変態王子Side ティアナの憂鬱の裏でのアルストの葛藤
うん、相変わらず変態ですwww
俺は少し離れた所で待ってくれているティアナをこっそりと視界に入れながら、騎士達へと指示を出していた。あぁ、早くティアナに触れたい。抱き締めて柔らかで甘い香りを嗅ぎたい。はやる気持ちを抑えながらも的確に指示を出す。
ようやくティアナの元へと行ける様になり「ティアナ」と愛しい名前を呼んだ。その瞬間嬉しそうに頬を染める可愛らしい姿を見て思いのまま抱き締めようと彼女の方へと手を伸ばしかけた時……ふと、ある事に気付いてしまった。
――あ、風呂入ってないじゃん。え、何日入ってないっけ……タオルで軽く体は拭いてはいたけど絶対汗臭いし、ヤバイよな。
「アルスト殿下?」
歩み寄りかけた途中で急に何故か立ち止まった俺を不思議そうに見て、ティアナの方からこちらへと足を踏み出そうとした。
――うわ、ちょっと待って! こんな臭い状態じゃティアナに近寄れないよ!!
「ティアナも有難う。さあ、邸まで送るよ」
俺は慌ててティアナへ背を向けると、外へ出る為に玄関の方へと先導する様に歩き出した。戸惑いながらも俺の後ろをついて来る気配を感じる。
「デペッシュ、ティアナを馬車へ頼む」
「は? どうされたのですか、ご自分でエスコートされたら良いでしょう」
「何日も湯あみしてないんだ、異臭がする身体でティアナに触れる訳にはいかん。誰も好き好んで私以外にティアナの手を取る権利を譲っているんじゃない」
「……変な所で不器用なんですね、殿下は」
ティアナに触れる事を許したい訳なんてあるか。けど仕方ないだろう、今の俺ではティアナを穢してしまう筈だ。あぁ、早く湯あみをしてティアナに触れたい! けどさすがに今夜は無理がある。この後城に戻ったら今回の事件の報告や事後処理が山積みだ。
馬車へティアナが乗り込んでいる内にこっそりと身体に消臭魔法だけ掛けた。でもこれは一時的なまやかしだ。本当は異臭が消えてる訳ではないし、身体の汚れが落ちた訳でもないのだ。ただ狭い馬車の中、臭い匂いをティアナに嗅がせる訳にはいかない。こんな風に誤魔化すしかない俺を許してくれ。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
動き出した馬車の中、向かい合わせに座るティアナが少し不安そうに俺の方を見て来る。それはそうだよな、明らかに変な態度を取ってしまっているからな。それでも悟られない様に笑顔を向けて心の中で“大丈夫だからそんな顔しないで”と願う。
「あの……お疲れでしたら、少し横になられてはいかがですか?」
俺を気遣ってかそんな事を言ってくれる。なんて優しいのだろう。今すぐにでもティアナに膝枕をして貰いたい気持ちをグッと堪える。
「え? ――あぁ、大丈夫だよ気遣い有難う。ティアナこそ疲れてはいないかい?」
あの柔らかな膝の感触を思い出すだけで鼻血を吹きそうだ。上を見上げると俺だけの天使が微笑んでくれる最高な時間。サクランボの様に可愛いピンクの唇を引き寄せて、俺の唇で塞いでしまいたい……。
「わたくしは平気ですわ。こう見えて体力はありますもの」
そう言ってニコリとする綺麗なその瞳を飽きるほど見つめ返したい。困った様に瞳を潤ませて視線を逸らすのがまた何とも恥じらいを感じて、瞼の上へとキスの雨を降らせたいものだ。
「そうか、それは頼もしいな」
そしてフワリと揺れる空色の髪を撫でてティアナの「くすぐったいです殿下」とヘニャリと笑う顔が見たい。あああああああ、どうして今俺は抱き締められないんだ。この異臭さえなければ……地下牢にバスタブを置いて貰えば良かったな。服だって着たきりだ、絶対に臭いじゃないか……。
俺は失意のあまり馬車の窓から外を眺める振りをして、そっと溜息をついた。まさかこの後、自分が取った態度をティアナから詰め寄られるとは思いもせずに。本当に今でも考えるとこの時の俺は馬鹿だったな、と思う。




