13 異世界ヒーローショー
小学生の時に演劇鑑賞なんていう名目で、劇団の人が来て体育館に集められてみんなで劇を見た記憶が蘇ってくる。いつもは校長先生や他の先生たちが長い話をしている見慣れた場所が、その時だけ特別な場所なる不思議な感覚。
素朴な劇だったような気がするのに、子どもの私は見入ってしまった。魂が別の世界へ連れて行かれた。
ステージで始まった劇は、そんな思い出を呼び覚ますようなものだった。
素朴だけど思わず引き込まれてしまう劇。
前の世界で見たものよりも、もっと衝撃的だったかもしれない。
だって、テレビも何も無いんだよ。そんなところに突然、劇なんて見せられたらどうなるか考えてもみてほしい。
なんだかもう、感動で震えてしまう。
それは私だけじゃないみたいだ。周りの人達もお祭りみたいに騒いでいたのがいつの間にか静かになって、みんな同じように目の前で繰り広げられる劇に釘付けになっている。
今ステージにいるのは、モンスターに悩まされている農民たち。この人たちの衣装自体は普通なのに、台詞回しが役者のものでお芝居を観ているんだなあという気分にさせてくれる。
「大丈夫ですか?」
小声でお父さんが私に声を掛けてくる。
「? 大丈夫だよ?」
子どもだからじっとしていられないとでも思ったのだろうか。
「なら、いいのですが」
お父さんが心配そうな顔を私に向ける。どうしたんだろう。
でも、今は舞台の方が気になる。
モンスターが農民たちを襲ってる。ピーンチ!
ここはあれだね。解説のお姉さんと一緒にみんなで元気よくヒーローを呼ぶところだと思う。
だがここにはお姉さんはいないし、これはヒーローショーじゃないのでそんな展開にはならない。
じゃあ一体どうなるんだと見ていると、そこに颯爽と現れたのは!
立派な鎧(当たり前だがハリボテだ)を着けて、やけに豪華な剣(こっちもハリボテ感ありあり)を持った男性。そして後ろに続くのは黒いローブをまとってうねうねした木の杖を持ったおじいさん。白いローブをまとった清楚でキレイなお姉さん。もう一人は、シーフか何かだろうか。
これは、まさかまさか?
「我こそは勇者なり!」
鎧の男性が名乗りを上げる。
ひゃー!
ちょちょちょ、ちょっと! 聞きましたか、奥さん!
勇者ですってよ!
この世界、勇者なんていたのー!?
というか、黒魔道士と白魔道士っぽい人も! じゃあ、すごい魔法があるってこと!?
お父さんの肩凝りを治すやつとかじゃなくて、モンスターを倒したり出来るやつ!?
「痛いです。痛いですよ、リュリュー」
「ご、ごめんなさい」
ヒートアップしすぎて、お父さんの髪の毛を思いっきり握っていたらしい。
「楽しそうで何よりですけどね」
それでも怒らないお父さんは本当に優しい。
「うん、すごく面白い!」
目の前ではモンスターを倒すため、勇者たちが戦っている。
観客たちは大喜びで、ぶんぶん手を振ったり、手を叩いたりなんかしながら歓声を送っている。発声上映ですね、これは。
見えないけど舞台上では魔法も飛び交ってることになっているっぽい。妄想で補おう。
役者と観客が一体になって、広場は興奮の渦に包まれる。
そんな中で、
「……それにしても、めちゃくちゃですね」
お父さんが呆れたように呟いた。
「なにが?」
「あ。い、いえ、なんでもありませんよ」
私の方へ顔を向けて、何かを誤魔化すようにお父さんが笑う。こういう顔をするときは、無理に聞き出そうとしてもこれ以上は答えてくれなくなる。意外と頑固なところもあるのだ。
何がめちゃくちゃなんだろう。
お父さんは旅人だったから大きな街とかで、もっときちんとした劇を見たことがあるとかかな?
確かに普段あまり劇を見ない村人向けにわかりやすく仕上げている感じではある。
だからこそ、盛り上がりやすくていいとも思うけど。
「では、私には魔王を倒す使命がありますので」
「って、魔王―!?」
私は慌てて口を塞ぐ。
思わず勇者の言葉に反応してしまった。
具体的に言えば、心の声が口から出てしまった。恥ずかしい。
夢中でステージを見ていたはずの人達が、私に注目している。
「そうだよ、お嬢ちゃん。私たちは魔王を倒すために旅をしているんだ。応援してくれるかな?」
……間。
ええと?
勇者(役の人)が、私を見ている?
私に話し掛けてる?
何か言った方がいいやつ?
「がんばれ。勇者さまー!」
もうヤケだ。私は手を上に振り上げながら叫ぶ。
あー、これはもう完全にヒーローショーのノリである。
そういえば、ヒーローショーを見てた頃は悪者にさらわれる子が羨ましかったっけ。あれって、さらわれてるときテントの中に連れ去られてるけど、悪のアジトがあまりに普通すぎてがっかりとかしたんだろうか。
「おー! 頑張れ勇者様-!」
「がんばれー!」
周りの人達も叫び出す。
「では、さらば!」
勇者たちがステージの袖に向かって颯爽と歩いていく。
完全に勇者パーティーが引っ込んでからも声援は続いた。




