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寝室にて

「ご主人様、少しお時間よろしいですか?」


 誰よりも感情的で、抑揚のある喋り方でマキナだとすぐ分かった。


「……ああ、いいよ」


 俺はあの頃から何も変わっていなかった俺の部屋のベッドで寝ていたため、上半身を起こさないままに扉を開けるマキナに声をかける。


 マキナは最初、俺の胸元のベッドの空間に座ったが、すぐにやめて流れるように、あたかも当然かのように、まるで毎日そうしてきたかのように俺のベッドに潜り込んだ。


「リコお姉ちゃんの部屋は地獄ですよ。リコお姉ちゃん、寝相が悪過ぎです。寝たままお姉ちゃんをホールドしたまま寝言をぶつぶつと呟いてまして、うなされたサキお姉さんが寝ぼけたままに手の甲でリコお姉ちゃんの顔面を叩きつけてます」


 女子は女子同士でということで俺は一人、元自室で寝ていたが、向こうは面白いことになっていたらしい。


「ならキューブ状になればよかったんじゃないのか? アレなら面積取らないだろ」


 マキナは機械生命体故に身体の形は自由自在だ。


 何も人型にこだわる必要はないだろう。


「え、イヤですよ寝苦しい。膝抱えて丸くなったまま寝れないのと一緒です。開放感が足りないんですよね」


 寝る時は人型が一番なのか、勉強になるな。


「俺も寝相はそんなに良くないぞ?」


「大丈夫ですよ、それなりに頑丈ですので。ご主人様だったら乗っかかったり押し潰したりされても痛気持ちいいくらいですよ」


「ちょっとは痛いのか……」


 まあそりゃそうですよとマキナ。


 今回の事件、マキナだけは全く関係がない。


 そんなマキナを戦わせて良いのだろうかと俺は悩んでいたことを打ち明ける。


「初めて会った時に言った通りですよ。べろちゅーしろと言われればしますし、殺せと言われたら殺します。私はご主人様の道具なのですから」


 俺はそうじゃないと、自分の意思はどうしたいのだと問う。


 彼女には彼女なりの考え方があっていいはずなのだ。


 俺は今までの俺とは違う、彼女に心があることはもう知っている。


「信者を増やすんじゃなかったのか。神に昇華するのが目的なんじゃないのか?」


 それはそうですけど、とマキナ。


「そういうの、私には荷が重過ぎかもって最近感じてます。なんだかんだでここ数日のご主人様との暮らしはとても楽しかった。カードカウンティングや経済学を勉強して……。お姉ちゃんもいる。この暮らしは私にとって居心地がいいんです」


 そうか。


 そうだったのか。


 マキナは俺の胸元を握りしめ、俺の顔を見つめている。


「私、全知全能だとか言ってましたけど、記録はあっても何も感じたことがなかったんです。黒色パンの硬さ、人の温度、返り血の気持ち悪さ。ですから、今はこれで充分です。繰り返しにはなりますが、私は道具です。ご主人様が戦うのであれば、私もそれに従うまでです」


 俺はマキナの言葉を受け止める。


 俺にとっての戦いは、彼女にとっての戦いにもなる。


 俺は明日の戦いに、しっかりとオチをつけなければなるまい。


「ああ、頑張ろう。しっかり働いてもらうぞ」


「もちのろんです」


 俺は決意を胸に秘め、眠りにつこうとしたその時だった。


「ハル、服を脱げ」


 ドアをがちゃりと開けるやいなや、とんでもないことを言って入ってくる師匠。


 その師匠の行動にマキナは咄嗟に小さなキューブへと変形して姿を隠す。


「……良い子はもう寝る時間ですよ、師匠」


「あいにくさま、私は悪い子なのよ。ほら、早く昔みたいに私のムラムラを鎮めなさい」


 師匠は毛布越しに俺へ馬乗りになる。


 師匠は嫌なこと、考え事がある時は悲しいほどに頭が悪くなる。


「光栄ではありますが、辞退させていただきます」


「なんでよっ!?」


 マキナもいるし、それに今日は明日に備えてしっかり体力を養わなければならない。


 ここは休眠を存分に摂るのが正しい選択だろう。


「師匠、俺たちは明日アーク商会を、エリカを倒しに行くんです。休めるのは、これが最後なんですよ」


「だからこそじゃない。私はあんたを元気づけてあげようとしてるのが分かって?」


 気がついた時には、師匠は既に俺の毛布の中へと侵入を済ませていた。


 師匠は0か100かの極端な性格をしている。


 きっと彼女を受け入れてしまえば、朝まで寝かせてくれないことだろう。


 だが、こういうことを言う時は師匠は真面目な話をしたい時の照れ隠しだ。


「師匠、不安なんですよね。明日のことが」


 俺の言葉に、顔を赤くする師匠。


 布団に忍び込むことに関しては赤面しないあの師匠が……。


「ハルのくせに生意気ね。ええそうよ、酷く恐ろしくて仕方がないのよ」


 彼女は俺の首元に指先を這わせると、体を俺に寄せる。


「へえ、リコお姉ちゃんにも怖いものがあるんですねぇ」


 その間に割り込むように、箱状だったマキナは人型まで大きくなっていく。


「あ、あんたマキナ……いつからいたのよっ!」


「いや〜、何を隠そう実は最初から……」


「じゃあ私より先にベッドの中に!?」


 師匠にとってのマキナの不意の登場により、場のムードは音を立てて崩れ落ちていく。


「なんだか楽しいことになってるにゃんね。私も混ぜるのにゃん」


「マキナちゃん、ハルの独占はずるい」


 ぎいというドアの開く音と共にサキと、その脇腹に子猫のように抱えられたペネロペも現れる。


 なんと、結局狭苦しい俺のベットの中に全員が潜る状況になってしまった。


 心頭滅却すれば、邪念はなんとかなるだろう。


 だが、俺が最も警戒しているのは師匠の寝相だ。


 このまま寝られてしまえば、我々は毛布を奪われ、牛のように荒れ狂った脚部に何度も蹴られることになるだろう。


「これはまずいな……」


 俺は策を考える。


 まずは策1。


 いや、これはダメだ。


 次に策2。


 策3と数えていくうちに、睡魔が俺を襲う。


 く、どうやら今回は、俺の負けらしい。

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