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聖騎士

 サキのアクションにより、ユキは退場した。


 あとは薄気味悪い笑みを浮かべるエリカだけだ。


 目の前には『炎剣・原初の神の情熱ブラネウシス・ハート』が突き刺さっている。


 これを扱えさえすれば、エリカを倒すことは叶うだろう。


 だが、俺には近接武器の才能がない。


 せめて握ることが出来れば……。


「その願い、聞き届けましたよ」


 俺の隣に立つマキナは告げる。


 身体の中を多次元からマキナが駆け巡っていくのを感じる。


 マキナは俺の記憶の糸を治した応用で、付与されたマイナススキル、すなわち近接武器の扱い-Aに触れる。


「あとはご主人様が覚悟を決めるだけですよ」


 俺にできるだろうか。


 剣は強さの証だ。


 俺は強くなりたくて、復讐を成し遂げたくて、一度は挫折して、逃げた道だ。


 ただ商人として平々凡々とした生活さえ送れればいいと思っていた。


 また、握ってもいいのだろうか。


「あるじさまならできる! がんばれ……!」


 ペネロペの強い声が部屋に響く。


 運命を選択するスキルを持つペネロペが保証するのだ、俺にできないわけがあるか。


 ペネロペは俺の背中に手を添える。


「最後に一欠片だけ勇気が必要だった。ありがとう、ペネロペ」


 リリコももはや限界のようで、壁に背をつけてはいるが、俺に向かって笑顔を向ける。


 待っていてくれ、俺たちの数奇な宿命はここで終焉を迎えさせる!


 俺は神の剣を手に取る。


「剣を握ったところで、ハル、貴方に扱えるわけが……っ!」


 俺はマキナが行ったように、真理のひもを用いて多次元から肉体を引っ張りあげることにより、実質的な瞬間移動を行いエリカへと切りかかる。


「この剣ならその鎌に対しても切りかかれるようだな」


 エリカは咄嗟の判断で鎌を手に取り、俺の攻撃を受ける。


「なんて力……っ! どこでそれだけの力を……っ!」


 俺は師匠の下で修行をしていた時も、剣術の修行を欠かすことは無かった。


 例え握れなかったとしても、諦めたくなかったからだ。


 だから以前ステータスをチェックした時は力だけが異常にあった。


 あの時の練習は無謀だったし、無茶だった。


 けれど、最後の最後で無駄ではなかった。


「うおおおおおお!」


「防壁術式・イージス!」


 エリカの前には黒々とした防御結界が展開される。


 だが、俺は攻撃を辞めない。


 全身全霊を、この一撃に……!


 俺は燃え盛る剣を彼女目掛けて振り下ろす。


「そんな、まさか……!」


 防壁は崩れ、灼熱が広がり、それはエリカを包む。


 瞬間、眩い光に包まれ、正面には何もかもがなくなっていた。


「勝った……」


 俺は全てが終わったことを悟る。


 これで戦いは終わり。


 俺とリリコ、ペネロペ、サキを巡る奇妙な宿命は、ここでピリオドを打ったのだ。


「ハル……!」


「あるじさま!」


「ご主人様っ!」


 リリコ、ペネロペ、マキナは俺に近寄る。


 みな動くことはできるが、もはや戦うだけの力は残されていない。


「ああ、終わったんだ」


 俺たちは燃え盛る塔から脱出をする計画を考える。


 だが、それで終わりではなかった。


「まだ終わりじゃないさ。だろう、糸」


 燃え盛る塔から現れるのは、見覚えのある男だった。


 俺がかつて鍛え上げ、勇者パーティのリーダーとして君臨した才気ある者。


「勇者バーンフリート、まあそういうことだろうな」


 勇者バーンフリート、かつて俺が所属していた勇者パーティのリーダー、そして俺を追放した男だ。


「剣を取れ」


 バーンフリートは腰にかけてある破滅の聖剣を握る。


「お前はなにをやってんのよ! こんなことしてたら、みんな死んじゃうわよ! もう戦う理由なんて……!



 師匠は声を荒らげる。


「あるさ。この糸使いは弱かった。本当は力を持っているのに、いつも諦めたような顔をして、剣を握らず、本当は内心誰よりも悔しがっていたくせに真っ先に撤退を選ぶような男だった。いつも自分に嘘をついていた。だが、今は違うらしいな」


「だったらなんであるじさまを狙うの? それこそ戦う理由なんて……」


 ペネロペはバーンフリートに向かって告げる。


「最強の剣士と最強の剣士がこの場に二人といる。俺たちにとってはこれだけで充分なんだよ」


 バーンフリートは俺に剣を握るように促す。


「ああ、その通りだ。剣に生きるものは戦いの中でしか己を見いだせないのさ」


「ハル、お前は今に剣に生きる者になった。この時を俺はずっと待ってた。剣士は剣で語るんだ、後の言葉は必要ないだろう」


「……ああ。みんなすまない、後は俺に任せて先に行ってくれ」


「ハル……!」


 師匠は何かを察したように、ペネロペとマキナを退避させる。


「いざ尋常に」


「勝負だ」


 俺もバーンフリートも、一直線に飛びかかり、挨拶代わりに互いを切りつける。


 このバーンフリートという男は誰よりも恐怖し、怯え、己が可愛い男だ。


 だからこそ、誰よりも勇者の才能を秘めている。



「俺はずっとあんたと戦いたかった。世界の命運も大事だ、自分が死ぬのはもっと恐ろしいし、弱いやつが死ぬのを見るのはもっと耐えられない。だけどな、一目見た時からハル、あんたと俺は……!」


「俺は自分を誤魔化していた。ただ平凡な安寧が欲しいと思っていた。だけどまあ、俺だって復讐を遂げたかった。本当はしのぎを削るような、魂が震え上がるようなやつと……!」


────戦いたかった────


「ハル、あんたの誕生祝いに刀の錆にしてやる!」


「バーンフリート、二つに一つだ!」


 赤い塔は崩落する。


 崩れながらも、俺たちは命を削り合う。


 最後の瞬間まで。


 そしてとうとう、全ては瓦礫となった。

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