞いた俺とAはすっと立ち上がった。


 行くにしても今まで除霊なんてしたことはなく、どうやって除霊するのか。

 なんてことを考えられるほど、俺達の頭は回っていなかった。


 いかにして可愛い霊。

 自分好みのロリっ子を見つけられるか、そして、彼女が満足して成仏される前に、楽しめるか。

 そんなゲスなことばかり考えながら歩いて公園を目指した。


 深夜だった事もあり、遠くでは明かりが見えるけれど、公園に近付くに連れてドンドンと暗闇が濃くなっていく。

 それは俺といとしの霊子(仮称)の仲睦まじさを包み込むため。


 緑化のためにおかれている木々の騒めきですら、俺たちに取ってはこれから始まる宴のBGM。


 俺達3人は足を進め、その公園へと向かう。


「何か……雰囲気あるね……」


 公園に近付くにつれて少しづつ正気に戻って来ている俺がそういうけれど、残りの2人は既に愛しの霊子(仮称)とどの様なプレイをするのか。

 その事だけが頭を支配しているようだった。


「霊子(仮称)たん……。おでと一緒に……棺桶に……」

「霊子(仮称)さん! もっときつく! もっといっぱい! ああ!」

「……」


 そんな2人がいるのに一人だけ怖がっているのもなんだかバカらしくなり、俺も楽しい妄想に(ふけ)る。


 進んでいると、Bが突然止まった。

 俺とAも合わせて止まると、目の前には広大な公園が拡がっていた。


 公園と道は生垣で遮られていて、背伸びをしても見ることが出来ない。

 少し上の方から見える木々は、風がないのに台風でも来ているかのように荒れ狂っていたのが印象的だった。


 入り口から中を覗くと、一面の芝生が公園全体を覆っている。

 一応道の部分は整備されていて、歩くのはここでお願いします。

 というように作られていた。


「よし! 早速行くぞ!」

「朝まで4時間しかないからな! 少しでも楽しまないと!」

「……う、うん」


 AとBが躊躇わずにサクサクと進んでいく。

 そうやって公園の中に入り、周囲を見回しても不気味な程に静かで、明かりもスマホから照らされる明かりしかない。


 霊子(仮称)が眩しがったら可哀そうだから。

 という理由でなるべく地面を照らしつつ、俺達は歩いた。


「そういえば、この公園で出るのか?」

「いや、ここも一応そうなんですが、この奥にある……」

「ほう……。そこで我らの宴が始まるのですな」


 そんなことを話しつつ歩き続けていると、公園の中になぜか奇妙に凹んでいる場所があった。


「なんだ……? あそこ」


 俺はそこから嫌な雰囲気をバシバシと感じており、さっきまでの宴を催す等という考えは一瞬で消え去ってしまった。


 しかし、そう思っていたのは俺だけで、残りの2人はここがまさに楽園だった。


「いやあっほう!!!」

「待っててねー! スザンヌ!!!」

「待て! っていうか誰だそれ!?」


 ここは日本だろうが、という突っ込みは置いておいて、2人がさっさと(くぼ)みに降りていくので俺も仕方なくついて行く。


 そうして、降りていき、その窪地に入ると、さっきまで外で見ていた以上の悪寒が全身を駆け巡る。


 俺はスマホを持つ手をそっと見ると、その手は小刻みに震えていて、今にもスマホを落としてしまいそうだ。


 スマホ……。そうだ。スマホ!


 ここでスマホを点けて何とかこの雰囲気をごまかそう。そう思ったのだけれど。


「あれ……つかない?」


 それどころか、AとBが持っているスマホも何時の間にか明かりが消えてしまっていた。


「なぁ……」

「待ってろ! 今スマホの電気を!」

「なぁって。あれ……」

「ん?」


 俺はAの言葉でそちらに顔を向けると、Aは少し上の方をじっと凝視していた。

 釣られて視線を向けると、そこにはすさまじい形相でこちらを睨みつける鎧を着た落ち武者がいた。


「あれ……って……」

「なぁ……B……」

「なんでござるか……」


 Bも俺達と一緒に上の方を凝視している。


「ここって、何の幽霊が出る心霊スポットなんだ?」

「ここは昔大きな戦があって、それでその時に負けた武士が処刑された所でござる」

「何でそんな所を選んだんだ!?」


 戦場で女の幽霊が出る訳がないだろ!


「そこは吾輩、筋肉質な静〇前の様な方が好みですから」

「そんな理由でここに来たのかよ」


 俺がそうって頭を抱えようとした時、


「きぃええええええええええええ!!!」

「うわああああああああああああ!!!」


 正面にいる落ち武者が叫び声を上げながら俺達に向かって突撃して来る。


 俺達は悲鳴を上げながらもうさっきの気持ちなど全て消え失せ、漏らしてしまうのではないかと思うほどの恐怖を感じながら走った。


 走りながら、後ろからはがちゃがちゃと鎧が当たる音が聞えてくる。

 俺達の足が遅いからかそれとも武士の鎧が想いからか距離は中々縮まらない。

 幽霊なのに鎧で重いって……。


 そんなことを思いながらも必死で来た道を戻る。

 このままの速度で行けば何とか公園は脱出出来る。

 そう思ったのだけれど、いつの間にか出入り口には落ち武者3人が刀を構えてこちらを見ていた。


「道変更だ!」

「はいぃぃぃぃぃ!!!」

「了解ですぅぅぅぅ!!!」


 俺たち3人はとりあえず進む方向を変えた。

 この相手に突っ込んでも勝てない。

 そう思って違うルートを選ぶ。

 すると、後ろからがちゃがちゃという音が多くなった気がする。


「!」


 意を決して後ろを見てみると、そこにはさっきの落ち武者が合流して、4人で追いかけて来ていた。


「もう二度と来ないから許してぇえええええ!!!」


 そう叫んでも後ろから追いかけてくる音は変わらない。

 彼らは形相をさらに深ませて追いかけてくる。


 それから何度か待ち伏せをされてルートを変えてということを何度か繰り返す。

 ルートを変えるごとに相手の落ち武者は増えて行き、もうどうしようもないほどの数の落ち武者が俺達を追いかける。


「うぐぅ!」


 俺達は元々オタクと言うこともあり運動が苦手だ。

 そんな俺達が走り続けたらどうなるか。

 Aが地面に倒れた。


「A!」


 俺は倒れたAに駆け寄って起こそうとするけれど、彼は荒い呼吸をするだけだった。

 彼のTシャツは汗でびっちょりと濡れ、滝行でもしてきたのか。


「起きろ! 立て! 逃げるぞ!」


 がちゃんがちゃんと彼らが俺達を囲むように近付いてくる。

 このままでは囲まれてしまう。

 もしそうなったらどうなるのか……。

 そう考えると背筋が凍るけれど、ここでAをおいて行くことなんて。


「俺は先に行かせてもらう!」

「B!」


 Bはそう言って一人でまだ囲まれていない方に向かって走り出した。


 仕方ない。

 Aと俺はもうダメかもしれない。

 でも、Bがああやって行ってのは、誰か助けを呼びにいってくれたからかも。

 そう。

 きっとそうなんだ。

 そうに違いない。


 ということを思って俺はAと完全に囲まれてしまった状態を見て、嘆息する。


「はぁ……。どうしようか……」

「ぜぇぜぇ……」


 Aは荒い息をするだけで目も閉じてしまっている。

 もともと脂肪でそこまで開いていなかったけれど。


 もうだめだ。

 心の中で全てを諦めていた。

 このまま俺とAは呪い殺されるんだ。

 いや、刀のサビにでもされるのだろうか。


 落ち武者達は囲んだまま俺達に一歩。

 また一歩と近付いてくる。

 そして、俺達の距離が残り5mという所にまで来た所で、視界の端から眩い光が飛んできた。


「?」


 真っ暗な視界に慣れていたので、そちらの光が眩しい。

 何とか多くが入らないように目を細めるけど、それでもかなり眩いのだ。


 それは物凄い速度で近付いてきていた。

 丁度、俺達を目指して来ているかのようだ。


「貴方は神を信じまスカ!?」

「え?」


 どこかで聞いたことのある声と共に、ザッと何者かが俺達の近くに降り立った。


「……貴方……誰?」

「私はしがない教会育ちのKデス。率直に聞きマス。神を信じマスカ?」

「え……ええ。はい。信じます」


 ここは何としてもイエスと言っておかなければならないと思った。

「いいでショウ! それでわたくしがこの状況を解決して差し上げまショウ! 教会ソード!」


 Kさんとやらがそう叫ぶと、彼の手には黄金に輝く剣が握られていた。

 今まで一度も見たこともない剣で、ずっと観ていられるような、引き込まれてしまうような何かが存在していた。


「セリャアアアアアア!!!」


 教会生まれのKさんはそれから剣を振り回し、周囲にいる落ち武者をバッタバッタと切り倒していく。

 彼が剣を振るたびに、眩い閃光が煌めき、それに触れた落ち武者達は浄化されているようだ。


 その速度は圧倒的で、動きの遅い落ち武者達は鎧ごとなすすべもなく切り裂かれていく。


 俺はただ見ていることしか出来なかったけれど、教会生まれのKさんが最後の落ち武者を切り捨てる。

 その後、何もない空間を切り捨てると、さっきまでの真っ暗な空間はなくなり、街灯等がぼんやりと輝く公園に出てきていた。


「今のは……」

「貴方がたは霊界に迷い込んでいたのデス。もしかして、ここに入る時にそんな事を考えていませんデシタカ?」

「……いました」


 おもっくそ考えていました。

 考えていた所かマジで行こうかとか考えていました。

 すいません。


「それが原因デス。自分から近付こうとしたら相手も又近寄ってきマス。これからは気を付けて下サイ」

「はい。ありがとうございました」

「いえいえ、ソレデハ!」


 そう言って、教会生まれのKさんはどこかに行ってしまった。


 俺は呆然としていて、いつの間にか寝息をたてているAを叩き起こした。


「ふごぉ! もう食べられないのか!?」

「何を見ていたんだ……」


 それからBの家に帰る途中。『博〇の塩』を1袋丸々持ってこちらに向かってくるBと出会った。


「あ、あれ? 2人とも……?」

「ああ、B……なんか。教会生まれのKさんっていう人が助けてくれたんだ」

「そうだったのでござるか……。吾輩……もうダメかと……」

「それでも助けに来てくれたんなら嬉しいよ。そんな武器まで持って……」


 鎧に塩が効くのか? とも思ったけれど、その気持ちだけで嬉しい。

 それにサビもするか。


 しかし、今日は本当にびっくりする日だった。

 俺達はそろって家に帰りつき、そのまま眠ってしまった。



 その翌日からは普通の生活が始まる。

 ああやって助けて貰ったけれど、もうあの教会生まれのKさんと出会うこともないだろう。

 そんなことを考えて駅前を通る。


「あの……貴方は……神を……信じまスカ?」

「え?」


FIN


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