糸使いの最強無双
俺が帝都を出て早1日が過ぎた。
どこまで行っても変わらない草原風景に、ついに変化が訪れた。
だが見えてきたのは税関。
帝国の汚いところがこれでもかと詰め込められた部位だ。
俺は辟易としながら税関に向かい、武装した集団の先にいる受付の小柄な男にいくらですかと問う。
返ってきた答えは小銀貨2枚だった。
いくら帝都に最も近い税関とはいえ高すぎる。
その男曰く現在は危険な魔獣がこの辺をうろついているらしく、そのような死地に国の宝である商人をやすやすと行かせる訳にはいかないのだそう。
大体旅商人が死んだりして荷物が路上にぶちまけられたら、それは領主のものになる。
よって旅商人を死なせれば癒着もあって腹いっぱいの金貨がもらえるのだ、国の宝などと微塵も思っていないのに白々しい男だと思いながらも、相槌を打つ。
とにかく旅路は無駄にうねっており、悪路が多い。
それは道中の者を滑落させたり、飢えさせたりするための公にされていない国策の一つなのだ。
白々しい態度の税関職員には反吐が出る。
「兄貴、この先をどうしても行くと言うんでしたら小銀貨10枚で傭兵の雇用がここを通す条件になりますぜ」
小柄な男は商人として満点の笑顔を浮かべながら俺のためにと言い寄る。
雇用金を支払えば俺の手持ちは小銀貨1枚になってしまう、それだけは支払えないな。
さてどうやってここを突破するかと考えていた時、伝令は兜を投げ捨てたままに冷や汗で額をぐっしょりと濡らして現れた。
「奴が出たぞ! オールアントだ!」
オールアントと聞いては何か行動を起こさなくてはならない。
オールアント、それは生物学上アントというよりフクロウの仲間らしい。
だが地下に巣を作り、巨大な羽アリのように空を翔ける姿から最近までアリの1種だと信じられてきた魔物だ。
彼らの身体的特徴は三つ。
大きな羽、鋭い夜目、そして人間を軽々と食いちぎる強靭な顎を持つ。
だが、彼らの真髄はそんなことではない。
「キェシャァァ!」
圧倒的大群。
空を埋め尽くし、地中からは突然現れ、もはや逃げ切ることは不可能だ。
実際、こいつらは帝国調べによれば人間の死因ナンバーワンだ。
神出鬼没、予測不可能。
あまりお目にかかれるものではないが、アンブッシュにエンカウントすればその時点で命は無いと噂される恐怖の象徴だ。
その光景は、もはや襲撃というより天変地異と言った方が的確であると言われるほど。
「つ、ついに出たか……!」
「我々も運がなかったな」
「おしまいだぁ」
阿鼻叫喚。
その姿に畏怖した税関職員達は逃げることを諦め、せめて安らかに死ねることを願って指を絡めて神に祈る。
全くだ、こんなところでは誰も死なないのだから、もう少し前を向いて欲しいものだ。
「全く、世話のやけることだ」
その時、空中のオールアント達は血飛沫を上げ、微塵切りになりながら地上へと墜ちていく。
それもそのはず、俺は右手のガントレットリングから物理糸を手繰り、空中に罠を展開していた。
2000匹はいただろうが、これで8割は倒せただろう。
「な、何が起こっている!?」
神に祈ることをやめた不信心な男は動揺を隠せないようでいるから、教えてやる。
「下がっててください、後は俺が全部始末しますんで」
残りの地面に足を着けてその場から動かなくなった賢いアリンコたちに向かって、俺は左手の魔力糸で魔法陣の形を作る。
すると、そこから空中を漂う炎元素だけが魔方陣に吊られ、最初は緩やかに火を噴いていたが、やがて業火となり1匹1匹丁寧に焼き払っていく。
そしてこれは今思いついた作戦のために俺の手柄だと主張する必要があるので、俺の近くに大型の魔方陣をいくつも展開する。
「トドメだ」
糸によって流れが制御された大型の自然炎元素噴流、ただそれだけが連なり、炎の大波と化して全てのオールアントを骨と灰に変えていく。
オールアントめ、税関職員に貸しを作りたかった俺に対して随分都合が良いじゃないか。
俺は全てを燃やし尽くした後、足が竦んでがくがくと震えて小さくなっていた先ほどの受付にずかずかと寄る。
「すみません、俺の護衛って、逆にいくら払ってくれますかね」
「け、結構ですぜ! 行っちまいな!」
受付は俺の旅路を指差すと、行ってもいいですよとジェスチャーを送る。
「…………」
だが、タダほど怖いものはない。
この男に貸しを作っておけば精神衛生上大変よろしいので、俺は男に小銀貨を1枚握らせる。
とんだ災難だったな。
俺は馬車に積んでおいた安くて酔える強い葡萄酒を飲んで気分を紛らわせると、愛馬と共に歩みを再開した。
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