41 僕も一緒に
お父さんの容態はあの高熱を出していた時に比べたら落ち着いた。
だけど、やっぱり辛そうだ。
「私はここで療養することにしました。リュリューもここに滞在させてもらえることになりましたよ」
お父さんから言われたときは複雑な気分だった。
ちょっと前だったら、そんなことを言われたら手放しで喜んでしまったと思う。
なにしろ、エルフと一緒に暮らすなんてこんなファンタジー世界じゃなきゃ絶対無理だ。しかも、ずっと会いたかったテネリと一緒にまた遊んだり出来る。もう子どもじゃないから、かくれんぼとか鬼ごっことかはしないけど。
だけど、今はそれどころじゃない。
だって、私は知ってしまった。
魔王を倒さないとお父さんは治らない。
ということは、ここで療養していたって治ることはない訳で。
「そんなの嫌だ!」
考えただけで辛くなって思わず叫んでしまう。
「それにしても……」
私はがさごそと薬棚をあさりながら呟く。
「なんか、見たことない材料いっぱいあるなあ。ん? 何これ、ドラゴンの肝? とりあえず持っていこう」
子どもの頃から、ここは危険な薬品も沢山置いてあるから入ってはいけないと言われたい部屋がある。
何があるんだろうとずっと気になっていた。
今、その部屋で薬の材料を物色しているところだ。
仕方ない。非常事態なんだ。
お父さんはあれからエルフの里を出ていない。
私も危ないから結界の外には出てはいけないと言われていたんだけど、じっとしていることなんて出来るはずが無い。
だって、お父さんがあのまま弱っていく姿なんて見たくない。
「私がやらなきゃ誰がやる!」
ふんっと気合いを入れる。
そして、
「よし、こんなもんかな」
薬の材料は大体これで大丈夫なはずだ。
よくわからない材料もあるけど、きっと持っていれば役に立つだろう!
材料を袋に詰める。詰める。詰める。
仕組みはよくわからないけど、この袋、規定の容量までならどれだけ詰めても膨らみもしないし、重くもならない。
どうやらお父さんが旅をしていたときに使っていた物らしい。便利だから、日常生活でもたまに使っていたのだ。
「うん、全然持てる」
むしろ軽いくらいだ。
「忘れ物、無いかな? ええと、ハンカチ、ティッシュ……」
材料意外の物はもうすでに準備してある。
「こういうのって、いざ行こうとすると忘れ物無いか心配になるよね」
うんうん、と一人で頷く。
「多分大丈夫なはず! よし!」
荷物を持って、お父さんとずっと一緒に暮らしていた家を出る。
「戸締まり、よし」
鍵を確認する。
「よし、行くか」
自分を奮い立たせるように声を上げてから、もう一度家をふり返る。
転生してからずっと暮らしていた家だ。
さすがにここを離れるのはちょっぴりさみしい。
だけど、行かなくては。
と、歩き出したのはいいのだが。
「待って、リュリュー!」
声を掛けられて、リュリューはぎくりと足を止める。
この声は、
「テネリ」
この前の夜と同じく、そこにはテネリが立っていた。
しかも、今日のテネリはしっかりと鎧を着込んでいる。
ここは全力で逃げた方がいいだろうか。
これからやろうとしていることを知られたら、止められてしまうかもしれない。
「一人で行くつもりなの?」
「止めないでくれ!」
なんか、漫画の中で旅立つ人みたいなことを言ってしまった。
本当にこういう場面では言っちゃうもんなんですね。
「止めないよ」
「へ?」
「リュリュー、一人で魔王をなんとかしにいこうとか思ってるんでしょう?」
「……バレた」
しかも一瞬で。
「はあ」
テネリがため息を吐く。
「そうだと思った。スキルのこととか急に聞いてくるし、なんかこそこそしてたし」
「う」
そんなにわかりやすかっただろうか。
「そうじゃなきゃ、あんなこといきなり聞いてこないよ。あ、うん、でもリュリューなら普段でもそんな感じか……」
「おーい」
なんか、私のイメージってなに?
「というか、自分のお父さんがあんなことになっててリュリューがじっとしてるなんてありえないよ」
「あ、ハイ」
さすがテネリ。
私のことよくわかってる。
「でも、どうやって行くつもりなの? 魔王がどこにいるのか知ってるの?」
「ぐぬぬ」
言われて見れば何も知らない。
「それは、出たとこ勝負でなんとか……」
「ならないって、もう」
「うう」
だいたいこういうのって初期村で情報収集したり、道中で何か起こったりしてなんとかなるものだから! 大丈夫だと思ってた!
本当ならお父さんに聞くのが一番早かったんだけど、それは出来なかった。
あれ以上言ったら、また目が開いちゃうかもしれないし。
あのモードになったらヤバい。
本気で反対されたら、こんな風にこっそり抜け出すことも出来なくなっていたに違いない。
テネリが困ったとでも言うように肩をすくめた。
それから、言った。
「僕も一緒に行くよ」




