アリとキリギリスが笑うまで
あつい、夏のひるま
アリは、パンをかかえて、歩いていました
すると、草むらで遊んでいたキリギリスが、アリに声をかけます
「こんなあつい日に、なにを、しているんだい」
「冬にそなえて、食べ物を、巣にはこんでいるんだよ」
アリはこたえて、忙しそうに、通り過ぎていきました
つぎの日も、キリギリスはアリにはなしかけます
「そんなに働いて、楽しいかい」
アリは言います
「楽しくないよ」
キリギリスは言います
「楽しくないのなら、働かなくてもいいじゃないか」
「働かなかったら、冬をこせずに死んでしまうから、働くよ、キリギリスくんも働いたほうがいい」
アリはそう言って、また通り過ぎていきます
「いいさ、いいさ、冬をこせなくても、楽しく生きられるのなら、それでいいさ」
アリを見送りながら、キリギリスはそう言いました
キリギリスは遊んでくらしました
たくさん歌って、踊って、食べました
夏が過ぎ、秋になってもキリギリスは遊んでいました
やがて冷たい風が冬とともにやってくると、たくわえのなかったキリギリスは、死にました
そして冬が走り去り、春がやってきました
食べ物をたくわえて、冬をこえたアリはまた働こうと外に出ます
すると、あたりには、きれいなお花畑ができていました
「わあ、なんてきれいなんだ」
アリは言います
「キリギリスくんにも見せたかったなあ」
やがて夏がきて、秋がきて、冬がきて、それをまたこえて春がくるのをくりかえしているうちに、アリも死にました
あの世で、キリギリスが、アリに言いました
「どうだ、がんばって働いても、楽しくなかったろう」
アリは首を振りました
「いいや、そんなことはないよ」
キリギリスはききました
「どうしてだい」
アリはこたえます
「冬を越すと春になって、きれいな、花が見れるんだ、それをみると、ぼくは楽しくなる」
アリが笑ったのをみて、キリギリスも、
「そうかい、それは、よかったね」
そう言って、笑いました
太く、短く生きる
細く、長く生きる
最後に笑えるのなら、どちらでもいい