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空から来た魔女の物語 -site B-  作者: 咲雲
A氏のバランス破壊活動
31/70

30 装備確認 ~攻撃編~

ご来訪ありがとうございます。


《遠距離攻撃用です》


 ドクターA氏はしれっと答えた。

 うん、銃ってそういうものだよね。知っているとも。

 そして私が訊きたいのはそういうことじゃあないんだ、きみ、わかるかな?

 あの魔導刀を所持しているだけで充分ヤバいのに、それを上回るやつが出てきてしまった日にはどうすればいいのだろうか。

 現実でヒャッハーしたら転げ落ちる人種、それが私。あいにく〈東谷瀬名(オリジナル)〉ピー歳の人生の中で、嫌と言うほど実証済なのである。だから余計にあの頃は、電脳世界のヒャッハー沼に深く嵌ま……いや、その話は置いておこう。


 防御面の強化はいい、あのシールドはまだ許容できる。

 だがな、ARK(アーク)よ。きみは私にどこの拠点を襲撃させるつもりなのかね?


《魔導刀は強力ですが、敵に接近すればその分リスクが高まります。安全な遠方からの攻撃や、足止めにも対処可能になるのが望ましいでしょう》


 当たり前ですよね? と副音声が聞こえた。

 流されてはいけない。

 反射的に「あ、そうですね」と口走りそうになるが我慢だ。


「うん、近くも遠くも対処できるのがいいっていう理屈はわかる、わかるよ。ただね――ショートボウとかクロスボウとか、世界観にマッチした武器を飛び越えて、どうしていきなりコレに来たのかな?」

《マスター、弓の才能ありませんよね?》


 しまった、論破されてしまった……!


《どれほど練習を重ねられても、腕前は〝どこかに当たればいいかな〟レベルから上達の兆しがありません。投げナイフは的の中央に当たりますが》

「ぐうッ……!!」


 その通りだった。常人より強化された身体能力をもってしても、その程度に過ぎない点でお察しである。

 双剣と弓全般に関してはもう、訓練するだけ時間の無駄と明白なのだった。頑張っていればいつか何とかなる希望すらない。


 思えばファンタジーゲームでは、職業(ジョブ)に適した武器さえ装備していれば、必ずそれを振るえる仕様になっていた。技を選択すれば勝手にトルネードと化して光の斬撃を放ってくれたし、だから何の疑問もなくずっと双剣士でプレイできていた。

 だが、リアルな戦闘が謳い文句のSFゲームを思い起こすと……両刀使いだった記憶がない。どうしても高火力、高威力の飛び道具や罠がメインになりやすく、需要が少なかったのもあるが。


 そして自分で例に挙げておきながらなんだが、クロスボウも無理だった。

 弓よりいけるんじゃね? と一度それを試してみたら、うまく狙いをつけられない、当たらない、コツがわからない、射出の瞬間に必ず腕がブレる等々、しまいには嫌気がさして二度と手を出さなかった。

 

投擲(とうてき)武器は状況により回収できなくなる恐れが生じますので、下手に質を上げられません。〈フレイム〉による攻撃では()()()()()()()()()、有効射程は投擲(とうてき)武器と比較にならない距離、さらに射撃の過程を第三者に目撃されても真似をされる恐れがありません。たとえ専門家であろうと、これがどのような魔術を用いた攻撃なのか、推察のしようもないでしょう》

「――()()

《はい。ほかに気になる点はお有りでしょうか》

「…………ないです」


 白旗を上げた。これ以上食い下がっても、外す必要がありません、別に強要しているわけではありません、嫌なら使わなければいいのです――などと言い負かされる己の姿しか浮かばない。


 なんとなく、あれを思い出した。

 セット販売。

 あれもこれも付いてお得ですよ! とオススメされるはいいけれど、オマケはどれも特に欲しくないので単品くださいとお願いしたら、すべて含めた価格なので単品はありませんと断られるやつ。

 こっちは余計なものを買いたくない。あっちはまとめて売りたい。ぐうの音も出ないセールストークで畳みかけられ、気付けば術中に陥っている。

 そんな感想を口にしようものなら、同列にしないでくださいと怒られそうだが。


 それから、なんとなく。

 ……どうもARK(アーク)さん、こういうのを作るのが好きだな?





 用意されてしまったからには、もう仕方ないと腹をくくるしかあるまい。

 正直、アサルトシールドにはこれからお世話になるつもりなので、自動的に付いてくる武器の性能についても、しっかり確認しておかなければならないだろう。

 いくら積極的に使う予定がなくとも、自分の携行する武器について無知なのは危険だ。強力であればなおさらである。


 まず、基本はシールドと同様、ゲームの設定に合わせて作られているらしい。

 肉声あるいは補助脳(インプラント)を介してロック解除の命令を出し、武器を展開させる点も同じだ。


 どんなふうに出てくるかというと、三次元コンピュータグラフィックス。最初にあれのワイヤーフレームが空間に出現する。

 光の線のみで立体が表現され、線の色は金色。細い線は周りの環境で明るさが自動調整され、暗がりでは暗くなり、明るい場所では明るくなる。

 次に、そのワイヤーフレームに沿って、色を塗るように銃床が、グリップが、銃身が描かれていく。全体的に照りを抑えた黒で、アームガードと似た雰囲気の模様が、ベージュと金色のグラデーションで描かれる。

 何も障害物がなければ、ここまででわずか三~四秒だ。


 ただの立体映像ではない。ゲームでは、この〝絵の具〟はナノマシンだった。

 アームガードに小指の先程度のカプセルが仕込まれていて、普段はその中にある――という設定。

 使用者から離れない仕様になっており、右手と左手の持ち替えはできるけれど、手放すことはできない。落としたり敵に奪われる心配がない代わりに、味方への貸し出しも不可。


「使い終わったらどうやって収納されるの? ナノマシンは一瞬でカプセルへ戻ってくれる設定だったけど、あれと同じ? ていうか、知らない間に吸い込んじゃいそうで怖いんだけど」

《これはナノマシンではなく、魔素を圧縮して精製した強化物質体で覆う仕組みになっており、使用後は大気中に戻ります。アサルトシールドも同様、吸引による健康被害の恐れはありません》


 おお、正体は魔素だったのか。

 さすが万能物質魔素、何でもできるんだな……。


 生物の体内で結合した魔素は、その個体に適した魔力になる。蓄積できる魔力の多い生物は、それを利用してさまざまな事象を発生させられる。

 魔物化した生物は、長い年月をかけて環境に適応した結果であり、魔素自体は人体に有害なものではない。


 魔力が何故そのような事象を発生させられるかについては、謎が多いらしい。

 一般的な魔術は属性魔術と呼ばれ、呪文の詠唱や魔道具に魔力をそそいだりして発動させるのだが、ARK(アーク)氏でさえ「何故これでこんな現象を起こせるんだ」となるそうだ。


 この世界には〝世界の(ことわり)〟というものがあり、〝存在力〟と呼ばれるものもある。

 前者は〝そうあってしかるべき(ことわり)〟のことで、後者は〝存在そのものの持つ力〟のことだ。

 私達にとってはボンヤリとしたイメージに過ぎないこれらが、ここでは当たり前の常識で、わざわざこれの研究に取り組んでいる現地民はいない。

 「聖霊よ我が声に応えよ~」と呪文を唱えたら、水を出せたり火を放てたりする。それが世の(ことわり)、この世界がそういうものだからだ。


 ――だから何で、そんな呪文だけでそんな芸当ができるんだ?


 ARK(アーク)さんでなくとも、大いなるハテナである。現地民(ネイティブ)にとっては太古からの常識でも、余所から来た異邦人にとってはチンプンカンプンの連続だ。

 そんなわけでぶっちゃけ、魔素を集めて単純な強化物質体にするほうが、普通の魔術を運用するよりわかりやすくて楽ちんなのだそうな。

 途中で魔力にする過程を挟まない分、演算領域も節約できる。


 そうして出来上がったライフルの、肝心の性能に話を戻すと。

 グリップより前方、下に突き出した部分がある。ゲームではそこに脱着式の弾倉を取り付けるようになっていたが、これは固定部品だった。いや、部品と言うと語弊があるが。


 弾倉内部をARK(アーク)印の恐ろしく細かい魔導式が高速で動き、魔素弾を生成、常時十五~二十発が待機する。一発ずつではなく、五発ずつ一気に作るそうで、そのほうが時間短縮になるのだそうな。

 トリガーを引けば銃床内部の魔導式が連動し、弾倉から移動した魔素弾が撃ち出される。

 火薬による破裂音はなく、空薬莢の排出もない。長時間の連続射撃による過熱もない。


 フルオートは別名〝突撃モード〟だ。トリガーを引いている間、魔素弾の生成と発射が自動的に連続で行われ、弾切れはない。

 撃ち出された(たま)はどこかに当たるか、もしくは射程距離を越えて停止した瞬間から分解が始まって魔素に戻り、人工魔導結晶が再び吸収して、再利用可能になる。

 有効射程はおよそ三百メートル。

 一秒で五発。


 つい「少ないじゃん?」と突っ込みかけた自分、待て。おまえの感覚は麻痺している。

 毎秒何個の石を何百メートル先まで投げられるか想像してみるがいい。一分で三百個だぞ。手作業でそんなに飛ばせる奴は超人だ、頭を冷やせ。


 土属性の魔術に【石飛礫(いしつぶて)】があるけれど、一番弱い第一階位の魔術士で、詠唱一回につき小石の三~四発が限度。記録には第十階位の魔術士が、こぶし大の塊を雨の数ほど飛ばしたとあるけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()は書かれていない。

 いずれもARK(アーク)氏の推測では、前後の記述から《十秒もないと思われます》とのことだった。しかもフルの〝詠唱魔術〟であり、〝略詠唱〟でも〝無詠唱〟でもなかった。

 対してこちらは時間制限ナシ、魔素切れナシ、熱を帯びてアチチの心配もナシ。

 卑怯だと思った。


 次にセミオート、別名〝狙撃モード〟である。モードを切り替えたら望遠機能の備わった照準器がにゅ、と出てきて、一度に撃ち出されるのは一発のみ。

 有効射程およそ千メートル。遮蔽物がなければ、トリガーを引いて約一秒後には目標へ到達。

 もういちいち突っ込むのも疲れるので、こいつはこういうものだと割り切るしかない。

 多分ARK(アーク)さんは、工作してたらついつい熱が入っちゃう派なんだ。


 ざっとこのような感じだが、今のところ気になるのは……二点かな?

 まずは、狙撃モード時の音や衝撃。

 発砲時の音の原因は火薬だけでなく、(たま)が音速を超えた際のソニックブームもあったはず。消音器は火薬の破裂音を抑えるものだったはずだし、秒速一キロなら余裕で音速突破だが、そのあたりはどうなのだろう。

 それから、魔素弾が物体の中を通過した痕はどうなるか。

 通常の弾丸であれば弾道上の物体を通り抜ける際、(たま)の大きさより広い範囲を破壊しながら進み、穴は若干大きめになるはず。これもゲームの時はいちいち気にしなかったけれど、実際どうなるのだろうか。


《結論から申し上げますと、魔素弾でも衝撃波に酷似した現象が確認されました。近距離であるほど、物体内を通過時の破壊範囲は広くなります》

「げっ。――え、じゃあやっぱり耳栓とか要る? いや、そんなもん無意味か?」

《不要です。魔導刀のように、マスターへ害を及ぼさない魔導式を組み込みましたので、うっかりご自分の足を撃たれた場合はもちろん、衝撃波による被害も受けません。これは地形で反射されたものも含みます。実際に試していただければわかりやすいかと思いますが、さほど大きな音ではありませんのでご安心ください》

「そ、そうか……」


 ちなみにその魔導式って、具体的にどんな感じで守ってくれるものなのだろう?

 いや自分の足など撃たないがね!


《まず魔素弾に関しては、マスターに接触する寸前で魔素に戻る仕組みになっております》

「ほうほう?」

《それから、マスターの全身を魔素の層で包み、圧力を分散させる性質を持たせます。撃ち出された魔素弾は大気中を漂う魔素に働きかけ、風属性の魔術に近い現象を起こすと確認できましたので――》


 簡単に言うと、私の周りを覆う大量の魔素で、向かって来る大きな力の塊を正面から跳ね返すのではなく、バラバラに細かく分解して霧散させてしまうそうな。

 頼もしいな、ARK(アーク)さん。そして魔素の優位性と万能っぷりが凄いんだが。


「ん~。それなら大丈夫かな?」

 

 ひとまず私の身だけは大丈夫そうだ。

 ――いや、ちょっと待て。

 ナチュラルに安心しかけたが、もし傍に人がいたら、その人は危ないかも、ということなのでは?


「うーん……」


 ここはやはり実際に使用してみて、どんな感じなのかを見るしかないか。

 万が一の時にぶっつけ本番で、周囲への被害があるか否かも不明な代物を使うのはリスクが大き過ぎるし。

 そしてくどいようだが、何度でも言わせてもらいたい。


 ――私は今日、お出かけ・お買い物の準備について話をしに来たんじゃなかったのか?


 これ、使いどころってドコよ?

 せめて普通のハンドガンでも良かったんじゃん……?




ただのお買い物に持って行ってはいけない危険物。


次は使ってみる編です。

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