最強たる由縁 前編
「無敵だと……? 状況が分からないのか、お前がたったの一度負けるだけでその少女が絶命するのだ。そうしたら次はその銀髪の娘、そして最後に貴様だ。既に絶望の顔が脳裏を過ぎるなぁ!」
司祭だったはずの悪魔は大きく裂けた口を開いてよく喋る。
銀髪の少女、つまりマキナは私ですかと表情を曇らせる。
「ああ、やれるものならな。ほら、続きをするとしようか」
「くぅ、小癪な。……いかん、勝負は圧倒的だというのになんだこの不安を煽られる気持ちは……!」
俺はシューからカードを1枚引き、それに合わせて悪魔もカードを引く。
もう1枚引くと、俺のハンドはKと3で13になった。
「いいね、ツイてる。スタンドだ」
俺がそう言うと、悪魔はどっと笑い出す。
「くぅ……あーはっはっは! 馬鹿め! なにか考えがあるように見えたが、とち狂ったなぁ! 13が21以下になる数字は8通りだが、21を上回る数字は5通り! 商人は常識的に足し算引き算もできないのかいぃ!」
悪魔はカードを引く。
悪魔のハンドは12となる。
「ほら、お前のは9通りだな。引いた方がいいんじゃないのか?」
俺は悪魔にカードを引くように促すと、当たり前だと悪魔はカードを引く。
「ほへ?」
悪魔の引いたカードはQ、つまり22でバーストだ。
「まあ、当然だな」
どうやらこの悪魔は足し算引き算が計算の限界らしい。
「な、なんだと……。俺様は相手の手札と自分の手札からどちらが有利かの確率を、人間の数百倍もある記憶力で全て暗記している! 俺様の計算に狂いはないはずだ!」
悪魔は動揺を隠せないでいるが、ブラックジャックのチートシートを脳内暗記というのはまず基本中の基本だろうに。
ギャンブルで賭けを行うのは具の骨頂、俺は勝てる試合にしか乗らない。
「そいつはご立派なことで。さあ、時は金なりと言うからさ、ゲームを続けようか」
「あ、当たり前だ!」
その悪魔の危機迫る表情を見たマキナは、はっと手を叩く。
「なるほど道理で! ご主人様、これはゆ……」
瞬間、マキナは消滅する。
「……マキナ!」
俺の中で怯えていたペネロペは叫ぶ。
「大丈夫だよ、ペネロペ。マキナは神候補生だからな」
全く、マキナの閃きの力は少し強すぎだ。
この状況を理解してしまったら、こいつを倒すことができなくなる。
謎解きは後だ、今はこいつを倒すことに集中しよう。
「そんなことよりお、俺様は引いたぞ。お前も引け!」
「はいよ」
俺はカードを引く。
ハンドは6と5で11、無論ヒットだ。
そしてもちろん21のハンド、美しきブラックジャックが完成する。
対する悪魔のハンドは10。
「く、くぅぅ!」
悪魔はカードを引く。
いや、引いてないな。
男は袖に隠したディスペンサーからAを手元に加える。
それは恐らくイカサマによってキープしていたAであり、これで3枚目のAを投入したことになる。
ワンデッキにAは4枚入っているので、おそらくあと1枚隠し持っているだろう。
互いにハンドは21で引き分け、続けてプレイする。
次は俺の手札は21、悪魔はバーストで俺の勝ちとなった。
「オー! マイッ! あと1度勝てばいいはずだのに! なぜ勝てない!?」
悪魔は激しく頭を抑える。
少し話をしてやるか。
「問題だ、目の前に食べ頃の少女が左、中、右に3人並んでいる。だがそのうち2人はお前と同族の悪魔で食ってもおいしくない。ここから本題。お前は左の少女を喰らおうとした時、真ん中の少女は自らを悪魔だと明かした。お前は最初に選んだ左の少女と右の少女、どちらを食らうべきか?」
俺の問いに、悪魔は少し考える。
「そんなもの、どっちでも一緒だ!」
「なぜそう思う?」
「残った2人のうち1人が人間なのだから、確率は1/2に決まっているだろう」
やはり思った通りの答えが返ってきた。
「不正解だ。確かに悪魔の少女の情報を知らなければ、どちらでも良かったかもしれない。だが、俺たちは既にハズレの情報を手に入れている。だから左の少女が人間の確率は1/3だ。2/3の確率で人間の右の少女を選ぶのが正解だったんだよ」
悪魔の額には汗が浮かぶ。
その表情は怯えだな、見ればわかる。
「まさかお前、初めから全部出たカードを記憶していたのか……?」
「それは当たり前だ。ついでに当ててやろうか。次に来るカードはダイヤの9、次はスペードの2、次は……」
「もういい! お、お前は一体……何なんだ!?」
「俺はただの商人だよ。職業柄ちょっとばかし計算に強いだけだ」
自慢じゃないが、俺が勇者パーティに招かれたのは、実際は糸による支援能力ではなく、頭脳を評価されたからだ。
こと頭脳戦において俺に勝てる生物は神であろうといない。
「さて、続けようか。魔道具の効果もあるし、逃げられないのはお互い様なんだろ?」
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