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雨の日のお客たち  作者: 紫堂文緒(旧・中村文音)
9/18

あめのひのおきゃくたち

 しばらくすると、


「こんにちは」

「こんにちは」


 二つの元気な声が響いて、次々に走り込んできたのは小さな男の子たちでした。

 ふたりはひとつのビニール傘に入っていました。


(おや、これは、さっき、あのおばあさんに…)


  床屋さんは驚いて傘を見ました。


(いいや、そんなはずないだろう。

 こんな安物の傘、どこにでもあるんだし)


 そっとそのおかしな考えを打ち消しました。


 新しく店に入ってきた子供たちは幼稚園へ通うくらいでしょうか。

 ひとりは赤いシャツを、もうひとりは白いシャツを着ています。


「おや、また赤と白のふたり組だ」

 

 かわいいふたりのお客たちは、


「髪の毛、切ってください」

「僕も、髪の毛、切ってください」


 口々に言いながら、散髪用の椅子によじ登ろうとしました。


「これこれ、順番だよ」


 床屋さんはひとりひとりを抱きかかえて椅子に座らせました。

 あんまり仲が良さそうだから、ひとりだけ待ち合いのソファにかけさせるのもかわいそうな気がして、お揃いにしてやろうと思ったのです。

 

 タオルを首に巻き付けると、


「わあ、てるてる坊主みたい」


 白いシャツの子が歓声を上げました。


「本当だねえ」


 床屋さんは笑って相づちを打ちました。


「こんなに雨が降っていても、てるてる坊主をつるしたら晴れてくれるかなあ」

「今日はいいんだ、晴れてくれなきゃ困るのは明日なんだから」

「へえ? 遠足か運動会でもあるのかい?」


 春の遠足か、そういえば運動会も近頃は秋ではなく春にやる学校が多いと聞いています。


「遠足ってなあに?」

「運動会ってなあに?」


 床屋さんは無邪気な声に驚きました。

 遠足も運動会も知らないのか…。

 幼稚園くらいと思ったけれど、もっと小さいのかしら…。


「ところで髪の毛はどうするんだい?

 いつもはどんなふうにしているの?」

 

 ふたりの髪は伸びて、まるで女の子のようになっていました。


「全部切るの。

 そうして、こういうので…」


 片方が小さな手でバリカンを使うしぐさをしました。


「くりくりにしてほしいの」

「そう。小坊主さんみたいに」


 もう片方が付け足しました。


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