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雨の日のお客たち  作者: 紫堂文緒(旧・中村文音)
15/18

あめのひのおきゃくたち

翌朝のことです。

 一晩ぐっすり眠った床屋さんは、目を覚ますと大きな伸びをしました。

 やっぱり少しも疲れてなんていなくて、体中に力がみなぎっているようでした。


(昨日はよく働いたせいか、よく眠れたし、俺もまだまだ若いな。

 当分、この調子で頑張れるな…)


 そう思うととても嬉しくなって、いそいそと電気釜のスイッチを入れて、みそ汁を作りました。

 奥さんがあれから電話で、


「あんまり雨が酷いので、今晩はこっちに泊まりたいんだけれど…」


と遠慮がちに言われたのです。


「おかあさんの熱はそれほどでもないんだけれど、なんだか病気して気が弱くなっているみたいなの。

 一緒にいてあげたいのよ。

 それに、この雨でしょう。

 こんな中を無理に帰ったら、今度はわたしが風邪をひいてしまうわ」


 奥さんは困ったように言いました。


「ああ、いいよ、いいよ。

 僕のほうはどうとでもなるから。

 こんなときなんだ、たまには親孝行しておいで」


 床屋さんも気楽に答えたのでした。


 朝ご飯を済ませて、「さて、今日は休みだ。まず、昨日の分のごみを出さなきゃ」とごみ袋を見て、床屋さんは驚きました。

 いくつもの大きなビニールのごみ袋に詰まっていたもの、それは髪の毛なんかではなく木の葉だったからです。 

ちくちくした松葉があります。

 幅の広い棕櫚の葉があります。

 しゃらしゃらした長い柳の葉がもつれています。

 梅、桜に混じって、さるすべりも、それからカナメモチがどっさり。


「これは一体、どうしたことだ…」


 床屋さんははっとして、昨晩閉めた金庫の鍵を開けました。

 お金はちゃんとありました。

 木の葉に化けてはいません。

 数え直しても、昨日と同じだけありました。


「ますます、わからん…」


 床屋さんは首をかしげながら、とにかくごみを出しました。

 それから、店のソファに座って煙草をくわえ、つらつらと考えました。


(そういえば、昨日のお客さんたちは、どこか妙だった。

 皆が同じことを言っていた。

 明日、つまり、もう今日のことだが、大事な用があるって。

 だから急がなきゃならないんだって。

 ひどい雨の中を来て、傘もさしていたのに、どの人も髪が洗い立てのようにしっとり濡れていた。

 誰かにこの店のことを訊いてきたのだと言っていた。

 何より、全員が長いこと、手入れのされていない髪だった…)


 考えても考えても、それが何を意味しているのか、床屋さんにはわかりませんでした。

 考えあぐねて、ため息を吐いたとき、あ、煙草に火を着けていなかった…と気がつきました。


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