美術部員と次の一手
午前10時半に学校で、3名の美術部員に会うことになっていた。香川はなぜか続く寒気を隠しながら笠岡宅を後にした。
媛は特に感じることはなかったのか、いつも通り軽快に車を運転し、「嫌味のないいい子でしたね」と感想を漏らした。
香川は自分の気のせいか、そんなものだったかと思ったから、実は、美術部員から三原亜里沙と笠岡美登利が言い争っていたと聞いた時には愕然としたのだ。
美術部員3人は仲良し女子グループだった。要領を得ないコメントを何とか最初から時間を追って話させ、3人分を繋げ合わせると以下のようになった。
――――自分たちが部活に来たら、イチャコラしていた福山君が亜里沙から離れて美術室を出た。
入れ替わりに美登利が入ってきて、ノートを渡した。
亜里沙は美登利に絵の自慢をしているようだった。
「この絵に籠めた思いがわかる?」と亜里沙が訊き、美登利は「Love forever」と答えた。
亜里沙は楽しそうで、『鞆旗は私の彼氏で正解!』と言った。
それは、福山は元々美登利と付き合っていて、亜里沙の略奪愛だから。
「美登利はもう面談いかなくていいんじゃない?」と聞こえた。
何の面談かはわからない。
「美登利にぴったりの詩を見つけちゃった。今度はそれを題材に絵を描くわ。そしてアンタにプレゼントするの。クラい美登利もきっと楽になれる。もうムリすることないって。本のタイトルには似合わず明るい詩だから」と亜里沙が言っていた。
「天使が輪っかを落とす話。天使だか神だかは知らないけど、『ごこーそーしつ』って題」
「特待生喪失でも恋愛喪失でもいいかもね」と言って亜里沙は大笑いし、美登利は部屋から飛び出していった。
場がシラケてもう絵を描く気分じゃなくなったんで片付けを始めた。
片付け終わらないうちにまた美登利が来た。
作業机の上を平手でバンっと叩く音がした。
美登利が「いい加減にしなさいよ、最近態度悪いよ!」と叫んだ。
巻き込まれたくないんで自分たちはそこで帰宅した。――――
香川の背骨には先ほど笠岡美登利に感じた寒気が戻っていた。
「何かある、ふたりの間に何か、わだかまりが……福山を取り合った以上の何かが……」
課長にもらった刻限は昼まで、残り30分を切っている。香川の目線は腕時計に落ちたままだ。
「署に電話入れます。そしてもう一度、笠岡美登利、当たりましょう」
媛の声がした。
「いや、パスツール院医科大学か大学付属病院へ行きたい。三原亜里沙と笠岡美登利の面談者、主治医なのか研究者、か……?」
『医科大の陰謀』と『特待生喪失』のキーワードが、香川の脳内で熱を帯びて振動を始めている。
幸いなことに大学も附属病院も高校と同じ敷地内だ。高校側から連絡を取り、アポを取り付けてもらった。