表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空から来た魔女の物語 -site B-  作者: 咲雲
新世界
14/70

13 異邦人から見た世界

ご来訪ありがとうございます。


最近とみに回線が重くて難義してます。すぐ画面が停止してしまって(汗)


 肉体年齢十四歳、夏。小川で泳いでみた。

 深いところは急に流れが強くなる場所もあるらしいので、なるべく水深の浅い、水が地下に流れ込まないところを選んで水遊び。

 透明度が高く、深い川だと本当に水が青い。ゴーグルなしで目を開けられたのはちょっとした衝撃だった。人の手の入っていない野生の川が、ドーム内を流れていた水路より綺麗なんて。……あちらは化学薬品なんかも確実に流れてたしな。

 それはいいが、夏なのに冷たいこと冷たいこと。北方山脈から流れてくる水だけでなく、地下洞窟から大量に流れてくるのもあるので、食材を冷やせるほどキンキンに冷たい。

 水着は断念し、潔くウェットスーツを所望した。

 レスキュー要員のBeta(ベータ)君をお供に、念願の川泳ぎ。私が溺れそうになったら、青い小鳥さんが河原でいろいろ採集しているBeta(ベータ)君に速攻で教えてくれる手筈だ。


「うはああ、きもちい~!」


 水温が低過ぎて水着を着られないのは誤算だったが、まあいい。

 あと、昔より長く息がもつようになっている。


「あ、なんかこれ綺麗」


 川底には時々、綺麗な石が転がっていた。水晶やガラスっぽい何かの結晶がついていたり、細かい色付きの石屑だったり、そういうのを見つけて拾うのも楽しい。


「見て見てBeta(ベータ)君、こんなの見つけちゃったよ~。すっごく綺麗じゃない?」


 黒い石に金色の粒々や、スカイブルーやターコイズブルーの半透明な結晶ぽいものがついている。


「まさか金だったりして、なんちゃって♪」

《金っスね》

「エ?」

《ほぼ純金スよ。コッチの結晶は神輝鋼(オリハルコン)スね。こんなトコに原石が流れてくるとゆーコトは、上流のほうに鉱脈がありそうっスね~》

《さすがマスターです。さっそく調査いたしましょう》

「…………」


 川遊びをしていたら山吹色のお菓子の(もと)を発見しました。青いお菓子の(もと)は何なのか怖くて知りません。

 Beta(ベータ)君が忙しくなったので、夏の水遊びはお開きになった。





 肉体年齢十四歳、秋。そろそろ冷え込みがつらくなる季節。

 同時に、収穫の秋。ほくほく甘い焼き芋に舌鼓を打ちながら、せっせと収穫に励むAlpha(アルファ)を見やる。

 作業用ロボットを操作しながら、籠どころかコンテナ一杯に積み上がる食材。

 ……。

 まあ秋じゃなくても年中収穫期なんだけど。秋の収穫量はなんていうかこう、圧倒されますね。

 どう考えても私ひとりで食べるとか不可能な量なんですが。


「備蓄用にしても多過ぎない?」

《マスターの消費と備蓄分を除いては、シャンプー・トリートメント・石鹸・化粧水・乳液などの材料にしておりますし、医薬品・その他実験材料などにも使います。米が短期間で大量に確保できる環境になりましたので、酒や焼酎、果実酒類も作っております》

「あっ。もしかして梅酒、じゃなくて、プラメア酒作るのに使った蒸留酒って?」

《はい。この星の〝畑潰し〟で、清酒や米焼酎ができました。それでもなお余る分は燃料に変えます》

「燃料」

《はい。液体から固形状のものまで、用途に応じて》


 食材を燃料にするのか。なんて勿体ない……いや、〈スフィア〉やAlpha(アルファ)Beta(ベータ)君の食べるご飯だと思えば勿体なくないのか?

 ご飯だけじゃなく道具の燃料もあるだろうけど、そもそも〈スフィア〉にどんなご飯が必要なのかもよくわからない。船の〈ARK(アーク)〉はワープしながら百年も航行を続けたという話だったし、〈スフィア〉は宇宙空間での緊急脱出を想定されていたのだから、ギリギリ自家発電は可能なシステムにはなっているはずだ。


 けれど、永遠にそれで()つのかと想像してみると……まるで想像がつかない。いつか限界が来て破綻する未来しか見えない。

 宇宙空間で、外部からとりこめる栄養素なんてないはずだ。クローン設備でも食料生産工場でも、育てるためには栄養がいる。濃縮栄養剤が大量に積まれていたらしいが、すべて船と一緒に消えた。

 〈スフィア〉で想定されていたのは、約二十名ほどが贅沢に優雅に暮らすための設備。慎ましく暮らせば五十名ぐらいいけるとしても、燃料も栄養もそれ以上はないので、たとえ男女の生き残りが何人乗っていても、子孫を増やせる数には限度がある。

 完璧に管理され、あの球体の内部だけで完結する世界の構造…………うわ、ぞぞっときた……。


 多分、最初の十数年はなんとかなっても、子や孫の生まれる代にはホラーな展開になるんだろうな。

 脱出できない意味で、窒息系のサバイバルホラーかもしれない。

 私の超! 苦手なやつだ。

 とりあえず、あれが全部廃棄されていたら勿体ないし、有効活用されているんだから良しとしよう。


《廃棄分は畑の肥料にします》


 棄てるものまで有効活用。ARK(アーク)氏に隙は無かった。





 肉体年齢十四歳、冬。ぬくぬくの毛布をかぶり、むいむい、むいむい、芋虫毛虫のフリをする季節である。

 しかし、ひたすら籠もり過ぎて完全放置されたので、自主的に起きた。何事もほどほどが重要なのだ。

 育ち盛りの空腹の虫は偉大である。三度寝を決して許さない……。


 起きて食べたら、身体を動かし、軽くシャワーで汗を流して座学の時間だ。

 その日のテーマは時事情報というか世界情勢というか、そんな感じである。


 昔は世界情勢なんて一分単位で変化するものだったけれど、この世界では一日ぐらいでそうそう大きな変化は起きやしないのが普通だ。下手をすれば数ヶ月経っても、状況がそう変わっていない国もある。

 これは情報の伝達速度が原因だった。遠方の相手とやりとりするには、伝書鳥に短い通信文を持たせるか、使いの者に手紙を持たせて早馬を……という世界。

 もっと早くしたい場合は、国の魔術士団や大きな騎士団などにある通信用の設備を使うらしい。厳重に警備された建物の中に大きな魔術の円陣があり、各種手続きを経て手紙や小さなものを転送することができるそうだ。ナマモノは不可。


 凄い、物質転送装置があるのか!

 凄いんだが、水晶みたいなのが置いてあって、リアルタイムで喋ったりできるのはないんだろうか?

 突っ込んだが、そういうのはなかった。しかもその転送装置にしても、どうやら太古に失われた時代の遺産らしく、現代の魔術士ではその仕組みを再現できないそうな。

 いつでも誰でも好きに使える方法ではない。何か大事件が起こっても、遠くまで伝わるには距離に応じた時間と日数がかかり、ようやく世間に反応が出てきた頃には一ヶ月後とか。

 まあそんな感じだったので、前回聞いていた話と、今回の講義もあまり大差はなかった。





 この星には、大気中に溶け込んだ魔素とは別に、世界中の大地をうねるように流れて満たす強いエネルギーの奔流が存在する。

 ARK(アーク)氏はそれを竜脈と表現した。その流れには稀に、地表へ接して湧き出す箇所があり、太古の人々はそこに〈祭壇(アルタリア)〉を設け、そのエネルギーを利用し、魔物の脅威から身を守る結界を築いた。やがてそれが現在の神殿になっている。


 エスタローザ光王国の文化はヨーロッパ風だが、神殿の建物の外観はギリシャやエジプトの神殿のイメージに近い。神殿には小さなものから大きなものまであり、ひとつの町にひとつだけ。二つ以上は建っていない。

 神殿には神官がいる。すべて人族(ヒュム)で、他種族の神官はいない。排他的だからではなく、神聖魔術を会得できるのが何故か人族(ヒュム)に限定されているからだ。

 これは身体能力が低めの種族だから、神々が特別に恩寵を与えたのだとか諸説ある。ただ、半獣族(ライカン)鉱山族(ドヴォルグ)の唱える説によれば、「俺らに神官なんぞ絶対無理。真面目に神官の修行とか絶対無理!」だそうだ。市井ではこれが一番有力視されているんだとか。うん、案外それが正解かもしれない。


 神官には位の低い見習いから、高位の大神官までいる。大神殿は武に長けた神兵や神官騎士が守っていることもある。

 そしてギルドのように、神殿は世界中の国々にあった。

 信仰の強要だの、政治への口出しはご法度。ほかでもない本物の神々からお告げのあった禁止事項で、破ったらちゃんと天罰が下る。

 だから神職者が己の立場を利用し、無辜の民をだまくらかして好き放題なんてことはできない――とも言い切れないらしい?

 抜け穴探しが得意な輩はどこにでもいる。そういうことだろう。

 これについては、私に天罰を投下するのはおやめください、ご迷惑はおかけしませんから、と、どこへともなく祈っておこう。


 EGGS(エッグズ)が上空から撮影し、ARK(アーク)氏が起こした図面によれば、エスタローザ光王国の国土は扇形だ。国境線を見れば、なるほど大陸で一、二位と言われる大国の領土、とにかく広い。

 光王国のさらに北は、エベレスト級の山々が蓋をかぶせて横に連なり、エストル大山脈と呼ばれ、そこを越えた向こう側は海だ。砂浜はなく、切り立った断崖絶壁が続き、年中大荒れの海は強力な水妖の楽園。まず人が住める環境ではない。


 光王国から西は平地が多く、広大な大地に幾つもの小国がある。ほとんどが素朴な農業国で、昔は西方諸国連合を名乗っていたらしいが、長く続いた小競り合いで疲弊し、連合は解体、今では半数以上が光王国の属国になっている。

 西端にはコル・カ・ドゥエル山脈国があり、神殿の総本山とされるらしいが、国の位置も国境線も曖昧。遠い上に鎖国状態で国の情報があまりなく、エストル大山脈レベルの高山がひたすら続くので、EGGS(エッグズ)の調査優先度は低い。


 大陸を南下すれば砂漠や熱帯雨林があり、そこを越えた向こうは〈ガラシア都市同盟〉だ。様々な小国や自由都市などが同盟を結び、ひっくるめて南方諸国と呼ばれる。海岸線には砂浜やいくつもの漁港があって、漁業が盛んで商売が盛ん。いかにもな南の国だ。

 海洋の魔物も北の海域と比較して穏やか――というか漁の対象がそもそも魔魚――なので、細かく散った木屑のような島国の間を、頻繁に船が行き来しているのだそうな。

 この南方諸国へ向かうには、いったん西方諸国を通って南下する必要があった。地理的な問題で、光王国の南端から直接南の地へは向かえない。


 で、東の地には何があるかというと。

 帝国がある。

 帝国だ。字面だけでやばい。


「帝国が今まですんなり味方になってくれた経験がないんだけど。むしろ強敵とか立ちはだかる壁とか、そんなイメージしかないんですが?」

《ええ。ですので、〝帝国〟と解釈して訳しました》


 つまり実態もそんな国だった。

 魔物という人類共通の敵がいれば、果たして人々は皆、手を取り合って協力し合うのだろうか? わかりやすい答えが(くだん)の東の国、イルハーナム神聖帝国にあった。

 自分の住んでいる土地が魔物の脅威に晒されていれば、比較的安全な余所の土地を奪え。

 それを過去何度も繰り返し、領土を広げてきた血なまぐさい歴史のある国だった。

 お決まりの人族至上主義を掲げ、やり過ぎて、百年ほど前に多種族連合軍から痛い目を見せられた後も、未だ半獣族(ライカン)を始めとするいくつかの種族を公然と奴隷扱いしている唯一の国でもある。

 懲りないしぶとい、そして領土が阿呆のように広く、戦闘特化の種族を奴隷化しているため軍事力もあり、多少弱っても簡単には滅びない。


「うん、帝国ってそういうもんだよね」


 以上が、この星の人類の生息圏、〈アトモスフェル大陸〉だ。

 宇宙空間からの記録映像では、ほかにも大陸らしき影や島が映っていたけれど、ヒト属に該当する種族が確認できたのはこの大陸だけらしい。

 全土が氷漬けであったり、逆にマグマで覆われていたり、有毒植物や魔物だらけで土地が汚染されていたり、乾いた土と岩しかなくて草一本生えない不毛の地であったり、この大陸以外はどこもそんな感じなんだそうだ。


 そして〈スフィア〉が着陸し、私が今住んでいるこの森――〝黎明の森〟と呼ばれるこの森は、エスタローザ光王国の最南端、デマルシェリエ伯爵領にあった。


 扇の、ちょうど手に持つ部分。そこがデマルシェリエ領だ。中央の連中からは野蛮な田舎者と馬鹿にされながら、その実、この辺境の地の領主は決して脳筋ではなく、ARK(アーク)氏の見立てによれば、世界でも有数の精強な騎士団を誇っていた。

 国境を担う領主は〝辺境伯〟と呼ばれているのだが、この辺境伯家が何故強くて凄いかというと、まず、この地の西方には大陸有数の魔の山、マラキア山がある。

 マラキア山を含めた周辺一帯は魔素濃度が高く、強力な魔物の生息域なのだ。そこから魔物が流れてくるので、デマルシェリエ領は他の土地より強い魔物の出現頻度が多い。


 加えて、デマルシェリエはイルハーナム神聖帝国と唯一接する土地でもあった。

 帝国の国土は「J」の字形になっている。地図で見れば、光王国と帝国はイチョウの葉のように大地が縦に割り裂かれ、海と絶壁によって分断されていた。

 その「J」の下の部分が国境を経て中立地帯になっており、さらに光王国の国境へと至るのだが、そこの守りを任されているのがデマルシェリエというわけである。


 現在は停戦条約が結ばれているけれど、いつまた戦端が開かれるかわからない。帝国はそもそも他国なんぞ暴力で呑み込むべきと行動で示してきたので、約束をいつまで守るか怪しいのだ。

 そしてそんなやばい国がかけてきたちょっかいを、過去幾度となく退けてきた強者がデマルシェリエ伯爵家。

 他国の軍勢に対しても、人里に接近してくる魔物に対しても、実戦経験が格段に豊富なのだった。


《危険な地であるにもかかわらず、人の営みが豊かなのは主君の力量と人徳によるものでしょう。国防の(かなめ)たる辺境伯は、爵位こそ伯爵ですが、そこらの貴族より重要度の高い存在です》


 騎士団で有名だが、辺境伯の統治は決して脳筋ではない。

 メインの町はイシドール。デマルシェリエ領の北のほうにあり、辺境伯の本邸があるのもそこだ。

 次に大きなのは、ドーミアの町。〝黎明の森〟は、このドーミアの東側に広がっている。

 山が多く平地が少なく水や森が豊富なこの領地で、辺境伯は果樹の栽培と薬草の栽培に力を入れている。特にこの地方の特産品は、王宮の食卓にものぼるほどの高級酒だ。

 安い酒から高価(たか)い酒までいろいろあるけれど、総じて品質がよく、香りも味わいも深い。私がいつか人里に紛れ込んだら、絶対入手しようと狙っているひとつだ。

 それから、珍しい素材や食材、細工物、武器防具類。これは強い魔物が多い不幸を、上手に利益に転じさせている。討伐者ギルドの活動も盛んで、上位ランクの討伐者が大物を求めて足を踏み入れるのも強みだ。危険な魔物を始末してくれる上に、彼らはよく金を落として行ってくれるのだから。


 そういう好循環で、この土地は最悪な条件がいくつも揃いつつ、それでも豊かに発展していた。

 よく考えずとも、この〝黎明の森〟だって領主としては嫌な条件その一だろう。まったく利益をもたらさないのに、自分の領地に含められてしまっているせいで、そのぶん国に税金を納めねばならない。


 ……あれ? そのへんを考慮してあげないって、まさかこの国の上層部、性格が悪い?


 ……いやいや。もしかしたら、真面目な領主のご先祖様が、利益は出ないけど危ないかもしれないしウチで管理します、て宣言したのかもしれないし。


 ……そこんとこ、どうなんだろう。


 …………うーん。


 ………………。


 うん、どうでもいいかな。私には関係ないし。国がどうとか統治がどうとか、難しそうなことは気にしない気にしない!

 だってそういうの、気にし出したらキリがないしな。どこにでも色んな事情があるだろうし。

 この土地が暮らしやすそうで良かった良かった。それが一番大事なのだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ