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14 目がー!

「魔王っているんだね!」


 もう恥ずかしいなんて通り越しているから、でっかい声で言ってしまう。だって、舞台上の勇者と話しちゃったんDA☆ZE!

 それに周りも盛り上がった後の興奮でざわざわしている。

 私も例に漏れず、興奮しまくっているわけだが。

 魔王に勇者!

 ファンタジー世界のお約束ワードを聞いて興奮するなという方が無理だ。

 魔王なんかいるにしては、ここは平和だけど。


「おや、知らなかったのかい?」


 答えてくれたのは、お父さんではなく隣にいた知らないおじさんだった。


「知らない」


 ふるふると私は首を振る。


「うん、もう何十年も昔の話だからね」

「そうなの?」


 私が首を傾げるとおじさんが笑った。


「だから、怖がらなくてもいいんだよ。とは言っても、まだ残っているモンスターが時々現れるなんていう話も聞くけどねえ。魔王がいなくなってからはおとなしいものだよ」


 てことは、すでに魔王は倒されているということか。

 ちっ。

 せっかくファンタジー世界に転生したんだから、魔王を倒すのもいいかなと思ったのに。

 魔王を倒すのはファンタジーの醍醐味でしょ! 王道でしょ! そんでもって、最終決戦の前に「お前にこの世界の半分をやるから仲間にならないか」とか言われるやつでしょ!


「ありがとうございます。説明して頂いて」

「いやいや」


 お父さんは私が落ちないように、ぺこりと頭だけを下げている。本当なら私がお礼を言うところだが、ちょっと言葉が出ない。

 魔王がいるとわかった直後に、すでにいないという事実を突きつけられるとか。ラスボスがすでに倒されているゲームを始めたようなものではないか。

 魔王がいないと教えてくれたおじさんは手を振って行ってしまった。


 別に魔王を倒すだけがゲームの楽しみじゃないんだけどね。でもね、いるといないじゃ大違いだからね。

 でも、危険が少ないならそれはそれで旅がしやすいかもしれない。

 のんびり暮らすのも悪くないけど、せっかくファンタジーっぽい世界に転生したんだ。こんな小さな村で一生を終えるのはもったいない。広い世界だって見てみたい。

 冒険者ってやつ?

 そういう人ってこの世界にいるのかな?

 お父さんは旅人だったみたいけど……。


「って、そうだ」


 思い出した。


「いたじゃん」


 私、冒険者っぽい人達見たことある。この世界に冒険者は、いる!

 お父さんに助けられたあの日、泊まっていた宿屋でそれっぽい人達を見た。あの辺の記憶はぼんやりしていてうろ覚えだったけど、いたわ!


「どうしたんです? ぶつぶつ言って」

「お父さん。私、冒険者になりたい!」

「はあ!?」


 お父さんが素っ頓狂な声を上げる。

 劇が終わった後の興奮したざわめきよりもでっかい声で。

 そりゃ、自分の娘(実の娘ではないけど)が突然冒険者になりたいなどと言いだしたら驚かない親はいないだろうと思うが。

 けど、前の世界で言い出したら頭おかしいとしか思えないけど、きちんと冒険者がいる世界なんだからそんなにおかしくはないと思うんだけど。

 もしかして……、おかしいの?

 それなら、まあ、おかしいついでに、


「ええと、本当は魔王を倒したかったんだけど、いないなら冒険者になろうかなって……」


 つんつんと両手の人差し指を合わせて、もじもじポーズを取ったりなんかしながら言ってみる。


 その瞬間、空気が凍った。


「駄目です! 絶対にいけません!!」


 えっと、周りの人がこっちを見ちゃってるよ。

 お父さんが肩車していた私を地面に下ろす。なんだかんだと、下ろしてくれるその手は優しいのだが。


「お、お父さん?」

「冒険者なんて駄目です。ましてや、魔王なんて!」


 お父さんのこんな真剣な声は初めて聞いた。

 それよりも、それよりも……。

 これ、大丈夫?

 ねえ、本当に大丈夫?

 まさか、こんなことで?

 すごい封印が解かれて魔王が復活したりとか、物語が終わったりとか、しない?

 天変地異レベルだよ?


 だってさ。

 びっくりするでしょ。


『お父さんの目が! 目がー!』 


 と、叫び出したかったところなのだが。

 あまりに衝撃的な出来事があると人って声も出ないものなんだな、と他人事のように思ったりして。


 そう! お父さんの目が! 開いているのだ!

 それも、しっかりと私のことを見据えて。

 線以外の目、あったんですね。お父さん。

 というか、何かが封印したりされていたわけではなかったんですね。


 で、お父さんは何を話しているんだっけ?


「絶対に許しません」


 あ、私が冒険者になるって話だっけ。

 お父さんの目が開いたことにびっくりしすぎて、それどこじゃなくなってた。


 思ったとおり、イケメン、でした……。

 少し垂れ気味で、細くて切れ長の目の……。

 ギャップ、萌え……。

 モブ顔じゃないな~、とは思っていたけどこれほどとは……。

 ありがとう、神様。

 

<完>


 ハッ!

 思わず、物語が終わるところだった!

 危なかった。


 しかも、まさかまさか、目が開く理由が私が冒険者になるって言い出したのを止める為って!

 親バカか!

 意外性の塊か!

 最高か!


 動悸息切れが激しくて倒れそうです。

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