23 ハンドパワーです
駆けつけたお父さんは地面に落ちている私を見て顔色を変えた。
「リュリュー!」
「お父さ~ん」
正直、お父さんの顔を見て涙が出そうにほっとした。
一生懸命走ってきたのか、テネリは肩を上下させて息を切らしながらお父さんの後ろに立っていた。
って、だからほっとしてる場合じゃないんだって。お父さんにエルフのことがバレたら大変なんだって。
「見せてください」
私の心配をよそに、お父さんはさっとかがみ込む。今はそれどころではないってことか。
「うぎゃ」
足に触れられて、私は悲鳴を上げる。
「……痛い」
「ごめんなさい。少し辛抱してくださいね。ああ、これは折れてますね」
「え」
言われたら急に我慢できないくらい痛くなってきた。
これ、お父さんの薬で治るようなものなんだろうか? だって、肩凝りとか風邪とかそういうの治してるのしか見たことないし。
そういえば、昔って骨折なんかしたらどうしてたの? 泣きたい。
「仕方ありませんね」
お父さんが私の足に手をかざす。なんだろう。光ってる?
こんなの初めて見た。
ぼんやりと骨折した場所が温かい。これはもしや、治癒魔法!? あっという間に治っちゃうやつ!? 薬の補助に使ってるやつじゃなくて!?
と、思ったのだけれど。
「くっ、やはりダメですか」
お父さんが呟く。やはりって、何が?
そして、お父さんは肩を落とした。
「これは、しばらく安静にするしかなさそうですね」
うん、まあ、そうだと思っていたから覚悟は出来てる。
だけど、
「今のって、何?」
気功かなんか? いや、むしろハンドパワーか……! Mr.クレストみたいな。
「ああ、治癒魔法です」
「ええ!?」
「けれど、どうやらリュリューは治癒魔法が効かない体質のようなんです」
「そんなのあるの!?」
「とても珍しいですけどね」
「……そうなんだ」
それにしても、骨折するくらいのケガを治せるほどの治癒魔法が使えるなんて知らなかった。てっきり簡単? なものだけかと思ってた。だったら、いつも作っているような薬っていらなくない?
ケガが治せるくらいなら、肩凝りだって風邪だってもっとぱぱっと直せちゃうんじゃない?
私には効かないみたいだけど……。
「まさか、ここまで効かないとは。成長すれば消えるものかとも思っていたのですが……」
お父さんがぶつぶつと呟いている。治癒魔法が効かないっていうのは、そんなに珍しいことなんだろうか。
「それなら、とりあえず添え木をして家まで連れて行くしかないようですね」
「あ、あの、僕、手伝います」
おずおずとテネリが手を上げている。
「ああ、助かります。真っ直ぐな枝を用意してくれると助かります。これくらいの長さで」
「わ、わかりました!」
お父さんの説明を聞いてテネリが駆け出す。
私はと言えば、痛みを堪えて転がっていることしか出来ない。
「念の為に持ってきた薬を塗っておきましょう」
そう言ってお父さんは骨折した箇所に薬を塗ってくれる。
「い、痛っ」
「ごめんなさい。大丈夫ですか? そうでした。飲み薬です。痛み止めも入っていますから」
ポケットに入れていたらしい小瓶を出して、私の口に近付ける。
「あまり美味しくはないかもしれませんが、飲んでください。先にこちらにするべきでしたね」
小瓶から薬を飲む。自分で飲めるのにな、なんてちょっとだけ思う。だけど、お父さんがこんなことをしてくれるのは病気になっているときくらいだから今は甘える。
「少し時間はかかりますが、段々効いてきますからね」
「うん」
その辺は前の世界で痛み止めはよくお世話になっていたのでわかる。だけど、前の世界の薬よりもお父さんの薬の方が効く気がしている。
それってもしかして、ものすごい魔法の力が働いているからだったの? お父さんの腕がいいのももちろんあるって知ってるけど。
その後、テネリが持ってきてくれた枝でお父さんは手早く私の足に添え木してくれた。なんというか、これは前にいた世界と変わらない感じ。
そして、一通り処置を終えて落ち着いたお父さんは顔を上げると、
「おや?」
テネリを見た。
あ、耳、しっかり出ちゃってる。
「あ、あう、えと」
私のことを心配そうに見ていたテネリもようやく状況に気付いたようで、もじもじとスカートをいじっている。
「あー、ええと」
私が何か言わなくては。ちょっと耳がとんがってるんだよーとか、すごく可愛い子でしょーとか言って誤魔化せないだろうか。
「よく見たらあなた、エルフじゃないですか」
って、今まで気付いてなかったのか。お父さん。
ここはずっこけるところだろうかと思うのだが、私のことが心配すぎて全く他のことを見ていなかったと思えばなんかくすぐったくもある。
「そうですね。色々言わなければいけないことはあるでしょうけど、まずは、リュリューのことを知らせてくれてありがとうございます」
そう言って、お父さんは微笑んだ。




