いつかの君へ
俺たちは赤い塔の前に立つ。
今回は前回のお遊びとは訳が違う。
この戦いに勝てば、俺たちは歴史の一幕に名を刻むだろう。
それが正義か悪かは俺には分からない。
だが、それでも止めなければならない理由がここにはある。
俺は、奴隷を否定するために。
ペネロペは、己の復讐のために。
マキナは、感じるために。
師匠は、寝覚めを良くするために。
サキは、妹を奪い返すために。
「行くぞ」
一般人のいない深夜に、俺たちは塔へと侵入するのだった。
*
作戦はできる限り穏便に速やかに塔を登っていくというものだった。
その作戦は功を奏し、事実厳重警戒の中ほとんどの巡回兵をやり過ごしたまま俺たちは塔をかなり登ることができている。
「正面から敵……1、2、いや、17か」
敵は全て魔導クロスボウで完全武装した兵。
正面から戦うのは少しリスクがある。
「先鋒は任せるにゃ」
サキは目にも止まらぬ速度で敵の軍団の背後に移動する。
「な、いつの間に!」
敵があっけに取られた瞬間、師匠が跳躍、敵をサキと師匠が挟む形で攻撃を仕掛ける。
目にも止まらない連撃により、敵は一人残らず宙に浮く。
「行くぞ、ペネロペ、マキナ!」
俺は糸を通してペネロペとマキナを操作する。
彼女達が敵に触れれば最後、超ひもから書き換えることにより敵は戦意を喪失する。
「うう……俺たちは……」
彼らは敵とはいえど記憶を失った奴隷である可能性が高い。
ここで俺達が彼らを殺してしまえば、寝覚めは悪くなる。
「行くぞ」
もはや俺たちを止められるものはいない。
だから彼女がやってくるのは、必然だった。
天井から石粒がぱらりぱらりと落ちてくる。
やがてそれは次第に大きくなっていき、そこからあいつがやってくる。
「あらあら、随分やってくれちゃったみたいね〜。さて、どうしたものやら……」
俺の姉、エリカが、立ち塞がる。
「我々は企業です。貴女がたのような存在に営利を削られることは看過出来ません」
そして、その隣にはサキの妹であるユキ。
「安心してな、すぐに終わるから」
勝利条件は二つ。
ユキの記憶を取り戻すこと。
次に、エリカを倒すこと。
どちらかひとつではいけない、その両方でなくては。
「ええ、そうね。ここで首をはねて終わりにしましょうか」
ユキはともかく、エリカの能力はおそらく他者の能力のコピー。
何をしかけてくるのか分からず、下手に動くわけにはいかない。
互いに動かず、静寂だけが場を埋める。
「ふふっ」
突如エリカは何も無い空間から特大の黒い鎌を取り出す。
「私が行くにゃ」
サキは駆け抜け、エリカの振りかざす鎌の攻撃をダガーで弾こうと試みる。
だが、サキは攻撃の瞬間、鎌の攻撃を弾かずに攻撃を避ける。
俺のスキルひもの真理により目を凝らして様子を見ると、彼女の纏うローブの一部が切られてもないのに破損していた。
「そうか、この攻撃は……!」
あの鎌は正確には切り裂くのではなく、触れた対象を消滅させる鎌。
サキは咄嗟にその事に本能的に気づきダガーでは受けなかったのか。
だが、エリカの鎌は再びサキへと襲いかかる。
「お前の相手は私!」
だが、師匠がエリカに飛びかかり、攻撃を弾くついでに蹴りを顔面に食らわせる。
師匠の手には、エリカと全く同じ黒い鎌が握られていた。
この鎌の能力は師匠の物のコピーだった。
つまり、師匠とエリカは既にどこかで出会ったことがあったようだ。
「あらあら〜。結局あなたはそっち側につくのね、リコ。いえ、リリコと呼んだ方がいいかしら?」
「…………」
師匠は言葉を交えようとはせず、手慣れた手つきで黒い大鎌による連撃を繰り広げる。
リリコ、師匠はそう呼ばれた。
その名前は、忘れてはいけない名前のはずだった。
俺は真理のひもを使い、記憶を探っていくが、自分の記憶だけは鮮明に辿ることができない。
「ご主人様にとってこれはとても大事なことなんですよね。任せてください」
マキナは俺の手を握る。
直後、彼女の内部構造は劇的に変化する。
いや、元々マキナは人ですらなく、神の器なのだ、驚くようなことではない。
「マキナ、ありがとう」
今の彼女は生物の視点を超越した観測者、そして俺のスキルを増幅させるブースターとなっている。
これならば、俺の記憶を辿ることが出来る。
俺の忘れてはいけない記憶を、取り戻す時だ。
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