オーパーツ
俺たちはドワーフの迷宮を踏破した、そのはずだった。
最近流行りの子供向けゲームブックならば、迷宮は俺たち攻略者を讃え、宝箱がダンジョンの奥にぽつんと都合よくあるのが常識だ。
だが現実はそう上手くはいかないのが常。
「く、やはり来るよな」
地面が揺れる。
海の向こうの東の国では地面がよく揺れ動く、なんて話を聞くが、それは災害としての地震だ。
これは作為を感じる、迷宮崩落の合図だ。
「あるじさま、逃げないと」
ペネロペは身の心配をして俺の袖を掴む。
「ああ、分かってる。じゃあ行こうか」
だが、俺たちが進むのは後ろではない。
前だ、前に進むのだ。
「あるじさま、そっちは出口じゃない……!」
いいや、こっちで正しい。
この奥には間違いなく人がいるのだから。
無論、根拠はある。
まず始めに、この部屋に来る前に来た質問の数々だ。
あれは単純明快、人間である俺の思考を入力させたかったのだ。
古ドワーフは無限の可能性を秘めた器具を作り出したが、動力は無限ではない。
その動力源は、人間種にのみ宿る魔力である。
魔力を持たないドワーフは考えた。
ならば人間を作ってしまえばいい、と。
骨と糸に演算処理を行う基盤、そしてそれらを塊として留める膜さえあればそれは人として世界に認識され、神から祝福を受けて魔力が流れることを解き明かしたドワーフは、それをホムンクルスと名付けた。
ホムンクルスなど、お伽噺だと鼻で笑う者がほとんどだ。
だが、この遺跡はドワーフ・ティガーが動いていた。
万能拠点防衛型自律装置、ドワーフ・ティガーはその性能の代償か、莫大なコストがかかるらしく、配備されている遺跡自体が少なく、そしてやつは必ず希少な何かを護っている。
つまり、この奥にはとんでもアイテムを落書きでも描き上げるような感覚で量産するあの古ドワーフどもが宝だと認めた、世界のバランスさえひっくり返してしまってもおかしくないような何かがそこにはある。
そしてそれはさっきの質問攻めで確信している、それはホムンクルスだ。
商人の嗅覚が、ここで引いてはならないと叫ぶ。
だから突き進むのだ。
──ついに俺は部屋の奥へとたどり着いた。
だが、何もない。
ただそこに壁があるだけだ。
いいや、そんなわけがない。
天井はすでにあちこちが崩落を始めている。
ペネロペも不安げに息を荒らげながら俺を見つめている。
どこかに秘密があるはずだ。
俺は全ての力を以って、糸を張り巡らせて空間をくまなく探知していく。
その時、正面の壁の奥には空間が広がっていることが振動によって伝達される。
「ここか!」
隠し扉の開け方は簡単、力で押すだけだ。
ドワーフ族は知恵こそあれど肉体に特殊な力を持たない。
よって隠し部屋は罠こそ多いが、物理的に入れるようになっている構造がほとんどで、事実そうやって俺はドワーフの遺跡を踏破してきた。
俺が壁に触れると、壁は真四角にバターナイフでバターを切り取ったかのような形に窪み、その窪んだ奥の壁は上部へと引っ張られ、空間への道が現れた。
俺とペネロペは転がり込むようにその空間に身をねじ込むと、ついに天井は完全に崩落し、俺たちを歓迎した扉は閉じて二度と開けなくなった。
くそ、灯りがなくて辺りが真っ暗だ。
「これは……!」
俺はどの手段で灯りを灯そうかと思案していたちょうどその時、床がいくつもの紋様を描いて光りだす。
この独特の角ばった難解な紋様はドワーフ文字、学者であれば読み解けるだろうが、生憎商人の俺には分からない。
普段ならば写だけでも持って帰りたいとか、そういうことを考えていただろうが、今回はそんな心の余裕がなく、大きく息を吸って呼吸を整える。
「あるじさま、ここは……」
ペネロペは表情を一切崩さないままに呟く。
突如、灯りが部屋銃を駆け巡る。
紋様が明滅し、奥には人影が現れる。
「……ここは鋳造せし間。神の金型。神話の始まり。端的に分かりやすく言うのであれば、そう──」
それは少女だった。
気高く、凛としていて、美しく、どこまでも聡明な眼差しで、全裸で。
「──おかえりなさいませ、ご主人様っ! 」
ペネロペに瓜二つで、ちょっとエッチだった。
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