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暗い森の中で

 俺は寝惚けた眼を擦り、辺りを見渡す。


 すっかり暗くなった空を見て、慌てて飛び起きる。


「しまっ……!」


 行商において居眠りなどありえない。


 これならば徒歩にすべきだったか。


「おはよう、あるじさま」


 涼やかな草原に吹く一陣の風のような声音で思い出す。


 俺の傍にいる少女は悪魔憑きのペネロペ、旅のついでに彼女を故郷へと帰してやることが、俺の大切な目標。


 そのことを改めて再確認する。


「おや、目が覚めたんですねぇ。おそ(・・)ようございます。昨夜はおたのしみでしたね!」


 俺に軽口を叩く少女は少女ではない。


 神候補生であり、俺の端末兵器として機能している古ドワーフのロストテクノロジー、ホムンクルスだ。


 だが俺は気の置けない仲間ができていたことに、今更気がつく。


 勇者パーティの頃はもっとひりひりしていたっけか。


 俺は特大のあくびを繰り出すと、マキナがくすくすと笑っていることに気がつく。


「いやー、あくびをする仕草もなんともかわいらしいですねぇ」


 かわいらしい? おじさんのあくびがか?


「その……ごめんなさい。こんな効果が出るなんて知らなくて」


 俺は彼女達が何のことを言っているのか分からなかったので、俺はまず違和感を探すことにした。


 あくびがかわいらしいというのはつまり、容姿の話だろう。


 俺は服装を調べるが、なんともない。


 次に髪を触る。


 髪の毛が抜けている……わけではない。


 わけではないのだが……。


「な、なんだこれは」


 髪が非常に長いのだ。


 俺はどうなっているのか気になり、飲み水を溜めているツボに映し出された自分の髪を見る。


 するとどうだろう、髪だけでなく、顔のシワも少なくなっている。


 腹回りも少しシャープになっており、これはもうそういうことだろう。


 結論。ペネロペの吸血行動により、俺は容姿が全盛期に若返って髪が無造作に伸びてしまったということ。


 吸血思いっきり影響してるじゃないか。


 つまり吸血が与える影響を確かめるために使ったスキル『真理のひも』がまだ未熟だったということだろうか。


 ならしっかり普段から使って熟練度を上げておかないとな。


「若い頃のご主人様は背丈のわりにかわいらしいお顔をされていたんですねぇ。まあ今までもかわいらしかったですけど、ぷーくすくす」


 マキナは俺の190センチに届かない程度の容姿を見てげらげらと笑い転げているが、ペネロペは申し訳なさそうに俺を上目遣いで見つめている。


「気にしないでいいんだぞペネロペ。むしろ身体が軽くて気分がいい。こうやってマキナにお仕置きしたくなるほどに、な!」


 俺は不意をついてマキナの脇腹をくすぐる。


「ぎゃはははは! あー! しぬーっ! ひーっ!」


 悶絶するマキナになんとも言えない背徳感と興奮を覚える。


 案の定楽しいな、これ。


 その時、俺がマキナの弱いところを蹂躙している最中、あることに気がつく。


「なあマキナ。ここ──どこだ?」


 俺は再び辺りを見渡す。


 正面に建物が見えているからてっきり目的地の都市国家にたどり着いたものだと思っていたが、どうやらその通りではなかったように思える。


 なにせ建物は古びた聖堂と一軒の民家、それに物置らしき家屋が一軒。


 たったそれだけ。


 辺りはうっそうと木々に覆われており、どことなく恐怖心を抱かせる。


「へ? 言われた通りの場所に来たはずですけど……」


 もしかしたらマキナはとんでもない方向音痴なのかもしれない、そう思って地図を開いてマキナと来た道を確認する。


 しかし、大きく道を逸れた痕跡はなく、どうやら俺たちは目的地の近くの山奥で迷ってしまったようだ。


 とりあえず俺は長ったらしく伸びた髪を後ろにまとめて糸で縛り、馬のしっぽのようにまとめると、馬車を降りて建物を調べることにした。


 その時、奥の民家から一人の男が現れる。


「遠路はるばるようこそおいでくださいました、今日はこの出会いに、主に感謝しましょう」


 その男は純白の高価そうなローブを身にまとっていて、司祭という肩書きがいかにもしっくりくる風貌をしていた。


 そして手には器を持っており、つまりなるほどそういうことかと納得する。


「初めまして。私はハル、商いをしているものです。つかぬ事をお聞きしますが、こちらは?」


 俺はそれとなくこの異質な場所に対する説明を要求しつつ、目の前の器に銀貨を1枚置く。


『ただより怖いものはない』。この司祭然とした男の『善意』には相応の対価が必要なのだ。


「ありがとうございます、はは。では質問に。何の変哲もない、ただの礼拝堂と老骨が一人住むのには勿体ない小屋ですよ」


 聞き方を間違えたな、地図を見せてここがどこに当たるのかを聞きたかったのだが。


「ささ、もう夜も深い。実は私、布教活動の一環として異教徒が迷い込んでも道をやり直せるよう教えを説くことに人生を捧げております、そのために嫌な思いをさせないように普段からその小屋は客室として使えるよう整えておりましてな。どうぞそこな小屋で遠慮なくおくつろぎくださいませ」


 司祭は俺たちを小屋へと案内する。


 確かにもう夜遅いし、立ち話で質問するのも失礼な話ではある。


 だが、うまい話には必ず裏がある。


『タダより怖いものはない』。


 俺はもう少し司祭の腹を探ってみることにした。


******

大事なお知らせ

******


『面白いかも』

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