21 おおきくなったらなにになる?
「でねー、お父さんに薬草の知識とか教えてもらうことにしたんだ!」
「え、そうなの!?」
「意外?」
「あ、えと、ううん。リュリューのおお父さんは薬師だって言ってたもんね。だから、ここにも薬草を採りに来てるんだよね」
「そうだよ。忘れてた?」
一緒に冒険者になろうと言った手前、何をしているかは話した方がいいかと思ったのだが、私が薬師になるのはそんなに意外だろうか。
「あ」
私はぽむん、と手を打つ。
「もしかして、テネリもヒーラー系になろうとしてた? だったら被っちゃうよね。そしたらパーティーのバランスが悪いか……」
「違うよ。そうじゃなくて」
「だったら、どしたの?」
「うん、あのね。リュリューのことだからもっと前衛系の戦士とかになりたいって言い出すかと思ってた」
「あ、私に守られたかったとか?」
「ちちち、違うよ! 想像したらかっこいいかもしれないけど、うん。かっこいい、かも……」
一体何を想像しているんだろう。
確かにパーティーの花形は戦士だと思うし勇者だって戦士系がなるものだけど、チート能力も無く、転生前に運動神経が悪かった私がなれるとも思えない。
ゲーム内ではわりと好きだったんだけど。
だから、現実的に考えて今の私が冒険者になるために出来そうなことって薬師になることなんだよね。それに、薬草を摘むのも結構好きだしお父さんがやっていることをずっと見ていたらいいなと思えてきた。
なんかあったときすぐ自分で対応できるのもいいと思うし。
前衛の仲間は集めればなんとかなるよね、と前向きに考えることにする。
転生したばかりの時に見た酒場。ああいうところで募集も出来るんじゃないだろうか。
「でも、よかった、かも。リュリューって突っ走るタイプだし、前衛なんかになったら心配だから」
テネリがほっとしたように言う。
って、そんな風に思われてたのか。
いきなり冒険者になりたいとか言い出したりしたし、無理もないか……。
「で、テネリは何を目指すの?」
「え、うーん。そんなのいきなり聞かれても……」
「そっか、そうだよね」
そんなにすぐ決められるはずがない。
何がいいだろう。
エルフだから弓使いとか?
エルフといえば弓使いってなぜかイメージが付いている。アニメとかでよくあるもんね。でも、テネリがそんなの使ってるとこ見たことないけど。
それとも動物使い?
テネリは優しいから、すっごく似合う気がする。動物と戯れているところを想像するだけで……。うん、可愛い。
いや、それって動物使いじゃなくてただの動物好きなのでは?
「で、リュリュー。そろそろ薬草集めなくていいの? 今日は話したいことがあるからって、先に座り込んじゃったけど」
「あ! そうだった! いつもの癖で後は帰るだけだと思ってた!」
思わず妄想が止らなくなっていた。
「もう、リュリューってば」
困ったようにテネリが笑う。
そんなわけで、ガールズトーク? に花を咲かせていた私たちはようやく動き出したのだった。
のだが。
慌てて集めなくては、と思うときに限っていつもはすぐに見つかる薬草がなかなか見つからない。テネリに任せればいいとは思っているが、薬師になると決めた以上自分でも頑張りたい。
で、頑張っているわけだが今日は調子が悪い。あんまり見つからないので、いつもなら入らないようなところにも足を伸ばしてみたりする。
「リュリュー、どこ?」
探すのに夢中になっていたところに、テネリの声が聞こえた。思ったよりも、テネリの声が遠い。いつの間にか距離が離れてしまったようだ。
「ここだよー」
かがんでいた身体を伸ばしながら返事をする。
そして、
「え、そっちは!」
テネリの慌てた声が聞こえたのと、がくりと足を踏み外したような感覚があったのは同時だった。
「え」
身体が傾く。
「あれ?」
宙に放り出される。
あ、空が青い。
テネリがこっちに走ってくるのが視線の端に見える。
足元を確認するのなんて忘れていた。薬草を探すことだけに夢中になっていた。焦っていつもと違う場所に足を踏み入れたのが行けなかった。
私のいた場所のすぐ横が崖になっていたなんて。草が茂っているせいで気付かなかった。今の私は遠くまで見通すことが出来ない、小さな背しかない子どもなのだから気を付けなくちゃいけなかったのに。
私はテネリに手を伸ばす。
テネリは必死で走ってくれているのに。
遠すぎて届かない。




