あめのひのおきゃくたち
「…そうか、そうだったのか…!」
床屋さんはひとりうなずきました。
やっと難しい問題が解けたように思いました。
すると、頭の中で、あの日のお客たちが一組ずつ浮かんでは、頭を下げて消えてゆきました。
「この前来たお客さんは、みんな、植木屋さんの家の庭木たちだったんだな…」
雨の日に来たお客たちは、今度は、床屋さんの頭の中で、全員そろって並んで深々とお辞儀をしました。
「…わかった、ようくわかったよ。
そういうことだったんだね。
そういうわけだったんだね」
おそらく庭木たちは、植木屋のご主人を、長いこと手入れされていないぼさぼさの姿で送るのが悲しかったのでしょう。
それまでずい分かわいがってくれたご主人が、最期に人から何か言われるのではないかと恐れたのかもしれません。
植木屋さんが恥ずかしい思いをせずにすむように、木たちはみな、人間に姿を変え、苦労して自分の店にやって来たのです。
そうして、繁った余分な枝葉を落としてもらって、さっぱりときれいに整った姿で、ご主人の花道を飾ってあげようとしたのです。
いつも道具を労わりながらお客の髪を切っている床屋さんには、その庭木たちの気持ちが手に取るようにわかるような気がしました。
そして、元気なころ店に通っていた、頑固そうな白髪で角刈りの植木屋の親方を思い出しました。
よく、頼まれた家の木に登ってははさみをふるっていたねじり鉢巻き姿を思い浮かべました。
(あの方は本当に木や花をかわいがっていたんだな、そういう自分の仕事を誇りに思っていたんだな…)
思い返していると、床屋さんの耳に、植木屋さんの威勢の良いはさみの音が聞こえてくるような気がしました。
吹いてきた夏の気配の混じった風に、よく刈り込まれた庭の木々たちが、まるで、わかってもらえて嬉しいとでもいうように微かに枝葉を鳴らしました。
(終わり)