【お題:価値のあるもの】フロンティア・ディスカバリー 交流イベント編
今日も今日とて、ほのぼの開拓系VRゲーム「フロンティア・ディスカバリー」にログインした私。
現実とは性別の違うドワーフのアバター『ゲンゴロー』の操作も今となっては慣れたものだ。
以前露天商から買ったシルキーワームのキヌエの世話を短い手足でしていると、ピロン♪とインターフェース上に新着のお知らせが入った音がした。
「んん? ……ああ、もうそんな時期か」
お知らせはF・Dの運営からのもの。
四半期に一度のプレイヤー交流イベント『品評会』開催の通達だった。
『品評会』はF・Dのプレイヤーは誰でも参加できる一大イベントで、制作したアイテムを出品してポイントを競う。
イベントは主に『発表会』と『オークション』の2部に分かれ、プレイヤーは自由にアイテムをどちらかに出品するのだ。
『発表会』では出品アイテムに付けられる点数は運営AIが自動で算出する技術点と、プレイヤーたちが投票する評価点に分かれ、イベント後に出品したアイテムは手元に戻ってくる。
一定点数を達成するほど多くの報酬が受け取れるので、プレイヤーの制作技術が試される催しと言っていいだろう。
逆に『オークション』は入札された価格がそのまま獲得ポイントとなり、出品アイテムは落札者に引き渡されるのだ。
こちらは技術や価値より需要が重要視され、獲得ポイントも稼ぎやすいので制作系プレイヤー以外でもポイントを得やすい万人向けの催しとなる。
全体として『発表会』には繊細な技術作品が出品され、『オークション』には雑多だがニーズに沿った品が出品される傾向にある。
過去に『発表会』ではアクセサリー類や彫刻、絵画などが上位層にあったし、『オークション』には毛皮の敷物や動物の剥製、変わり種だと木こりの作った"キノコ栽培用原木"なども上位に食い込んでいるのでなかなか侮れない。
私が参加するならやっぱり『発表会』かなー。
前回の大型アップデートで新たに"付与効果"が追加されたので、その評価も見てみたいし。
"付与効果"といっても他の剣と魔法のファンタジーゲームと違って、その効果はNPCの評価割増や作業効率上昇など微々たるものではあるのだが。
私のゲンゴローの職業である裁縫師にも"刺繍"という形で付与効果が実装されて、図柄の習得に頑張ったからどんな評価が出るか気になるところだ。
刺繍の付与効果は夏と秋に街に現れる遊牧民NPCに質の高い布を納品する隠し条件で教えてもらえ、狼・鷹・羊など動物の図柄が多い。
統率と権力を表し村長への納品の評価を上げる"狼"、飛躍と広い視野を表し技術練度にボーナスが入る"鷹"、子孫繁栄と財産を意味し評価全般に上方修正の入る"羊"……安定を取るなら"羊"かな?
野生種であるシルキーワームのキヌエちゃんのおかげで畑の植物を食べさせるだけで上質なワームシルクが手に入るから、今回は絹糸を刺繍に使っちゃおう!
食べさせる植物は畑でわさわさ増える園芸テロリストがあるから問題なし。
それにキヌエちゃんもミントのスッとする感じがお気に入りみたいだしね。
ワームシルクの絹刺繍ってだけでも結構な評価はかたい。
普通の裁縫師なら刺繍に使えるのは良くてスパイダーシルクだしねぇ。
スパイダーシルクもF・D第二陣のプレイヤーが苦労の末に見つけた、巣にかかったもので糸こぶをつくる手のひら大の蜘蛛の習性を利用した安定供給がある中堅プレイヤー向けの上質な素材だが、ワームシルクには敵わない。
羊の刺繍を中心に据えた中央アジア風の図柄をびっしり入れた、綺麗な貫頭衣なんていいな……
うへ、うへへ…………
トリップしていた私は、アバターの髭をキヌエちゃんにもしゃもしゃされてハッと我に返る。
せっかく『発表会』に出すんだから、今作れる最高の品で高得点を目指さないと!
キヌエちゃんを髭から優しく引きはがして工房に入る。
私は時間一杯まで、工房でチクチクと布に針を刺す作業に精を出すのだった。
『品評会』の通達が出てからすぐ、オンラインエリアの"街"に来るドワーフプレイヤーが激減したんだとか。
まあ、みんな考えることは一緒だね。