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15 唐突に真実

 というわけで、トリップしまくっていたわけだが。


「どうしました!?」


 気付いたら、お父さんが私の額に手を当てていた。目はもう、いつもの糸目に戻っている。


「熱っぽいですね。帰りましょう」


 お父さんの広い背中が目の前にある。おんぶする、という意味だ。

 ここで駄々をこねていても仕方ない。私はお父さんにおぶさる。

 あったかくて、優しい背中だ。

 お父さんが歩き出す。その歩みでゆっくりと揺れるのが心地いい。

 いつものお父さんだ。


 目が開いたことにびっくりしすぎてそっちに気を取られていたが、どちらかといえばお父さんが私の言ったことにあそこまで反対したことの方が驚くべきことだったのかもしれない。

 この世界で冒険者になりたいなんて言い出すのは、娘がアイドルになりたい! と言うようなものだろうか。それだったら「お父さんは反対だ!」になるのもわかる。

 アイドルより命の危険がある分もっとヤバいのかもしれない。

 蘇生魔法とか、この世界で聞いたことないし。死んだら死にっぱなしなら、冒険者は結構危険な職業だ。


「どうして、あんなことを言い出したんです?」

「どうしてって……」


 冒険はファンタジーの醍醐味だから? などと言っても伝わらない気がする。


「もしかして、覚えているのですか?」

「覚えて、いる?」

「私と出会う前のことです」


 急な話の飛びっぷりに訳がわからなくなる。

 それはお父さんがずっと話してくれなかったことだ。ふとしたときに話に出そうになると口に出してはいけないような雰囲気になっていた。

 気にはなっていた。だけど、ずっと聞けなかった。

 今の一連の流れが、何か関連のある話だったのだろう。私にはわからなかったが、お父さんにとってはそうだったと思わないと辻褄が合わない。

 今なら聞けるだろうか。こんな展開になるとは思わなかった。

 私が親と死に別れているのではないか、というのはなんとなくわかっていた。後は、それがどうやってということだけだったのだが。


 なんだか空気が重い。村の喧噪は少しずつ遠ざかっている。


「お父さん。覚えているって、なに? あの暗い場所のこと?」


 私はとても暗い場所で目を覚ました。そこに光とともに現れたのが、お父さんだった。


「ああ、覚えていたのですね」

「あそこは、なに? どこだったの?」

「思い出さなくてもいいんですよ。あなたは明るく伸び伸びと育ってくれました。だから、もういいんですよ」


 穏やかにお父さんは言う。


「私、知りたいよ。知らないままなのは嫌だよ。思い出さなくていいって、なに? 私に何があったの?」

「……リュリュー」


 お父さんが立ち止まる。もう周りに人影は無い。あるのは木々のざわめきだけ。


「本当はもっとあなたが大きくなってから話すつもりでした」


 お父さんは空を仰いだ。

 降ってきそうな星空。


「リュリュー、私はあなたが本当の両親の敵を討つ為に冒険者になると言い出したのではないかと思ったのです」


 悲しそうな声だった。


「……仇」

「そうです。あなたの両親は、モンスターに殺されました。あなただけは助けようと思ったのでしょうね。私は、戸棚の中に隠されていたあなたを見つけたんです」

「……お父さん」

「そのモンスターたちは、もういません。その後、すぐに討伐し……、されました。だから、リュリューが冒険者になって仇を討ちたいと思うなら、もうその必要はありません」

「……」

「でも、私が……、私が間に合っていれば……。あなたの本当のご両親は殺されずにすんだはずで……。あなたは、きっとご両親と一緒に幸せに……、そして、本当の名前で呼ばれていたはずなんです。そう、あなたの本当の名前は、もうわからないのです。リュリューは私が付けた名前で……」


 お父さんは、泣いているのだろうか。

 ぎゅっと、お父さんの肩に回す腕に力を込める。お父さんの肩に顔を埋める。

 勝手に涙が出る。言うべき言葉が見つからない。

 だけど、それは。


 こんな話、しなければよかったのだろうか。

 私が冒険者になりたいだなんて言わなければ、ただの楽しい一日だった。今までと何も変わらない、仲良し親子でいられた。私が本当のことを知りたいなんて言わなければ。


 本当のことは知りたいと思っていた。だけど、お父さんを傷つけたいわけじゃなかった。


「すみません、リュリュー。私は……」


 お父さんの声は震えていた。


「私は、あなたの本当の父親ではないのです」


 知っていた。

 でも、お父さんは私がお父さんのことを本当の父親だと思っていると、ずっとそう信じていた。それを否定するのは、私に伝えるのは、きっととても辛いことで。

 真実を話すお父さんの声は震えていた。


「ごめんなさい、リュリュー。やはり、まだ伝えるべきではありませんでしたね。忘れているのならそのままでいいと、私は思っていたのです。だけど、真実を知りたいと言われたら、ずっと隠しておくことも……」


 私はぐりぐりと、お父さんの肩に涙をこすりつける。

 それから言った。


「下りる」

「……わかりました」


 お父さんが私を地面に下ろす。お父さんの悲しげな顔が見える。


「しゃがんでくれる?」


 お父さんは素直にその場にかがみこんでくれる。

 同じ目の高さになったお父さんの胸に、私は飛び込む。背中に腕を回す。子どもの腕では短すぎて、抱きしめるには全然足りないけれど。


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