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タダより怖いものはない

 状況を整理しよう。


 俺たちは礼拝堂を持つ司祭然とした男と出会い、客室で一泊するよう提案を受けた。


 何も特別警戒するような話ではないだろうが、この男は客室に関して『無償』で貸し出そうとしている。


 無論、『タダより怖いものはない』はずだ。


 この男には何かある(・・・・・)と、俺の直感がそう告げている。


「つかぬことをお聞きしますが、奥さまはどちらに?」


 司祭ははて、といった困り顔をしてみせるので、続ける。


「敬虔な貴方様ならば存じ上げているかとも思いますが、その左手の薬指につけた指輪は婚約の証。つまり奥様がいらっしゃるのかと思いましたので」


 そう俺が聞くと、司祭は朗らかな笑みを浮かべて語る。


「ああ、妻ならばつい先日先に旅立ってしまいました。いや失礼、妻もまた私と同じく信仰深い教徒でありましたので、きっと遠くないうちに天界にて再開するでしょうからお気に召されるな」


 なるほど、これで安心したな。


「そうでしたか、失礼を。では、ありがたく客室を使わせていただきます」


「ええ、どうぞごゆっくり」


 俺と司祭が握手をした後、俺たちは客室に入ることにした。






     *






 客室の壁にはあらゆる動物の剥製があり、床には綺麗な虎の絨毯が敷かれている。


 ベッドは一人分しかないが、なんとシーツは絹で出来ている。


 俺は客室で、一息つく。


「おじさん、親切な人だった……」


 ペネロペはほっと胸をなでおろす。


「いやー、うさんくさい話にも乗ってみるものですね!」


 マキナもまた満面の笑みを浮かべたままベッドにダイブする。


 それはマナー違反だろ……。


「ああ、話が分かる人で助かったよ」


 突如、暖炉の火が消える。


「なに……?」


 震えるペネロペを俺は抱きしめると、静かに長机の椅子に着席する。


「入ってもらって結構ですよ、司祭さん」


 俺の言葉に呼応するように、司祭はノックはせずに客室へと入る。


 その時、灯りは再び灯る。


「いやはや、商人とは思えぬ気配察知の冴え。お見事ですな」


 司祭はまたも顔をクシャッとさせる。


「それで、御用は何でしょうか」


「折角客人が来たのですから、久しぶりにゲームでもしたくなりましてな」


 司祭の手にはカードの束とボードゲームの駒が握られていた。


 そういう手段もあるのかと感心する俺。


「ほう、トランプですか。これまた趣深い」


 司祭とギャンブルとは、これまた奇妙な組み合わせだ。


「はは、男の子ならば誰しも夢を見るものです。私も若い頃は……いや失礼。では、三本勝負でブラックジャックというのはどうでしょうか、旅の方」


 ペネロペはトランプに興味を示しているが、赤の他人のため距離を置いて遠くから眺めることに徹している。


 マキナの方はじっと俺と司祭のやりとりをにこにこしながら伺っている。


 ここは一つ、見せつけてやるか。


「ほう、ブラックジャックですか、初めてやりますね。ですが私得意なんですよ、カードゲーム。そうですね、誓ってそこの少女の命も賭けれるほどには、ええ。数試合練習させていただけますか?」


 俺は冗談めいた感じにペネロペの方をちらりと視る。


 ペネロペはおー、と目を輝かせている。


 どうやら興味を持ったらしい。


「く、くくく。あいえ、ではそれでやりましょう。ルールは至って普通のブラックジャック。まずは2枚ハル様にこのトランプカードをお配りし、カードを引く(ヒット)カードを引かない(スタンド)か宣言して頂きます。その後は私がプレイし、最終的に場のカードが21に近い方の勝ち、ただし21を超えると超越敗北バスト。それでよろしいですな?」


 丁寧な男の説明に不自然なところはなく、確認するまでもなくゲームはごく至って普通のルールのようだ。


「それでお願いします。ただし、まあ……。こういっちゃなんですが、すぐ終わっては味気ない。ですので3本先取にしませんか?」


「ええ、いいでしょう」


 俺と司祭は何回か普通にブラックジャックを遊ぶ。


 間違いなく普通のブラックジャックだ、盤面に1度もAが現れなかったことを除けば。


「では本番を。カードを配らせていただきます。この戦いに偽りなし(デュエル)…─」


 そういうとペンダントは輝き、司祭はにこにこしながら身につけていたペンダントを邪魔そうに机の上に置くと、慣れた手つきでカードを切っていく。


 そうして出来上がった山札をカード入れ(シュー)に置き、どうぞと手を差し伸べる。


 ブラックジャックのタイマンだからか、どうやら不正が起こらないように俺にカードを引かせてくれるらしい。


 俺が1枚引くと司祭も1枚引き、それを場に出す。


 続いてもう1枚俺が引いて場に出すと、司祭は続けて引き、そのカードの数字を確かめた後裏向きに場に出す。


 俺のカードはスペードとエースのA2枚、Aは1と11、自分に都合の良いカードとして扱うことの出来るカードだ。


 対して司祭はJの絵札、つまり10だ。


 普通ならばAの2枚は|カードを分けて1回に2度勝負スプリットを選択するところが常識だが、この司祭はイカサマをしてAの登場するタイミングを管理していると見ていい。


……だが、敢えて乗る。


「スプリットだ」


 俺は2枚のカードをシューから取り出すと、それぞれの場に出す。


 8と9、合計で19と20だ。


 さあ、動いてみろ。


 俺は手を横に振ってターン終了(スタンド)の意思表示をすると、男は1枚カードをめくる。


 いや、やはりめくってはいない。


 熟達したイカサマの術だ、袖に隠してあるカードディスペンサーにより、カードを受け取っている。


 そのカードはまさしく……


「ダイヤのA。ついてませんでしたな、ハル殿」


 両方21。


 ブラックジャック。


 その数字の輝きにもはや勝てるものは存在しない。


 その時、司祭の容姿は既に異形の悪魔へと変貌していた。


 異形の角、爪、怪しく輝く赤眼。


「ええ、全くだ。悪魔」


「く、く、く。私は契約のデーモン。この魔道具、決闘契約のペンダントによりお前が負けた時、そこのペネロペという少女の命からいただくぞ! バカめ、まんまと勝負に乗ったことを後悔するがいい!」


 司祭だった何かは大きく口を開け、にやにやと不敵な笑みを浮かべる。


「い、いや……」


 ペネロペは震えながら俺にすがりつく。


「ごめんなペネロペ、心配させて。だけどまあ、大丈夫だ」


 これで0対2、あと一点取られたら負けだ。


 しかし、微塵も負ける気などない。


「全く、この分野において俺は無敵だよ」


 さあ、反撃開始と行こうか。


******

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******


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