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雨の日のお客たち  作者: 紫堂文緒(旧・中村文音)
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あめのひのおきゃくたち

 ふたりが立ち去って、床屋さんは床を長い柄のほうきで掃きました。

 朝から三人の髪を切っただけなのに、結構な量がありました。

 店の隅の目の付かないところへ掃き寄せて、さて、一服しようかな、とたばこに手を伸ばしたときです。


「こんにちは」

「こんにちは」


 輪唱のように重なった挨拶が聞こえて、おばさんがふたり、店に入って来ました。


「降って来ましたねえ」

「ひどくなってきたわねえ」

 

 ふたりはまた同じようなことをくり返して、並んでソファに座りました。

 さっきの男女のふたり連れよりひと回りくらい年上の、双子か姉妹のようにそっくりなおばさん達です。

 ひとりは赤の、もうひとりは白の、色違いのスカーフを頭に被っています。


「随分、切っていなくて」

「すっかり伸びてしまって」


 ふたりは口々に言い訳しながら、揃ってスカーフを取りました。

 まるで歌舞伎の連獅子みたいだ…。

 床屋さんは口にこそ出しませんでしたが、心の中で驚きました。


「構いませんよ。

 伸びていたほうが、好きな髪形を選べますよ」

 

 そう言って取り繕うと、


「あなたからお先にどうぞ」

「あら、あなたこそお先になさって」


 被っていたスカーフを外して首や肩に結びながら、ふたりは互いに譲り合いました。

 やはり気が合いすぎるようでした。

 しばらく押し問答があって、ようやく白いスカーフのほうが、


「じゃ、お言葉に甘えて…」


と、椅子に上がりました。


「ふたりとも、前髪はこのまま眉の上で揃えてね。

 後ろの髪は、あごのところまでの長さに切ってくださいな」

 

 赤いスカーフのおばさんの意見も聞かず、白いスカーフのおばさんは言いました。

 あらかじめ相談でもしてきたみたいだ…。

 床屋さんはふと思いました。


「おふたりは双子か、でなかったら姉妹か何かで…?

 いや、とても気が合っていらっしゃるし、よく似ておいでなので」


 床屋さんが櫛の先にはみ出た毛をはさみで細かく切りながら言うと、ふたりは笑って、「そんなものよね」と同時に言いました。


「生まれた日も一緒だし、ずっと一緒に育ってきたし」

「…これからも、そうだといいんだけれど」

「…さあ、どうなるかしら」


 ふたりは急にしょんぼりしてしまいました。


「大丈夫ですよ、きっと。

 こんなに仲がよろしいんですから」


 床屋さんは慌てて言いました。

 お気の毒に、何か事情があるんだな、と思いながら。



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