変態王子&モブ令嬢Side ダンスパーティの裏側で……の、裏側① タクト奮闘記録
「モブ令嬢」本編20万PV感謝記念。
ゼフィー誘拐事件当時のタクトSideでのお話です。数話続く予定。
おれはティアナをエスコートして、王宮で開かれたダンスパーティに来ていた。今日のティアナも抜群に可愛い。こんな可愛い妹をアルのやつは何故苦しめるんだ。アイツは変態だけど、ティアナの事を本気で愛してくれてると思っていたのに今はピンク頭をエスコートしてやがる。
アルの行動に傷ついたティアナが気分転換にバルコニーへと出て行くのを、おれは歯がゆい気持ちで見送った。本当なら今すぐにでも連れて帰ってやりたい。でもティアナは現在、王太子の婚約者であるからそうも簡単にはいかない。
少し苛立っているおれの周りに空気の読めてない令嬢たちが群がってきた。あぁ、これも余計に腹立たしく感じてしまう。それにまだおれの恋人・ゼフィーの姿を見つけれてない。今夜のパーティには弟と参加すると聞いていたのだが、どうしたのだろう。おれがエスコートしてやれなかったから参加したくなくなったのだろうか……だとしたら嫌な思いをさせてしまったかもしれない。後で家まで会いに行こう。
暫く経っても戻って来ないティアナの様子が気になったので、おれの周りを取り囲む令嬢たちをかき分けて向かおうとしていたら何やら急にバルコニーの方が騒がしくなった。スクトが衛兵たちを引き連れて、バルコニーから出て来たのが見えた。何だ、何が起きてるんだ?
急いでバルコニーへと駆け寄ろうとした時、バルコニーからティアナの手を引いたアルがフロアへと入って来た。――え、どういう事だ? 訝しげに立っているおれの姿に気付いたアルが「ここは任せろ」と目で合図して来た。益々訳が分からない……。おれは取り敢えず、スクトが向かったであろう方向へと足を向けた。
「あぁ、タクト。良かった、呼びに行こうかと思ってたんだよ」
地下牢から出てきたスクトを見つけて傍に駆け寄ると、おれは状況説明を求めた。するとあのピンク頭が魔術を使って捕えられたんだ、と知らされた。マジかよ。
「後でアル殿下から詳しい説明があるけど、僕と殿下はわざとあの子に近付いていただけだから安心して」
「はあ!? 何だよソレ」
「とにかく今、ティアナにはアル殿下が説明してるから一緒に行こう」
スクトから聞かされた内容に余計に腹が立ったまま、スクトと共にアルの私室へと向かった。何故かおれ達の後ろからは魔道士も付いて来る。一体、何がどうなってるんだよ。
アルの私室の前まで来ると、スクトが廊下からアルに声を掛ける。すると一呼吸置いて返事があって、アルが扉を開けて出てきた。おれと目が合うと苦笑いをしてくる。何かホントむかつく。アルはそのまま、おれ達が来た方向へと歩いて行った。どうやらあの地下牢へ向かったらしい。
「ティアナ、もう大丈夫だからね。まずはあのご令嬢にかけられた術を解いて貰おうね」
スクトが魔道士へと目で合図を送ると、ティアナの前に魔道士が立って何やら手をかざしながら呪文らしきものを紡ぎ始めた。ティアナは両手を祈る様に胸の前で握りしめ、時折何かを感じるのか顔をしかめる。暫くすると魔道士がティアナとスクトへと頭を下げ、おれ達の後ろへと戻った。
「ふぅっ……」
緊張が解けたかの様にふらついたティアナを慌てて支えてやる。
「大丈夫か」
「申し訳ありません、タクトお兄様」
「いいから少し横になれ」
おれはそのままソファーへとティアナを横たわらせてやる。
「大丈夫なのに……」
「今日はもう帰った方が良いよティアナ。僕が馬車まで送って行こう」
「あぁ、そうした方がいい」
そんな会話をしていると、廊下からおれを呼ぶ声がした。
「お取込み中失礼致します! タクト様に急いでお話したい事が御座います!」
あの声はおれがゼフィーの警護に付けた我がローゼン公爵家お抱えの護衛騎士、カーマインだ。何やらもの凄く焦っている様で、おれはスクトにティアナを任せて廊下へと出た。