王城に突撃!
もしかして、初話で王都に突撃っておかしい?
結局女の子は付いてくるらしいので、この子を養う許可を取りに、親がいるであろう王城に行く。
王城に行きたくは無かったけど、この際仕方ない。
ところで、どうして路地裏に来たんだっけ?
「そういえば、まだ名を名乗っていなかったね。私の名前はフューエル、エルと呼んでもいいよ。」
「わ、私わミシェルっていいまふっ!」
カミカミだが言わんとする事は分かる。
「もう少し落ち着いて話そう?」
「あ、えと、すみません!」
「別に謝ることはないよ。」
「すみません!」
‥これめんどくさいタイプの子だ。
かといってこのままにすると、まるで悪役の貴族みたいだからどうにかしないとなぁ。
とりあえず、それらしい事言ってみる。
「すみませんじゃなくて、ありがとうでしょ?」
「はいっ!ありがとうございます!」
…失敗したかも。
まあ、すみませんを連呼されるよりましか。
てか今更だけど、親は王城にいるのかな。
そういえば迷子になってたんだっけ。
‥非常にまずい気がする。
すでに別れてから一時間は経過しているだろう。
あの親のことだ、普通に騎士団を動員するに違いない。
そもそも王城に行けばいるのかすら分かってないが、いるなら大変な事になる。
「それじゃあミシェル、急いで走れるかい?」
「どちらまででしょうか?」
「あの建物、ここからでも見えるだろう?」
「あの建物って、もしかしなくても王城ですよね!こちらの道が早いですよ!でもほんとに私が行っても良いんでしょうか〜?」
「大丈夫!君はっ…僕が雇ったっ…事にしてっ…おくから…!」
胃が痛いのに走らされるとか、ついてないなぁ。
そしてミシェル、どうしてそんなに速いんだ。
ミシェルは私を見失わない様に距離を保っている。
周りから見てみれば、私はきっと凄くみじめに違いない。
なんと情けない事だろうか。
※※※
「ぜぇ……ぜぇ………」
「ここが王城ですよー」
「あっ…ありがとう……。」
城の前で父と母がいるのが見えた。
どうやら間に合ったらしい。
そういう事にしておこう、うん。
「エル…?エルなの!?どこに行ってたの!でも帰ってきてくれてよかったわ!心配したんだから!」
「すまないエル…目を離しているうちにこんな事になるなんて…。」
「はぐれない様に言われてたのに迷子になっちゃって、すみませんでした。」
「すみませんじゃなくてありがとうでしょ?」
………うん?
「あっ!勝手なこと言ってすみま…じゃなくて!ありがとうございます?」
こんな所で誤爆するとは思わなかった。
まあ、こんなおかしなことを言う子を両親が見逃すはずもなく。
「え〜と、君は誰なんだい?」
「エル、この子の事知ってる?その…言いにくいんだけど…あまりにもみすぼらしい格好なんだけど……」
「え〜と、そう!この子は迷子になっていた僕を助けてくれたんだ。」
嘘は言ってない、嘘は。
ちなみに両親には「僕」を一人称にしている。
そっちの方が幼さが出て怪しまれなさそうだし。
いやもう手遅れか?これが本当の手遅れ系。
やかましいわ。
「そうなの?だったらお礼をしないとね。」
「ありがとう!いくら感謝しても足りないわ!」
「いえ、ご主人様を助けるのはメイドとして当然の事です!」
「ご主人様?メイド?どういう事なの、エル?」
脅迫されました、とは言えない。
「そこで相談なんだけど、この子を雇って欲しいんだ。」
「別に私としては、エルからの頼み事は初めてだし、この子はエルの恩人だから構わないけど…。」
「私も構わないが、その子の保護者には許可を取ったのかい?急にいなくなったら心配するだろう。」
しまった。そこは考えなかった。
どうしようか。
「大丈夫です!両親いないので!」
果たしてそれは大丈夫なのか?
「ならよし!」
そして父さんも軽いな。
公爵やってるとそういう子はよく見かけるのか?
「とにかく急ごう、間に合わなくなるぞ。」
「え、まだ始まってなかったの?」
「当たり前だろう、何のために早く来たと思っているんだ。」
2時間前に着くのは当たり前らしいです。
※※※
城に入った後、待ち合い室にて服装を整える。
ちなみにミシェルはここにはいない。
たぶん浴室にて体を洗われている事だろう。私がそう頼んだし。
「あら、エル。あのハンカチはどうしたの?」
「無くしたのかなぁ?」
面倒事の予感がしたので、とっさにとぼける。
「えっ!あれを無くしたのかい!?あれだけで金貨を使ったというのに!?」
金貨は日本円で大体10万円くらいだったっけ…。
ハンカチだけで10万円以上ってどういう事なの…。
そしてあのおっさんが言っていたのはこういう事だったか。
ちなみに貨幣は銅貨、銀貨 金貨、白金貨の順に価値が高くなっていって、日本円で順に十円、千円、十万円、一千万円くらいかな。
どうでもいい事だが、どうして一千万円だけ一がつくのだろうか。
そんな事を考えながら、意気消沈する父を哀れむのであった。
…これって私が悲しむべきだったかもしれない。失敗失敗。
意気消沈しているふりをしていると、ドア越しに父が呼ばれた。
「さあもう呼ばれたから、大広間に行こうか。」
こちらがびっくりするほどに早い立ち直り様だった。
もしかしたら私を気遣っていたのかもしれないと思わせるほどだった。
……カーペットにつまずかなければ。
次回こそは、王女に会える…はず!