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9 森の奥の少女

「とは言ったもののな~。あ、あった」


 薬草を摘みながら、ぶつぶつと呟く。お父さんについて何度も見ているし手伝っているので、どれを摘めばいいのかは迷うことは無い。一人で家に残しておくのは心配だ、と言っていつも一緒に来ているのだ。

 しかも、家のすぐ裏。そこまで心配するような距離じゃ無い。

 だけど、そういえば前世でも小さな子どもを一人でおつかいに行かせるテレビ番組があったっけ。私もやきもきしながら見ていた記憶がある。あれと似たような感覚なのだろうか。だとしたらわからないでもないが。

 中身はともかく、外見は完全な子どもなわけだし。


 それにしても、


「こういうスローライフもいいけど、冒険者もいいんだよね。せっかくファンタジー世界に来たわけだし、すごい大冒険とかしてみたいっていうか。そういうの好きだったし、血が騒ぐのもしょうがないよね。まだちびっこすぎて無理っぽいけど。てか、今からでもなんかチート機能欲しいっすな。あ、こっちにもいっぱい生えてる」


 独り言を呟きながら、目はきちんと足元に生えている薬草を探している。この辺は、お父さんが薬作りに使う薬草が沢山生えている。どうしてここに住んだのか聞いたことは無いが、もしかして薬草作りの材料に困らないからなのかもしれない。


「お! こっちにも」


 薬草を摘むのは、なんだかすごく熱中する。

 以前子どもだった頃に一生懸命四つ葉のクローバーを探していたことを思い出す。あれって、一つ見つけるとどんどん見つかったりするものだった。

 見つけた後で本当に幸せになっていたかどうかはわからないけれど、見つけられたこと自体が幸せだった気がする。

 薬草も同じような感じだ。しかも役に立つし、何より持って帰ればお父さんが喜んでくれる。

 いっぱい摘んで帰ればあの線のような目を、更に細くして微笑んでくれるだろう。


 なんて、考えていたら。

 下ばかり見て歩いていたら。


「ここ、どこ」


 迷った。


 顔を上げたときには遅かった。

 家の近くだからと油断していた。

 見回せばすぐに家が見るからと思っていたのがいけなかった。ずっと下を向いていて、それほど移動していたことに気付いていなかった。


「どうしよう」


 遭難したら、その場を動かない。

 確かそんなことをどこかで見たっけ。動けば動くほど迷うとかなんとかかんとか。


 そこまで森の奥までは入っていないと思う。大人の背なら、もしかして家が見るくらいなのかもしれない。

 けれど、今の私は小さい子どもだ。思いっきり背伸びしても、草と木と、その間に見える空と。それしか見えない。


 手の中には薬草の一杯入ったカゴがある。

 足りない量だけを摘んですぐに帰れば問題なんて無かったのに、ついつい夢中になってしまった自分が憎い。

 お父さんが心配したのも当然だ。あのテレビ番組では無いから、もちろん見守ってくれているスタッフもいるはずがない。


「おーい!」


 大声を出してみる。もしかしたら、家にいるお父さんに届くかと思って。

 何度かやってみたけど返事は無いし、お父さんが来る様子も無い。


「意外と、歩いてたかな……」


 ふへえ、と座り込む。

 叫んだだけで、結構疲れた。たまに忘れるけど、子どもだからあまり体力が無いんだ。


「どうしよ」


 自分で大丈夫とかいって飛び出してきたのに、情けない。


「とりあえず、歩いてみた方がいいのかなあ」


 ため息を吐く。


 ガサガサ


 すぐ後ろの茂みが揺れる音がした。


「ぴゃっ!」


 私は飛び上がる。

 動物? もしかして肉食獣? それとも、モンスター?

 まだ見たことは無いけど、この世界にはモンスターもいるらしい。

 さすがファンタジー。

 森の奥には行っちゃいけないとお父さんに言われたのに。

 ああ、馬鹿な私。

 ここで死んだら、またどこかの世界に転生できるだろうか。


 茂みを睨みながらすり足でじりじりと後ろに下がる。背中を見せたら襲いかかってくるって言うし。


 茂みが割れて、その向こうにいたものが姿を現す。


「こ、ども?」


 そう、子ども。

 私と同じくらいの。


「きれい……」


 思わず私は呟いていた。さっきまでモンスターでも飛び出してくるんじゃないかと怯えていたことも忘れて。


「こんなところで、なにしてるの?」


 目の前の女の子が口を開いた。年相応の、ちょっぴりたどたどしい可愛い声。


「にん、げん? なんで、森の中に?」


 呟く女の子の、透き通るような長い髪が揺れる。成長すると美少女になるんだろうなと思える、整った顔。私のよりはちょっと目が小さいけど、清楚系美人になりそうだ。服装はふんわりとしたエプロンドレス。

 絵に描いたようなファンタジー幼女だ。

 村にこんな子いたっけ? いや、いない。見たこと無い。いたら知らないはずが無い。


「だいじょうぶ?」


 もう一度声を掛けられて、ハッと我に返った。

 思わず見とれていた。


 不安そうに私のことをのぞき込む女の子の髪が、さらさらと落ちる。そのせいで露わになった部分に目が吸い寄せられる


「え?」


 今度声を出したのは私の方。

 容姿に目を奪われていて気付かなかった。でも、確かにそれは。

 明らかに私のものとは違う、とがった耳。

 ファンタジー世界ではお約束の存在。


「エルフ!?」


 これが叫ばずにいられようか。


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