変態王子&モブ令嬢Side ダンスパーティの裏側で……の、裏側④ タクト奮闘記録
スモラの森へ着いた。ゼフィーが捕えられているという山小屋の周りを取り囲む様に、二つの騎士団を配置する。黒装束を身にまとった男達が十数人ほど、山小屋の周りを巡回している様だ。ゼフィーの姿はまだ確認は出来ない。
あの山小屋の中でレオナルドと一緒にゼフィーが居るかと思うと気持ちが落ち着かないが、安全に助け出すにはタイミングを見計らないといけない。耳を澄ませていると山小屋の中から何か物音が聞こえて来た。暫しの間、物音は続いたがあっという間にそれも聞こえなくなりまた静かになる。
シャロン家の従者によるとレオナルドは今でもまだゼフィーの事を想っているらしい。だとするとゼフィーに危害を加える事はないだろうが……きっとゼフィーは心細くて震えているかもしれない。早くこの手にゼフィーを取り戻したいと心の中で叫ぶ。
「……馬車が来たようですね」
カーマインがおれに囁く。どこにも家紋が入っていない質素な馬車が山小屋の前で停まった。見張りの一人が山小屋の中へと入って行くと、暫くして黒装束の男二人に続いてレオナルドが外へ出てきた。レオナルドの横には腕を掴まれたゼフィーの姿が見えた。
おれは騎士達に合図を送る。それと同時にパルク達暗部の者がそっと、馬車の周りを囲んでいた男達に近付き一瞬で攻撃し気絶させて行く。その光景に気付いたゼフィーがレオナルドの足を踏みつけて森の中へと逃げ込んだ。
「全軍、黒装束たちを捕えろ! カーマイン、ゼフィーを追うぞ!」
おれの言葉に騎士団のメンバーは一気に山小屋へと突撃を開始する。その様子を背中で聞きながら、おれは森の中へと逃げ込んだゼフィーを追う。おれとゼフィーの間に一人の黒装束の男が居るのが見える。アイツから感じる殺気じみた気配におれは焦る。なんだあの男は!? ただの刺客じゃない、なんであんな手練れがこんな所に居るんだ。
何か光るモノが見えた瞬間、ゼフィーが足を押さえながら地面に倒れ込む姿が見えた。くそっ、ゼフィーを傷つけやがったな。込み上げる怒りを抑えながら走るスピードを上げる。
――――キンッ!
ゼフィーに向けられていた黒装束の男の刃を薙ぎ払った。瞬時におれと対峙する黒装束の男。
「……お前、暗部の人間か」
「これはこれは、タクト様。お久しぶりですね」
「……マ、クス!?」
聞き覚えのある声におれは驚愕する。おれの斜め後ろに剣を構えて控えているカーマインも眉をひそめた。マクス・ドラッド……ローゼン公爵家の分家であるドラッド伯爵家の次男で、パルクの元で暗部に所属していたが素行不良で除隊となった男だ。除隊後は行方知らずとなっていたが、まさかこんな所で出会うとは思わなかった。
「相変わらず暑苦しい程の正義感振りですね……」
「マクス……引く気はないのだな」
互いに剣を構えながら睨み合う。ジリジリと間合いを詰めて行く。
「ないです、ねっ!」
マクスの言葉と共に剣を繰り出し、互いの剣を受け止め合う。ぐっと力を入れて押し返すと一旦離れて再び剣を向け合う。やはりマクスの繰り出す剣は速い。
「へぇ……昔はオレの方が圧倒的に上でしたのに、随分と上達されたんですね」
「あぁ、そうだな。おれはかなり強くなった、よ!」
一気に間合いを詰め、マクスの振り上げた剣を受ける前におれの剣がマクスの胴へと吸い込まれた。
――――ドサッ……。
呻き声を上げる間もなく、マクスは地面に伏した。
「今ではおれの方が格段に上だ」
聞こえていないだろうがマクスに呟く。カーマインに目で合図を送り、マクスを縛り上げる様命じる。
「……っ、はっ……タクト、さま」
ゼフィーの声が聞こえた。おれは剣を一振りして、鞘へとしまう。騎士団も駆け付けた事を確認した後、ゼフィーの傍へと駆け寄って恐怖で震えている身体を抱きしめた。
「ゼフィー、大丈夫か。来るのが遅くなってすまない」
おれの腕の中でゼフィーが急に泣き始めた。よほど怖かったのだろう。おれはゼフィーの頭を優しく撫でてやる。一人でよく頑張ったな、ゼフィー。
「もう大丈夫だ。すぐに手当をするからな」
「はひ……ご迷わ、く、おかけして……申し訳ありません」
ゼフィーの足の怪我は大したことは無い様だったが、痛みで歩けない様なので抱き上げて運ぶと申し訳なさそうにしながらもゼフィーは頬を染めていた。あぁ、おれは愛されてるな……なんて、場違いな事を考えてしまうけど可愛いんだから仕方ない。
スクトには一足先に王宮へ報告に向かって貰っていた。この一件もあのピンク頭関連の事件という事もあり、陛下が処罰を下す事になるだろう。これでレオナルドのヤツも終わりだ。散々おれとゼフィーの仲を引っ掻き回してくれたんだ、いい加減退場して貰わなければ困る。
「タクト様」
救護班からの怪我の手当を受けたゼフィーは少し顔色が戻っていた。おれはゼフィーの頬をそっと撫でる。
「少しは落ち着いたか?」
「はい」
「今、帰りの馬車を用意させているからな」
「何から何まで申し訳ありません……」
「全然、構わないよ。おれが好きでやっている事だ」
好きな女の為なら、何だってやってやりたくなる。むしろもっと色々我が儘を言ってくれてもいいくらいなのだが……ゼフィーはいつもおれに気を遣ってか何も言わない。
「っ!?」
ゼフィーの頬を撫でながら顔を見つめていたら、思わず唇に吸い寄せられていた。軽く唇を重ねるだけのキスをするとゼフィーは真っ赤な顔をして眉を下げた。
「ごめん、なんか可愛くて」
「……もうっ」
恥ずかしがる姿も可愛くて抱きしめたくなったが、さすがに人が多い。抱きしめるのは馬車に乗ってからのお楽しみに取っておくかな。そんな事を考えながら、顔を赤く染める愛しい人をおれは今日も見つめるのだった。