最強たる由縁 後編
「さて、続けようか。魔道具の効果もあるし、逃げられないのはお互い様なんだろ?」
俺がカードを引こうとすると、悪魔はデッキをぶんどり、よくシャッフルしてからシューにデッキを戻す。
「あ、ああ……。別に来るカードが分かったところで俺様に勝てるはずがないんだ……ははは」
恐らく隠し持っているだろう最後のAのことを言っているのだろう。
だが、それも利用させてもらう。
「スタンド」
俺は今引いた15のハンドで勝負に出る。
「ば、馬鹿な……。15だと? そんなので勝てるわけが」
「どうかな?」
恐らくこいつはこう思っているはずだ。
15という弱過ぎるハンドでこの自信満々な態度に、裏があると。
事実、手が震えて怯えのしわが顔に浮かび上がっている。
「ぬうううん!」
男は勝てるにもかかわらず、21をイカサマでいつでも出せるにもかかわらず、悲鳴にも似た雄叫びを上げながら21のブラックジャックを出す。
「……俺の負けだな」
俺はブラックジャックに負けた。
「か、勝ったぞぉ! うおおおお! 少女! お前の命をいただくうわははは!」
「い、嫌……!」
雄叫びを上げる悪魔と、それに怯えるペネロペ。
魔道具が反応し、ペネロペと悪魔の足元に魔法陣が表れる。
「うーんでは! いただきま……あへ?」
逆だった。
喰われるのは司祭を装った悪魔の方だった。
「んぎゃああああ! どうして! 何が起きている!」
「──|Winner, winner, chicken dinner《俺の勝ちだ。今夜は豪勢な食事にでもするか》」
魂が、身体が魔力に変換されてみるみるペネロペに吸い込まれていく。
「すごい……力が溢れてる……」
まあ、ペネロペに悪魔が喰われるのは当然の結果だろう。
「お前ぇ! 商人! 何をした!」
そろそろネタばらしの時間だな。
「簡単な話さ。俺のスキル『真理のひも』はそいつを構成する全てを覗きみることができる。お前は悪魔の中でも貧弱なただの夢魔。雑魚中の雑魚だ。対してペネロペの中に潜む悪魔からはとてつもなく大きな力を感じる。悪魔は共食いする時、強い方がベースになるんだったよな」
「まさかこの少女は俺様が信仰する疫病、運命を司る悪魔アルミナ様の憑依者! しかし貴様が初めから俺様が夢魔と分からなければこんな計画思いつくはずもない! ど、どういうことだぁ!」
この男から出たアルミナという悪魔の名前。
計画通り、それを聞き出せて良かった。
やはりペネロペは少し特殊な悪魔憑きだったらしい。
「こいつは傑作だ。よく見れば同族だと分かるものを、俺に対する警戒と怯えで怠ったらしいな。俺は戦う前から確信していた。いいぜ、教えてやろう。主流な四神教の敬虔深い司祭は妻子を持たないんだよ。だのにお前は自らを敬虔深いと語る矛盾があったからなぁ」
「しょ、しょんなぁ! 思い返せば、部屋への侵入への許可をしたのもお前だった! 悪魔は許可が無ければ入れないという事を知っていてなのぉ!?」
生憎とこちらはその手の邪教崇拝の文化に詳しいんだ。
悪魔は目に涙を溜める。
もう遅いがな。
「最後に誤解をひとつだけ解いておくとしようか。俺が賭けに勝負したのは駆け引きが好きだからじゃない。確実に勝てるという確信があったから勝負したんだ。つまりなんだ、俺に挑んだ時点でお前の敗北だったんだよ」
霧散せよ、悪魔。
「ぬわわわぁぁん!」
その能力の全てをペネロペに吸われ尽くし、跡形もなく悪魔は消えるのだった。
これは夢魔による悪夢。
時期に悪夢は覚め、既に目を覚ましているマキナと合流できるだろう。
「ごめんなペネロペ、怖い思いをさせちゃったな」
「ううん。あるじさま、すっごく強いんだね……! 安心しちゃった。私も強くなったみたいだし」
くしゃりと微笑むペネロペ。
この笑顔を守りたい、ペネロペを怯えさせてしまったことは、今回の作戦の一番だめなところだったな。
*
個体マキナは覚醒する。
神候補生として、馬車の上で居眠りなど情けのない醜態を晒してしまったものだ。
辺りを見渡すと木々の先に目的の都市国家が見える。
そしてその視覚を遮るように、夢魔は現れる。
「ぬごぁぁ! はぁ……はぁ……。命からがら脱出は出来たが……。あの男……!」
息も絶え絶え、司祭の皮を被っていた、放っておけば今にも死に絶えそうな例の悪魔が現れる。
「あれ、さっきぶりですね、悪魔の人」
私の声にぴくりと耳を傾ける悪魔。
「お前は……ひぃ!」
情けのない声を上げるので、思わずどうしたものかと人差し指を顎に乗せて頭を捻ってしまう。
「いやぁ、実は私、信者三号を探しているんですよ。ほら、私神候補生なので。信じるものは救われる、私を崇め奉るのでしたら、その命拾ってあげてもいいんですけど、どうします?」
「神候補生? だ、誰がお前なんかにぃ!?」
随分と物腰穏やかだったはずの態度とは打って変わってしまった悪魔。
「いいんです? ほら、もう指先消えかかってますけど」
「あぎゃ……? ノォ! 頼みます、俺様を助けてくださいませ! 神様お助けぇ!」
悪魔は必死の形相で私の足にしがみつく。
「うーん、やっぱ獣の病理とか治すのノンノン。悪魔キャラなんてお姉ちゃんとキャラ被りですし、一応あなたお姉ちゃん殺そうとしてましたし? やっぱナシで。まあ、来世では上手くやってくださいね?」
私は光を返さない黒魔法、黒檀の鉄棒を作り出すとそれを悪魔の脳天に指先ひとつで飛ばす。
「そんにゃあ! 今の問答の意味はァ!? 俺様はぐふっ!」
悪魔は闇に飲まれて消え去る。
これにて完全消滅。
「うーん……マキナ……ちゃん……?」
丁度一仕事終えると、馬車の上から眠り眼を擦りながら上体を起こすお姉ちゃん。
そんな仕草をする彼女の姿は愛らしく、やはり悪魔を仲間にするのならこっちがいい。
「おや、おはようございます、おねえちゃん」
神の真体と成るのには、彼女の協力が不可欠となるだろう。
これから先も末永く、お姉ちゃんとはいい関係を続けていきたい。
それに、ひとつ興味深いものが。
眠りから冷めようとするご主人様の手には、悪魔の用いていた決闘のペンダントが握られていた。
その魔道具の使い道はかなり多岐に渡りそうで、考えるだけでもご主人様の活躍が浮かぶようだった。
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