4 この顔は……!
「え、えと……?」
親でもない男性に抱きしめられるとか、免疫なさ過ぎてどうしたらいいかわからないんですけど。この人は、私のこの世界での親っていうわけではないんだよね?
しかも、意外と力が強い。子どもに対して、この圧迫は無いです。
「く、くるし……」
「あ、ああ! ごめんなさい。つい」
慌てて男が私を抱きしめていた力を緩めて、身体を離す。
すごく申し訳なさそうな顔をしている。悪気があったわけではなさそうだ。むしろ、めちゃくちゃおろおろしている。
「もう、だいじょうぶ」
「よかった」
男がほっと胸を撫で下ろす。それから、男の腕から解放されて再びベッドに横たわる私と目線を合わせるように腰をかがめる。
「本当に何も覚えていないんですか?」
私は、こくんと首を縦に振る。
「そうですか。ああ、でも、その方がいいかもしれないですね」
男の顔が曇る。
こんなちっちゃい子に向かって言っても、よくわからないと思っているのだろう。私が見た目通りの幼児だったら、確かに何を言っているのかわからなくて特に気にもしないだろう。
けれど、私は察した。きっと、何かがあったのだろう。あまり考えたくないような、何かが。
って、見た目通り?
そういえば、まだ私は自分の顔すら知らない。
「かがみ」
「かがみ? 鏡ですか?」
「うん、かがみみたい」
「鏡なら、そこの机の上にありますが」
「みたい!」
あまりに私が言うもので、男は別のことを察したらしい。
「大丈夫です。顔に怪我などはありませんよ」
安心させるように、私の顔を見ながら言う。
それでわかった。私は、何か事件のようなものに巻き込まれていたのではないか、と。それで、起き上がることがこんなに苦痛なのか。顔以外は怪我してるってこと?
でも、まずは自分の顔を見てみたい。
「みたい」
「わかりました。小さくても女の子ですものね。気になりますよね」
男がスタンドのような鏡を机の上から持ってきてくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
目が線だけど、笑っているのがわかる。紳士な微笑みだ。好き。
私が見やすいように、鏡を程よい角度で顔の前に掲げてくれる。
ようやく自分の顔が見られる。
はやる気持ちを抑えるように小さく深呼吸してから、鏡の中をのぞき込む。
いざ!
これで、元のままの自分の顔だったら笑えるよね。
「!!?」
で、そんなはずはなかったのである。
「あうあう」
言葉にならない。
「大丈夫ですか!? どこかに傷でも?」
男の言葉にふるふると首を振って、まじまじと鏡の中を凝視する。
鏡の中に映るのは……。
まずは、どんだけでかいんだって思うくらいの目。キラキラとした光の入った瞳。まつげは細いのが無数に生えているのではなく、目の側面に付いた数本のぶっといのがシュッとキレイに伸びて先っちょがとがっている。
鼻は鋭角で線が太い。
口は……、ちょっと開けてみる。でかい。こんなに口開く!?ってくらい開く。うんうん。ほどよいカーブがまたいいですね。
髪の毛はには、なんかいい感じのハイライトが入っている。ギザギザのやつ。髪の毛自体もとがってる。あ、束の先っぽがね。大きな束がいくつかあって、これって固まってるの?
顔の輪郭はまだ幼女だからなのか、むちょっと潰れ気味だ。ロリっぽい顔の形だと言えるだろう。
ほっぺたに出ているしゃしゃっと描いたような線も懐かしい感じだ。最近あんまり見なかったけどやっぱり好きだ。
全体的に輪郭線は濃い。だが、線の強弱でメリハリがついていて、頬なんか特に適度な柔らかさを感じさせてくれるところがまたいい。
影の付け方は、パキッとしているという表現をしたくなる。なんというか、最近のアニメではあまり見ない、くっきりとした塗り方だ。
あ、アニメって言っちゃった。
色は、ビビッドな配色。とにかく明るく見える。
なんというか、これは……、初登場時のめちゃくちゃ気合いが入った作画ってやつだ。
ちらりと横目で男の顔も確認する。
やはり、同系統だ。同系統の顔をしておる。
目が線だし、一人見ただけでは判断しかねたのだが……。
私の顔の造作を見るに、
「めっちゃ90だいあにめのきゃらでだ!!」
やっぱり! 私は! こういうキャラが大好きだ-!
好きだ! 好きだ!! 好きだー!!!
はい、90年代アニメのキャラデだ!! です。ひらがなだとわかりにくいですね。
落ち着いて深呼吸。
すーはーすーはー。
では、失礼して。
私の青春時代!
見ただけで懐か死しそうな、ドンピシャな時代の!!
この顔が、私の顔だとー!?
まだ成長していないから、幼女顔だけど。成長したらめちゃくちゃかわいいヒロインになるんではないんですかね。
いや、今でもめちゃくちゃかわいいんですけどね?
「どうしました? 突然わけのわからないことを叫んで、大丈夫ですか? やはり、意識もおかしくなっているのでしょうか。それとも、熱が?」
男が鏡をベッドの上に置いて私の額に手を当てる。
「あ、あう。だいじょぶ、でち」
です、って言おうとして、でちになった……。
恥ずかしい。リアルでこんなことあるんか。
やっぱりまだうまく言葉が出なくてたどたどしくなる。
「そうですか?」
さっきからこの人に心配を掛けてばかりだ。申し訳ない。
で、そういえばこの人、誰なんだろう。