31 しかしまわりはかこまれてしまった
私は目を閉じた。死ぬ瞬間に何も見えないのも怖いけど、目を開いてて全部見えちゃうのもやっぱり怖い!
ここで死んだらもう一回転生できるんだろうか。いやいや、そんな都合のいい話はきっとないと思う。だとしたら、私、ここで終わりかな……。
ああ、もう少しここで生きていたかった。せっかくファンタジー世界に転生したんだから、冒険したり魔法使ったり魔王倒したり、色々やりたかった。
それに、お父さん。ここまで私を育ててくれたお父さんにもっと親孝行もしたかった。前の世界でもろくに出来なかったのに、ここでもかよ! 今だって私がお父さんを助けなきゃいけないっていうのに!
こんなところでモンスターに襲われてる場合じゃないのに!
あそれにしても、なかなかなんの衝撃も無い。どうなった?
よくわからないまま死んだ?
死んだ?
死ん……
「こんなところで死ねるか-!」
私はカッと目を見開いた。その目に映ったものは、
『ミス』
カタカナの表示。
????
ゴブリンが振り上げたは私ではなく、かなりズレた場所の地面を叩いている。
「ええと?」
ゴブリンが待機状態のような体勢になる。続けて襲ってくるような様子は無い。なんか、すごく見覚えがある。見慣れているのはゲーム画面の中って話だけど。
そして、
『ピコン』
場違いな電子音と同時に私の目の前にメッセージウィンドウが表示される。
「は?」
→たたかう
くすり
どうぐ
にげる
えーと。
戦うって言っても私、今丸腰なんすけど。え? 拳で?
せめて、どうぐ? くすり?
それって、一緒なんじゃないの?
別にする意味ある?
てか、コマンドバトルなの? この世界。
だが! 悩んでいる場合ではない!
悩んでいたら殺られる!
酒は飲んでも飲まれるな!
バトルは勝っても勝たれるな!?
というわけで。
これは、普通にポチッとやればいいのかな?
ポチッとな。
→どうぐ
→アメ
あー、ポケットにおやつとして入れといたやつね。
それしか入ってないわ。
「って、これでどうしろと!?」
かくなる上は!
→にげる
『しかしまわりはかこまれてしまった』
「だー! 全然囲んでないじゃん! 昔から思ってたけどさ! 逃げるコマンド選んだとき数が多いならともかく、一匹とか二匹でどうやって囲んでんだよ! っていう疑問! あいつら普通に離れたとこで立ってるだけじゃん! 大事なことだから二回言うけど! 全然囲んでないじゃん!!」
それなのに逃げられない。
謎戦闘フィールドが発生してて、逃げられない!
『まわりはかこまれてしまった』ってこういうこと!?
つーか、ゲーム適当に混ざっちゃってない!?
「ちょ! どうすればいいんだ、これ」
顔を上げてゴブリンの方を見る。
「ん? んん?」
今気付いた。
もう一本ゴブリンの上にゲージが見える。
「えーと、あれは……」
あ、ゴブリンロードの方のが今まさに溜まりそう。さっきの襲ってきたゴブリンのはまだ少ない。
「てことは」
私は頭の上にあるゲージを見てみる。
「あ、MAX」
ということはですね。
「これって、行動ゲージみたいなやつなんじゃないの?」
ゲームによって呼び方が違ったりするけど、行動ゲージとは!
ゲージが溜まると、そのキャラが行動できるというものである。キャラによって、すばやさが決まっていてすばやさが高い順番に戦闘中の行動順が決まる。行動の順番が回ってくるとコマンドが入力出来るわけだ。攻撃したり、道具を使ったり、魔法を使ったり、そういうのだね。
職業やジョブなどと言われるものや、ステータス、あと装備の重さなんかですばやさは決まる。
さっき攻撃してきたゴブリンは軽装だったからすばやさは高かった。ゴブリンロードの方は重装備な分だけ行動は遅い。
そして、私はその中間だったと考えられる。
そんでもって、さっきのゴブリンは思いっきり振りかぶっていたことを考えると、クリティカルとか会心の一撃みたいなものを出そうとしていて、ミスしたと思われる。ああいうのって当たると痛いけど、その分ミスしてダメージゼロになることも多いんだよね。
助かったわ~。
「って、助かってない!」
ゴブリンロードのゲージがMAXへと近付いていく。
「え、これ、今度こそ死ぬ?」
ゴブリンロードの方は、棍棒じゃなくてちゃんと剣と盾なんか持ってるし。ですよね~、ロードですもんね~。
クリティカルとか出なくても充分一撃で私のことなんか葬り去れそうではある。
それにしても、なんでこんなところにロードが?
まあ、ゲーム的にはそこまで深い意味は無くてちょっと強いゴブリンにそういう名前付けとくか、ってことが多いんだけども。普通のゴブリンの方と色違うし。
逃げるを一回使ったせいで、私の行動ゲージはまだ溜まっていない。それも失敗しちゃったわけだが……。
てことは、再びゲージが溜まるまで逃げることも出来ないわけだ!




