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敗北宣言?


 戻ってきた媛は美登利が座っていたパイプ椅子にへたり込み、両腕をⅤの字に机上に投げ出すと、「うわぁー!」と吠えた。

 面食らった香川はつい、「お疲れさん」と声をかけた。


「セ、ン、パ、イ~、何がお疲れさんなんですか? 目の前で丁々発止の女の闘いが繰り広げられてるのに、何呑気にアリバイなんか訊いちゃうんです?」

 媛はまだ顔を上げない。


「あ、あれやっぱりまずかったか? 悪い……」

「こっちは何とか警戒させずにボロ出させようと手ぐすね引いて待ってるのに!」

「すまん」

「違うんです! 悪いのは先輩じゃない。なんであの子あんなに完璧なんですか? ヤバいことなあんにも言わないじゃないですか!」


「あ、それはお前も感じるのか。オレは最初会った時からどうもうすら寒くて、でき過ぎ感満載だと思ってたんだがな」

「いい子ちゃんぶっちゃって、特待生でなくても構わない、福山が亜里沙に惹かれても自分が付き合ってるって思ってたのが勘違いだったんだろう、亜里沙の才能が世に認められるのは素敵なこと?」


 媛は優等生に対するコンプレックスでもあるのかとちらっと思ったが、改めて考えれば媛自体がいい子ちゃんの優等生だ。自分を見ているようで嫌だ、同族嫌悪ってことかもしれないと香川は感じた。


「さっき私、英語の例文挙げたじゃないですか」

「ああ、お母さんがどうしたってヤツ」

「その程度でしょ? 先輩だって端で聞いていてその程度の理解なんですよ? あの子聞き返しもせずに理解してたじゃないですか。高2でしょ? 酷い当てこすり言ったのに」

「えっと、悪い、何だったかもう一回、プリーズ?」


 語尾を尻上がりにして可愛く装ったが、媛は顔を上げてはくれず、ほっぺたを机につけて横向きのまま声を出した。

「I am not your mother who looks after you every second. 発音は突っ込まないでくださいね? 私はいつもいつもアンタの面倒見るママじゃないんだからね!ってことです」


「それを聞いてもあの子はさらっと会話を続けてたな」

「そうなんです。文系得意だとは言ってましたけど、頭いいって聞いてますけど、もう少し人間らしい反応ってのが出てこないんですか?」


「お前が中座してる間にまだぼうっと海の中を漂ってるみたいだとか言ってた」

「ええ、聞いてました」

「聞いてたのかよ!」


「女は相手によって喋る話題を変えるんです。そのお手並み拝見してました」

「だから茶が冷めたのか」

「いえ、署に電話もしてましたー」

「何の報告だ?」

「報告でなく問い合わせです。三原亜里沙の所持品。教科書以外の本があったかどうか」

「お前の考えることはもうわからん」


「わからなくないでしょ? 私が知りたかったのは笠岡美登利に悪意があったのかどうかです。親友に、意図的に発作を起こさせてやろうって」

「そのくらいはオレにだってわかってた」


「美登利は三原亜里沙に相当酷いこと言われてます。お前はもう特別じゃない、偽物だって。そして男奪われてるんですよ? 発作起こさせるのなんて美登利にとったら簡単。亜里沙は美登利の好意にずうっと甘えてきたんでしょ? なんで反撃しないんですか?」


「反撃……、したのかもしれないぞ?」

「したんですか?!」

 媛はぱこんと上体だけ起き上がって香川を見たが、またぷしゅうっと机にへしゃげた。


「でも、ダメなんです。美登利のせいで亜里沙が発作を起こしたとしても、その結果死んでしまったとしても、殺人じゃないんですよ……」

「そうだな。ペースメーカーしてる知人を殺そうとして、優先座席で携帯を通話状態にしてそいつの胸に押し付ける、よりも殺人には遠い」

「ですよね……捜査一課の仕事じゃない、と課長から伝言来てます……」


 媛はやっとこさ身体を起こして背筋を伸ばすと、「潮時ですね、手を引きますか?」と尋ねた。

「いや、オレはいいものを見てる。もう一つだ」

「え、何なんですか?」

「三原亜里沙の遺体に打撲傷は無かったよな?」

「全く何も」

「じゃ、福山鞆旗と男同士の話、してくるわ。こっちは謎のままほったらかしだろ?」


「それなら私は大学ですね。あの本を持ち出した人物を特定します」

「なぜ? 三原亜里沙じゃないのか?」

「いくら附属だからといって、高校生が大学図書館の蔵書持ち歩きますか? 『医科大の陰謀』としてどこかの教授が持ってきたと言ったほうが、よほど信ぴょう性があります。それに、三原亜里沙のカバンには、高校図書館で借りた文庫本の『パリの憂鬱』があったんです。亜里沙が読むなら基本和訳でしょう」


「絵を描くために字の色や形を見たかったんじゃないのか?」

「たった一人のときに危険を冒して? 少し待ったら大好きな福山君が来てくれるのに? 福山だって自分のいないときにアルファベット見ようとするな、とか注意してたと思いますよ」

「わかった、そこも聞いてみる」


「よろしくお願いしまーす」

「お前、オレの扱いがどんどん悪くなってる……」

 今度は香川が机に沈んだ。


遥彼方様の「イラストから物語企画」の締切12月15日に間に合うのはここまでのようです。


あと、数話残すだけなのですが、ごめんなさい。

ご迷惑おかけします。

16日中には完結予定です。

ここまで読んでくださっている方、心から感謝申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語のうえでは短時間、それを追いかけていくような密度と速度でした。 短期間でここまで書けるものなのか、と驚嘆いたしました。 ですが、これはさすがに無理ですよ? お後は是非、ゆっくりで。
2020/12/15 13:19 退会済み
管理
[良い点] こんにちは。 ものすごく面白いです。 本当に面白いです。 推理物って難しかったりするはずなのに、すっと入ってきて、しかも気がつくと数ページ更新されているので、全部は読めないかな、とか思…
[一言] お疲れ様です。 続きが楽しみですが、無理なさらず。
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