総力戦
俺が初めに見たのは、幼なじみの少女だった。
そうだ、俺には幼馴染がいた。
貴族だった俺は、とある公爵家の娘との結婚が決定づけられており、そうして一時の平穏を手にすることが約束されていた。
彼女は日常を最悪な邪教崇拝を行う俺の家で過ごすようになったが、事件は起こった。
「あらあら〜。お可愛いこと。勝手になさい。ただし脱兎には罰を与えないとねぇ」
俺は姉のエリカに取り押さえられる。
この腐りきった家から脱出する計画は、エリカに全て把握されていた。
正確には脱出計画を立てる前から俺の追放は決まっていたが、俺の邪悪な家系の手にかかれば何をされるか分かったものではなく、脱出する必要があったのだ。
だから、このような脱走計画を知ったエリカは、このように俺を地面に這いずらせ、顔を踏みつけてこの状況を楽しみに来た。
彼女はわざわざ俺の苦しむ姿を見るために連れてきたリリコの身体をスキルで亜空間へと捻っていく。
「そんな……リリコ……リリコ!」
俺は力の限り叫んだ。
産まれて初めての、喉がはち切れんばかりの絶叫。
それに応えるように、リリコはゆっくり目を開ける。
「ハル……いいのよ。私のことは忘れて、それで普通の家庭を持って、幸せに暮らして欲しいの。お別れがこんな形になっちゃったのはちょっと悲しいけど、元気でね」
その後の彼女はどうなったのかは分からない。
何せ気にすることができる材料が、記憶がなくなってしまったのだから。
*
「あらあら〜。思い出しちゃったのね。まあ、面白いからよしとしましょう。その後、彼女がどうやってハルの師匠になったのか、言うまでもないわね」
エリカは語る。
そうだ、俺は家を出た後に、一人の少女と出会ったのだった。
それが師匠であり、忘れてはならない人、リリコその人だったのだ。
「ハル、ごめん。ハルが本来の力を発揮できないようにマイナススキルを付与したのは私よ。恨むなら恨みなさい」
師匠は……いや、リリコは告げる。
近接武器の扱い-A。俺がずっと憎んで憎んで、憎んできた呪いの様な近接戦闘のセンス。
俺の修行の日々は、他ならぬ師匠であるリリコによって全てが無駄にされていたという事のようだ。
だが、彼女がいなければ今の俺はいなかった。
無鉄砲で、辿った道のりを顧みない復讐鬼となっていたかもしれない。
それに、俺は彼女に何らかの事情があってエリカに従っていたように感じる。
それと一番大事なことは、彼女が生きているということだ。
ならば、倒すべきはこのエリカという魔性に他ならない。
「いや、俺の口にすべき言葉はありがとうだよ。それよりも今、俺にできることをやるだけだ。後衛は任せてくれ」
俺はみんなの攻撃や回避、あらゆるアクションのタイミングに合わせ、糸を操作する。
「いい展開ね〜。攻撃リコとサキさん、それにペネロペちゃんだったかしら。いい連携攻撃ね〜。まさに後衛のハルが求めてた人材。でも……私のスキルはこれだけじゃなくてよ?」
瞬間、エリカの周囲の空間が歪む。
「くそ、避けろ……!」
俺は糸を使い、みんなの身体を退避させる。
音が消え、空気が裂け、エリカを中心とした凄まじい衝撃となってみんなを吹き飛ばす。
「かはっ……!」
特にエリカに最も接近していたサキは激しく壁に激突する。
もう、サキは戦うことは難しいだろう。
俺のミスだ。
だが、今は悔やむよりも先に次の作戦を練らねば。
「後衛が最初に音を上げてどうする」
吹き飛んだ俺はすかさず立ち上がる。
俺はエリカの無尽蔵に繰り出されるスキルからの次の一手を警戒し、得物を構える。
だが、次の攻撃は予想の範囲を超えていた。
「まずはそっちから……!」
リリコに剣を振り下ろさんとするのは、エリカではなくサキの妹、ユキだった。
「炎剣・│原初の神の情熱!」
完全に記憶を消し去る能力だけでユキが戦うとは、初めから思ってはいなかった。
何か武器のひとつでも隠し持っているはずだと、そう読んでいた。
だが、アレはダメだ。
真理のひもを持ってしても解読不能。
まさしく、創世神話に登場する世界を切り拓いた神の剣。
それが今、目の前にある。
考えろ、何か策は……。
「リコお姉ちゃんは」
「私たちが守ります!」
ユキに立ち塞がるのは、ペネロペとマキナ。
俺の隣にもマキナは存在するが、マキナは複数いる訳ではなく、俺のいる座標とペネロペの傍の座標に隣接する時空にアクセスしているため、二人いるように見える荒業だ。
そして、ペネロペは完全に淫靡で背徳的な悪魔の姿に変わっている。
「もう遅い……!」
ユキの握る神の剣は振り下ろされる。
だが、それは当たらず。
見ると、マキナの身体のパーツがペネロペに融合しており、ペネロペはマキナの能力である多次元干渉を使ったようだ。
「これなら、ほぼ止まった時の中、あらゆる次元から攻撃ができる……!」
ペネロペは残像を残しながら瞬間移動を繰り返し、ユキへと血液を凝縮した刃を振る。
だが、その攻撃も、次の攻撃も反応して弾かれる。
そうか、ユキはサキの妹。常識外れの戦闘センスを持ち合わせていてもおかしくはない。
その猛攻に起き上がった師匠も加わるも、じりじりと神の剣の前に俺たちは追い詰められていく。
既にみんなに与えている糸による身体への負荷は限界に近い。
このままではいけない。
次の策を考えなければ。
「まだにゃ……。ユキ、あんたの目を覚ませるのは、私だけにゃ……」
突如起き上がったサキは最後の力を振り絞り、獣の如く疾走する。
もはや動くはずのない手足を、限界まで機能させる。
「そんな、お姉ちゃ……っ!」
「にゃああああ!」
その突撃の勢いは留まらず、ユキを掴んだまま壁を幾層もぶち破り、ついに塔から飛び出す。
「離し……離してっ!」
「もう二度と離さない。ユキ!」
このチャンス、見逃すわけにはいかない。
「真理のひも!」
俺はサキの身体を通してユキの記憶修復を試みる。
だが、地面への激突までに俺だけの力では、記憶の修復は間に合わない。
頼むサキ、妹を連れ返せるのはこの世界でお前だけなんだ。
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