残念
「じゃあジョセフ、後は頼むぞ」
俺は今回の積荷を渡すと、踵を返す。
「ああ、お前の頼みとあれば断れないからなぁ。まあ任せとけって」
俺たちはジョセフと別れ、俺は次に何をするか考える。
「あの、あるじさま……。一銀貨も貰ってなかったけど、これでいいの?」
ペネロペは俺の袖を握りながら、フードの中で首を捻る。
確かに、ぬかるんだ土地をわざわざ徒歩より遅い馬車で遠路はるばる重い積荷を引きずってやってきたのだ。
即金にならないことに不満を感じるのは妥当だ。
「ああ、ここヤカシュは職人ギルドっていうのがあってな、既製品をそのまま市場に流そうとすると価格の2倍も税金がかかってしまい、儲けは3分の1になる。だが、素材を職人に加工してもらって、儲けの半分を譲渡すれば……どうなるか分かるか、マキナ」
マキナはぽんと手のひらを叩く。
「なるほど、差額分儲かるって事ですかね」
「そうだ、こちらの方がよりお得って寸法だ」
なんてことない、合法的に脱税をするための商人の知恵だ。
もっとも、用意した毛皮に関しては1枚だけ持ってきた貂の毛皮を、時間がある時に俺のスキル「超ひも構成」によって複製した素材であり、それが加工に耐えうるのかの実験なのだが。
やはりというか、概念から物質を生成する超ひも構成のスキルの仕様は大量に魔力を消費してしまう。
疲労感がどっと押し寄せてしまうので、これで無限に儲けるのは今のスキルレベルでは夢物語に等しい。
「あるじさますごい! 私ももっと何ができるようになりたいなぁ」
ペネロペが自分から捨てないでとか、何もないとか言っていた頃に比べて心がポジティブになっている。
そんな些細だけれど大きな変化に、俺の頬は思わず緩む。
「そうだな。じゃあ今回ヤカシュに来た目玉の一つ、転職屋のあの人に会いに行くか」
この街は急激に変化した。
だが、人はそう簡単に変わらない。
あの女もまた元気にやってるといいが。
*
暗い路地を進む。
既に陽の光は射すことを諦め、烏の鳴き声だけが響く。
「ご主人様、こんなところに例の方がいらっしゃるのです?」
「ああ、あの人はちょっと変わり者なんだよなぁ」
その薄暗い路地の一角にあるドアを叩く。
「ごめんください」
返事はない。
しばらく待っても反応がないので、一旦時間を空けよう。
「仕方ない、とりあえず宿に──」
そう思って踵を返そうとした時だった。
「あわわ、待ってくださる!? さっきまでちょっとお花を積んでて! アレがないと困るのよっ!」
変態不審者だ。
下半身は生まれたままの姿で桃色のツインテールを揺らしながらドアから飛び出す変態不審者が、そこにはいた。
容姿端麗。
その女性はそのすらりと伸びた手足を携えた身体を揺らす度に絹のような髪が波打ち、まるで完璧な美少女を絵に書いたような容姿である。
パンツ履いてないことを除けば。
「ふぅ、間に合ったァ」
変態不審者は安堵の息を漏らす。
「……」
「……」
ペネロペとマキナは言葉を失う。
「お久しぶりです、師匠。ちなみにですがその格好、全然間に合ってないですよ」
「ば、バカ弟子!? あんた黙って出て行っちゃうから……」
変態不審者こと師匠は俺を抱きしめる。
上半身だけを見ればドラマチックなワンシーンだが、やはり下半身は履いてない。
「わっあるじさま……!」
ペネロペの動揺が限界に達している。
「……って、ああ!」
師匠はようやく自分の状態を俯瞰して見ることができたようで、ものすごい勢いで顔を赤く染めていく。
いや、それどころか彼女の温度は更に上昇し、その熱は俺の脚を伝って流れ出す。
具体的には、失禁した。
「あ、ああ……。あああああ!!」
甲高い師匠の悲鳴が耳に届く。
「あの、風呂場を借りてもよろしいですか、師匠?」
「……うん」
あまりにも残念過ぎる再開だった。
本当はすごい人なんです、本当に。
こうして俺は、師匠リコと再開した。
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