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獣の襲来

「……目指すはあの赤い塔」


 塔の頂上は闇の中で紅く煌めき、それが周囲の霧を通して恐ろしく巨大に見える。


 既に情報収集は済ませてある。


 建物自体はアーク商会の保有する娯楽施設であるが、それは表の一面に他ならない。


 あの光り輝く最上階、三日後のあそこでアーク商会の命運を握るなにか大きな取引があるらしい。


 そしてそのすぐ下にあるVIPルーム、そこに間違いなくやつはいる。


 私は獣だ。


 サキでも、勇者パーティの散斥兵(スカーミッシャー)でもなく、ただ血に飢えた獣。


 目に映る全ての商会の人間を殺し、そして人質を以て妹を解放するのだ。


 私はマスクで鼻まで覆い隠し、フード付きローブでそれを仕上げる。


 ヤカシュは水の都と呼ばれるほど水が豊富で、水面差を利用したエレベーターが各地にある。


 おかげで上空にも通路がいくつもあるが、水のせいか霧が酷く視界が悪い。


 だというのにどの家々も灯りは点いており、眠らない街を体現している。


「お客さん、どちらへ?」


 水夫には見えない七三分けのぱりっとした紳士服の男が、木船に乗って私を誘う。


「……あの赤い塔」


 私が指さすと、男は私を船に誘う。


 しばらくして、静かな湖のような人気のない場所に出ると、男は口を開く。


「お客さん、なんであの赤い塔に行こうと? 観光ってわけじゃないでしょう?」


 私は観光客を装ってこの街に来た。


 だというのに、この男には観光客ではないように見えてしまったようだ。


これはまずい。


「ええ、古い知人に会いに」


「へえ、そんなに血腥い格好で」


 男はニヤリと笑う。


 服も変えたのだ、血の臭いなど人間に分かるはずもない。


 しかし、すぐに正体を理解する。


 この血への執着、こいつは悪魔だ。


「お前、アーク商会の人間かにゃん?」


「……ええ。私はアーク商会実働部隊精鋭『三銃士』の一人、名をアクアフィッシュと申します」


 男が名乗った瞬間、船は一気に水の中へと引き込まれる。


 下へ下へ、どんどん落ちていく。


「私の能力は鮫への変化! 水中において無敵なのです!」


 こいつは私の正体にある程度気づいて敢えて誘ったのだ。


 つまり私の侵入がバレていることになる。


 ああ、どこでやってしまったのか。


 私は海底を蹴りあげると、一度水面に浮上する。


「逃げようったってもう遅い! 水は私の……なんですこれは……水が赤い! いや違うこれは……私の血!」


「とっくに切り刻ませてもらったにゃん。お前はもう終わりにゃん」


 それから小魚は二度と水面に浮上してくることはなかった。


 もうバレてしまったのならば仕方ない。


 ここからは人狼の力を全開放していく。


 私は月に吠える。


 持っていかれそうになる精神を、ノーザンベリーで生成した精神向上薬で調和する。


 さあ、月明かりの下に臓物を晒すがいい。






     *






 弱い、弱すぎる。


 私が噛みちぎった有象無象の集団たちは、主への忠誠心は立派だが、如何せん弱すぎる。


 ふと、背後を振り返る。


 背後には夥しい血の痕に、破壊された家屋の跡。


 もう後には戻れない。


 私は赤い塔に足を踏み入れる。


「ふーん、可愛いらしいワンチャンね、お耳がキュート。でもその狂暴を絵に書いたような目だけは受け付けられないわねえ〜」


 目の前に現れた淫蕩を体現するかのようなすらりと伸びた女が立ち塞がる。


「邪魔。殺すよ」


 もはや語尾ににゃんをつけてやる余裕すらない。


 戦えば確実に喉を噛みちぎってしまう。


「やだ〜、私ったら貴方に久しぶりに会えて嬉しいのに、子犬ちゃん。ほら、覚えてない? 私よ、エリカ。貴方からぜ〜んぶ奪って家族を八つ裂きにした、あの、エリカ。約束の金は持っていて?」


 瞬間、私の身に起きた悲劇を思い出す。


 もうはっきりしない頭の中で、幻覚の中で、微睡む視界の中で、こいつだけははっきり明確に捉えることができる。


 そうだ、私の故郷はこの女に破壊された。


 彼女は手を伸ばす。


 それは妹の身代金を寄こせという仕草だった。


 妹のことは何度か金で解決しようと思ったことはあった。


 この女は異常なまでに恐ろしいからだ。


 だが、だからこそ殺さなければ気が済まない。


 こいつが生きていたら、それだけで狂ってしまうほどに恐ろしい。


 私ではなくても、私ではない誰かが犠牲になるかもしれない。


「────殺す!」


 こいつは生きていてはいけない邪悪だ。


「思い上がらないでくださる?」


 今ここで復讐を成し遂げるのだ。


 待っていてね、ユキ。


 必ず勝って、それで────

******

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