変態王子Side ティアナとアルストの初めての出逢い
ティアナが覚えていないアルスト殿下との初対面のお話です。
書いて欲しいお話があれば気軽にリクエストして下さい。
出来る限りご希望に沿うつもりです。
俺がこの世界に転生した事に気付いたのは生まれてすぐだった。
交通事故に遭った大学生だった俺はバイト帰りに暴走してきた車に撥ねられて、記憶が飛んだと思ったら……見知らぬ部屋で目覚めた。そこはえらく煌びやかで豪華な部屋で驚いたけど、それもそうだよね王宮だもの。
赤ん坊時代は何かよく状況が分からなかったけど、俺はアルスト殿下と呼ばれるし。四歳になった頃、遊び相手兼将来の側近候補として呼ばれた深いネイビーブルーの髪が特徴的な双子――タクトとスクトに出会って、ようやくここが「虹色の奇跡をあなたと」の世界なんだと実感した。
俺は歓喜した。だって俺はアルストなんだぜ? あの悪役令嬢の婚約者に生まれたんだ。こんな奇跡喜ばずしてどうする! でも、その時気づいたんだ。そうだ、ゲームの中の俺ってティアナに婚約破棄叩きつけて、あのピンク頭とくっ付いたんだよな。えー、ヤダよそんなの。俺はティアナとラブラブしたい。
学園に入ったらピンク頭が入学して来るから、それ迄に地盤を作っておかないと! まずはタクトとスクトと仲良くなって、ティアナに会わせて貰おう。それで、ティアナとは政略的な結婚じゃなくて、ちゃんと恋愛結婚をするんだ。そう思って行動を開始したんだけど……。思わぬ敵に遭遇した。
そう、それはタクトだ。ティアナに会わせて貰うキッカケを作る為、色々と口実を作ってティアナの話を聞き出した迄は良かったんだが……アイツがあんなにシスコンだとは思わなかった! ゲームでは、そんな話これっぽっちも出て来なかった筈だ。どちらかというとゲームの中のティアナは傲慢で我儘なご令嬢に育っていたからか、そんな妹には手を焼いていた様子だった。
幼いティアナはまだ純真無垢で我儘なんて言う感じじゃなかったからか、タクトもスクトもそんな妹をとても可愛がっていた。そのせいで、なかなかティアナに会わせてくれないものだから俺は強硬手段に出た。わざと前触れを出さずに邸に訪問して、タクト達に会いに部屋へ行く前にティアナの居る庭に行ったんだ。何故ティアナの居場所を知っていたかは……コッソリと俺の密偵をローゼン家の使用人として潜り込ませておいたからだよ。
「だぁれ?」
初めてこの世界で見たティアナは妖精だった。いや、本当に妖精が舞い降りたのかと思うくらいメチャメチャ可愛かった。傍に控えていたデペッシュから「殿下、鼻血出てますよ!?」とハンカチを渡された。そんな俺にトテトテテ……と近付いて来たミニティアナは、大きな瞳で心配そうに顔を覗き込んで来た。
「ちー出てる、お怪我したの? だいじょうぶぅ?」
そして治ります様に、と頭を撫で撫でしてくれたのだ! あまりの可愛さに、そのまま王宮に連れ帰ろうとしたらデペッシュに止められてしまった。
「だ、大丈夫だよ。ありがとう」
「えへへ、良かった~」
満面の笑みで首をコテンとかしげる妖精! あああああ、もう、早く結婚したい!
「私は君のお兄ちゃんのお友達のアルストだよ」
「あるすと……? アルストお兄ちゃんだね、わたしはティアナ~」
「あ、そうだ。クッキー食べるかい?」
ポケットの中からハンカチに包んだクッキーを取り出した。これは今日の為にと用意して来たものだ。ティアナは差し出されたクッキーを小さな手で受け取るとニコッと微笑みながらお礼を言う。そして何故か半分に割ると、その片割れを俺に差し出した。
「アルストお兄ちゃんも一緒にたべよー」
「うがぁ! うんうん、そうしよう!」
近くの木の下に二人で並んで座って半分このクッキーを食べた。
これが俺とティアナとの、この世界での出逢いだった。勿論、まだ幼かったティアナはこの時の事を覚えていない。それでいいんだ、この思い出は俺の大切な宝物なのだから。