安寧の地・ヤカシュ
やっとついた、商業都市ヤカシュ。
ここは遠方から流れる川と海が隣接していて、その水面差を利用した水上エレベーターなどが大量に設置されている。
空を見上げると架け橋、架け橋、架け橋。
天空の水路を無数のボートが行き交っている。
都市の半分以上は水に浸されており、移動は基本的にボートとなる。
「す、すごい……!」
ペネロペはその景色を見て、目をキラキラさせている。
俺も初めて来た時は田舎者ってことがバレてしまうような大きなリアクションを取ったっけか。
「実に興味深いです。人類の工学もここまで進歩していたのですね」
ペネロペも随分と興味あるようだ。
だが、アレはなんだ。
高く、赤くそびえる鉄の塔。
頂上には不気味な赤い光を時折発行させている。
あんなものは見たこともない。
分からないが、何かとてつもない邪悪な何かを感じる。
時間はある、ついでにあの赤塔について調べておくか。
「さあ、入ろうか」
さあ、仕事の時間だ。
*
「おーい! ハルの旦那ー! 久しぶりだなー!」
目的の大きな声を聞けて、俺は心の中でガッツポーズをする。
「会いたかったよ、兄弟」
身長193センチ、赤い高価そうなお召し物を身に纏った、痩せ型で額にかけているゴーグルが特徴の男。
こいつこそが俺の数少ない親友、鍛冶師であり服職人でもある、宝飾品店のオーナー、カリスマデザイナーのジョセフ。
彼は変わり者だが、鍛冶師としての腕前は一流で、副産物としてペンダントなどの宝飾品も打ってみたところこれが好評で、今では彼の作る服はブランドの価値が極めて高い天才である。
そして彼が今回の俺の仕事のキーパーソンとなる。
「はっはー! おー! お前随分若作りしてんなぁ。そしてそちらの嬢ちゃん方はお前の奴隷か?」
ジョセフは俺の後ろに控えているペネロペとマキナに視線をやると、俺に問う。
「お前、俺が奴隷嫌いだってこと忘れてないよな?」
思わず握り拳をくれてやりたくなる。
「ちょっと待て待て、怒るなって。いやーすまねえな、ここヤカシュでは奴隷の地位は昔より上がってるんだ。それこそ娘と奴隷を間違えても誰もどやさないくらいにはな。だからつい古い友人のタブーを忘れちまってたぜ」
そんな馬鹿な、奴隷の地位が向上しているだって。
その夢物語のような事実を確かめたくて、俺は辺りを見渡す。
一人、大道芸人の紳士然とした老人と少女の姿が目に止まる。
「さて、こちらは私の最も気に入っている奴隷、ブリジットです。どうか彼女の芸をご覧あれ!」
老人がそう告げると、少女は松明を手に持ち、それを咥える。
やはり暴力的なだけの、松明の火を口で無理に鎮火する見世物に奴隷を使っているだけじゃないか、そう思った時だった。
「なんと! 松明は花束に変化している!」
彼女はこちらに歩み寄り、俺の手元にその花束を送る。
「ヤカシュにようこそ、旅人さん!」
その朗らかな奴隷の少女の表情に、様子に辺りはどっと沸き立ち、歓声を上げる。
その後老人は少女の頭を撫で、ライチのような高価そうな木の実を褒美として与える。
少女の顔には不満も、不安も一切ない屈託のない笑顔だった。
一芸の習得に苦労した先に得る喜びを確かに見出している。
彼女は疑いようのない、達成感を浮かべていた。
老人との関係は主従のそれをとうに越えており、最早親子とでも言えるものにしか見えない。
そうか、ここがヤカシュか。
奴隷が解放される唯一の地とでも言うのだろうか。
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