22 イモムシころころ
「あ、痛たたたたた……。って、生きてる?」
私はべたんと地面に落ちたまま、落ちてきた方を見上げる。
正直、また死んだと思った。が、どうやらそこまで高い崖ではなかったらしい。
「リュリュー! リュリュー!!」
テネリの声が聞こえる。
「テネリ―! うぎっ、痛っ」
大声を出そうとすると身体に響く。これは、もしかして……、どっか怪我してる?
転がったままで恐る恐る自分の身体へ視線を向けてみる。
見たところそんなに大怪我をしているようには見えないけど……。
「ん、よい、しょ」
起き上がろうとすると、
「ぎゃー! 痛い! なにこれ、なにこれ!」
「どうしたの! 大丈夫!?」
私の叫びに、崖の上にいるテネリが心配そうな声を掛けてくる。
「すぐ行くから待ってて」
テネリの顔が崖の上からのぞく。見慣れた顔が見えて少し安心する。けど、これ、捻挫かな、それとも足折れてる?
とにかく、痛いです。助けて。
しばらくして、テネリが息を切らしながら走ってくるのが見えた。崖を滑り降りてくるなんてことはなく、少し回り道して安全な道からやってきたようだった。アニメなんかだとざざーっと下りてきたりするが、もちろんテネリにも怪我なんかしてもらいたくない。回り道は最良の選択だ。
「ううー、テネリ~」
「リュリュー! とりあえず、無事でよかった」
「あんまし無事じゃない……」
「ええ!?」
「動けなさそう……」
こういうときって確か無理に動いて悪化させるとよくないんじゃなかろうか。骨折なんか前の世界ではしたことないから知らないけど、もし折れてたら結構な期間(何ヶ月とか)ギプスで固めたり、安静にしてたりしなきゃいけないはずで。
「あうう。どうしよう。ぼ、僕が背負って家まで連れて行けるかな……。ええと、ええと」
テネリが青ざめている。
ううむ、どうしよう。って、そうだ。
私のお父さん薬師だった。怪我の治療とかしてるわ。
「テネリ、私のお父さんを呼んできてもらってもいいかな。お父さんならきっとなんとか出来るから」
「え、そっか! リュリューのお父さんなら。ちょっと待ってて! 僕、行ってくる」
テネリが走り出そうとしてから振り向く。
「絶対に無理して動いちゃダメだからね。そこで待っててね」
「うん」
テネリが見えなくなってから、ほうっと息をつく。お父さんが来てくれれば大丈夫だ。
お父さんなら私のことおぶって家まで連れて行けるし、うん。
大丈夫……、だいじょう、ぶ?
「テネリ―!」
思わず私は叫ぶ。テネリからの返事は聞こえない。
慌てて走って行ったから、もう声が届かない範囲に行っている可能性が高い。ゲームじゃないからチャットとか飛ばせないし! 心に直接語りかけたりとかも出来ないし!
エルフが人間の前に姿を見せちゃいけなかったんじゃなかったっけー!?
骨が折れてるかもって気が動転していて失念してた。
「う、うう」
テネリの後を追おうにも立ち上がれない。
こんなことになるなら、ちゃんと足元を確認して慎重に歩けばよかった。
私の馬鹿馬鹿馬鹿。
これでテネリと遊べなくなったらどうしよう。エルフの里が大変なことになったらどうしよう。
お父さんなら、『あ、エルフのお客さんですか~。珍しいですね』なんて普通に対応しかねないけど。偏見とか無さそうだけど。
そんな都合のいい展開は無いだろうか。
「あ゛~~~~~~!」
動けないのはもどかしいものである。
今の私にはお父さんとテネリが戻ってくるのをイモムシみたいに転がって待つことしか出来ない。




