超ひも解釈
は、恥ずかしい……!
このステータスを見た俺が抱いた感想は、羞恥の一言に尽きた。
力、というのは恐らく物を持ったりする時に使うステータスだろう。
人間は経験によってものや装備を持てる重量が一定の値で決まっており、それよりも多く持とうとすると途端に足が地面にめり込んでしまったかのように身動きが取れなくなる。
確かに行商をしている俺は人よりも力は強いはずだが、それだけでは説明がつかない力の成長率D-による実数値9990。
さらに追い打ちをかけるように、並々ならない間違った方向への努力を近接武器の扱いFの熟練Lv.43という負のパッシブスキルが物語ってしまっている。
この羞恥により、俺は多大なダメージを受けていたのだった。
「相当苦労されたんでしょうね〜。私に保存されているデータベースでは、剣の道に走った熟練の兵士ですら普通は剣の扱いに関わるスキルの熟練レベルが40から50ってところみたいですからね」
マキナの言う通り、俺は本当に無駄な研鑽をしていた時期があった。
まあ、俺にも大それた夢があった時期もあったという話だ。
今の夢はただ街の喧騒から離れられそうなところに大きな邸宅を建てることだ、忘れたいことは忘れるべきなのだ。
かつての夢は幻想だったのだと、あの女が証明してくれたのだから。
そんなしんみりした話はやめにしたいので、次に気になっていたことへと話を逸らすことにした。
「まあな。それよりも熟練レベルが0のスキルがあるんだが、これはつまり俺がこのスキルの存在に今まで1度も気付かなかったってことか?」
俺がマキナに問うと、彼女はうーん、そうなんじゃないですかね、と頭を捻って呟く。
「とりあえず使ってみましょうか、このスキルを発動するにはパスワード……つまり詠唱が必要みたいですね。では、次の文言を真似てみてください」
魔術師にもなれなかった俺が魔術師の真似事とは、なんとも皮肉なことだ。
俺はマキナの言うがままに、特に考えなしに詠唱を真似る。
「解き明かしてみたら、始まりはひもであった。最初に触れるは炎、捻れて伝わり、震えて怒り、虚無を灯して燃やし尽くせ……」
絶妙に恥ずかしいセリフだな、と考えていると、直後に凄まじい目眩と頭痛がやってくる。
頭が割れそうな思いで必死に耐える。
「う、ぐ。あぁぁぁ……」
「ち、ちょっとご主人様!? 大丈夫です?」
「あるじさま……!」
マキナとペネロペは俺の裾を握ると、心配そうに顔を覗き込む。
あどけない少女の表情が映ると、徐々に苦痛が軽減されていき、次第に痛みそのものが消滅し、思考がクリアになった。
呼吸を整えてから周囲を一望する。
「ここは……どこだ?」
俺は唖然とした。
世界が生まれ変わってしまったのだ。
机は精巧な編み物のように細長くうねる物質が幾重にも重なっているし、俺の手は雁字搦めになったひもが、かろうじて手の形をしているようにすら見える。
「あるじさま……?」
人形のように精巧に編み込まれた美しく端正な顔立ちが俺を覗き込む。
いや、人形などではない、俺は確かに宿にいたし、席の位置からすればこの編み物こそがペネロペなのだ。
一つずつ元の世界との整合性を頭の中で整理していくと、変わってしまったように思えた世界はなんら変わっておらず、むしろ俺の世界に対する認識の方が変わってしまったことに気がつく。
自分の認識を正しく理解すると、やがて視界は以前のような落ち着きのある紡がれた世界へと戻っていった。
「そうか、理解したぞ」
俺は食卓に並ぶ皿の上の、ペネロペとマキナとの出会いを祝して奮発した牛肉を少し齧る。
するとどうだろう、牛を構成していた肉体の元素の組み込み方の設計図が、頭に流れ込んでくるのを感じる。
俺は席を立って魔力糸と物理糸を織り交ぜ、設計図の通りに組み上げていく。
「やはりそういうことか」
するとそこには、筋骨隆々の若々しく力強い牛が現れたのだった。
「ははーん、ご主人様はやはりただものではなかったようですね」
「あるじさま、これは……?」
一度糸を解き、牛を崩す。
「これはシンプルな答えなんだ、ペネロペ。解き明かしてみたら、世界はひもだったんだよ」
世界の真理を読み解こうとした賢者はかつてこう言ったという。
この世の万物を形作るものは地水火風の元素でできているが、それは最小の単位ではない。
元素ですら何かの組み合わせであり、それはあってもなくてもいい確率そのものであるか、ひもなのだと。
俺は糸の最奥に至る。
解き明かしてみたら、世界はひもであった、と。
名付けるならば、そう。
『超ひも解釈』と言ったところだろう。
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