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8 お父さんは薬師で心配性

「おはよう。マーサさん! どうぞ」

「リュリューちゃん、おはよう。あら、朝食中だったのね。まだ早かったかしら」


 ドアを開けて元気よく挨拶すると、家の中に足を踏み入れながらマーサさんが言った。マーサさんは村に住んでいる腰が曲がったおばあさんだ。


「お父さんがなかなか起きなかったから」

「あらあら」


 お父さんが困ったような笑顔になる。


「リュリューちゃんはしっかり者なのに、しょうがないお父さんねえ」

「あはは、少しだけ待っていてもらえますか? すぐ朝食を済ませますので」

「はいはい、待ってますよ。今日は腰も肩も痛んでねえ。私にはクレストさんの治療が一番効くから、ありがたいよ」

「うん! お父さんはすごい薬師だもんね!」

「いやあ、それほどでも」


 私に褒められて、お父さんの目尻が下がっている。


 そう、お父さんは薬師として村人の病気や怪我を治している。マーサさんのように肩凝りや腰痛を治しに来る人もいる。

 私が今ここにいるのも多分、お父さんのお陰なんだろうなあと思う。

 何か苦い飲み物を飲まされたぼんやりとした記憶。あれは、きっとお父さんが何かの薬を私に飲ませていたんだ。

 お父さんが薬師だと知って、そうではないかと思った。

 それにもう一つ、薬を使うときに合わせてちょっとした魔法のようなものを使っている。あくまで補助としてな感じだがあれは魔法だと思う。

 なんてファンタジー!

 肩凝りとか風邪とかを和らげるだけっぽいから地味だけど。

 ちなみにマーサさんの肩凝りを治すのは、治癒魔法っぽいやつと合わせてお手製湿布っぽいやつを使っている。こっちは異世界感の無さがすごい。


 マーサさんには椅子に座って待っていてもらい、二人で手早く朝食を済ませる。


 そして、


「あ」

「どうしたの、お父さん」


 お父さんが戸棚をのぞいて顔をしかめている。


「いや、マーサさんの分じゃないんだけどね。朝のうちに摘まないといけない薬草がそろそろ切れそうなんですよ。うっかりしてました」

「じゃあ、私取ってくるよ」

「駄目です! 一人で森に入るなんて危険ですよ。庭には生えていない種類なんですから」

「大丈夫だよ。すぐそこだもん。お父さんと何回も行ったからわかるよ」


 本当にすぐそこなのだ。お父さんは心配性すぎる。愛されているのは嬉しいけど。


「クレストさんは本当にリュリューちゃんが可愛いんだねえ」


 マーサさんが笑っている。


「行ってくる! 私だってお父さんの役に立ちたいし!」


 結局しぶしぶお父さんは私を行かせてくれることになった。


「薬草を摘んだら、このカゴに入れてくださいね。ハンカチとティッシュは持ちましたか? 出掛ける前にちゃんとトイレに行っておくこと。ああ、虫除けスプレーも忘れないようにしなくては。悪い虫でも付いたら大変ですからね。それと、薬草の摘み方は……。くどくどくどくど」


 このままだとなかなか外に出られない気がする。

 お父さんが行く暇がないからと思って申し出たのだが、これでは本末転倒ではないのか?

 というか、くどくどくどくどって昔ラノベで見掛けたことある表現だ。

 ハンカチとティッシュとか、虫除けスプレーが存在しているところが、適当ファンタジーっぽいというか、その適当感が90年代っぽいというか。

 このままだとおやつは300円までとか言いかねない。


「お父さん! これじゃいつまで経っても出発できないよ-!」

「ああ、そうですね。すみません」

「全く、面白い親子だねえ。見てて飽きないよ」


 マーサさんがくすくすと笑う。


「待たせてごめんなさい。お父さん! 行ってくるね!」

「いいよいいよ。気を付けて行ってきな」

「本当に気を付けてくださいね。森の奥に入っては駄目ですよ」

「はーい。いってきまーす!」


 そんなこんなで、私はようやく家から出ることが出来たのだった。


 家の前から続く道の先に、村の入り口が見えている。私とお父さんが住んでる家は村から少し離れている。

 だからといって交流が無いわけではない。マーサさんのように治療にやってくる人もいるし、お父さんは村の人達に薬を分けることで生活している。売るのではなく物々交換がメインだ。


 で、今日私が行く方向はそっちではない。私たちの家からすぐのところにある森の中だ。


「本当に近所なんだからそんなに心配しなくていいのになあ」


 なんて思わずぼやいてしまうくらいすぐのところに薬草は生えている。

 私はがさがさと森の中に入っていく。今日は天気がいいから森の中は明るくて気持ちがいい。

 マイナスイオンで溢れている気がする。マイナスイオンがなんなのかよくわからないけど、とにかく深呼吸したくなるくらい空気が美味しいってことだ。


 転生する前は、こんな場所に来ることはほとんど無かった。住んでいたのは普通に街の中のマンションだった。生えている木といえば、公園の木か街路樹くらい。

 最初はこっちの生活に慣れなかったけれど、今は前の世界の方が考えられない。どう考えても、今の方が健康にいい。


「私ってば、本当に転生しちゃったんだなあ」


 私はてくてくと歩きながら呟く。

 ここまで成長したら、夢だったとかさすがに思わない。

 そして、思う。


「なんか、チート能力もらっとくんだった」


 元はと言えば、転生するならチートとか無い方がいいとかちょびっと思っちゃったのがいけなかったのかもしれない。大体、転生するときにも神様の存在すら見てないし。

 お父さんも糸目だからなんかすごい人だったりするのかと思ったら、未だに正体は現さないし。いい人でよかったけども(今のところは)。

 それに、異世界でのんびり生活も悪くは無い。スローライフ、いい響きじゃないか。


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