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魔王の見る夢  作者: 木枯 雪
1章
30/41

閑話.人参色、未熟二人と影一つ

「――確かなんだね?」



「ああ。昨日、村の南から気配があったんだ。件目の道もないのにいきなり気味の悪い魔術の発動の気配がした。で、ちょっと前…昼頃に二度目だ。っつーことは銀の一閃だろうな」



「南…それも銀の一閃っていうことは南にいるっていうのも怪しいわね。で、それ以上は絞れないわけ?」



「村っつっても広いからな。あーあ…せっかく昼飯断ったってのに、結局成果なしかー…」



「チッ…奇襲をかけるなら明るい今からがいいけど、杖がないならカイン一人…」



「え、無理無理。俺一人で黒服たち相手は絶対無理。なんか負けそう!」



「当たり前でしょ!ああもうどうしてくれよう…。どうせ明日にはトンズラされちまうだろうし…杖ができててもしばらくなじませないとこっちまでやられちまうかもだし……」



「代用はないのか?」



「こないだの紅い紅玉の湖!あんた自分が湖に投げ捨てたのを忘れたっての!!?」



「すみませんでした!」



「チッ、せっかくのチャンスだってのに!…カイン、アンタちょっと死んできなさいよ」



「無理!嫌だ!」



「…あー、ちくしょうッ!…相手が灰色の毒や黄玉の君ならなんとかなったのに…!」



「まさか銀の一閃とはなぁ…。つか絶対深緑の庭もセットだろ?」



「運が悪かったとしか言えないわね…クソッ」



「まぁ、緑も銀も魔術に耐性がないっちゃないし、杖が戻りしだい動くか」



「…結局そうなるか…。【王部オーブ】の形状だけでも分かれば盗り逃げできるかもだけど…。いや、無理ね。やめちまおうかしら…」



「もうやめねぇ?ッ、誰だっ!」



「白い…!……銀の一閃か…!?」



「…かもしれない。どうする?」



「…ああもう、全部明日考える!とりあえず杖を取りに行ってくるわ。今晩中に杖を慣らせたらいいんだけど…」



「んじゃ俺も…」



「アンタは見回り行ってから!」



「えー!?」



「大都【紅】で騎士に見つかったの、あんたがサボったからでしょ!?」



「行かせていただきます!」



「よろしい」




スタ、と軽やかな跳躍を繰り返し、彼は木々の合間をすり抜けながら山に分け入った。

色素が抜けたように白い肌に、容赦なく木々の刺が線を引く。

やつれた顔が、暗い森の中でぼんやりと浮かび上がる。



「…南?灰色…黄玉…?」



先程の男女が交わしていた話を反芻し、聞き覚えのある言葉を紡ぐ。

この世界は土地や人の特色を色彩で判別する。

特にその色彩に対する印象が強い者には、幼児にでも分かる色彩を用いる。

例えば今は消えた『黒衣の魔王』…滝陽斗のように。

魔王の側近が言ったなら嘘じゃない、鎖で蘇らせることができる。



「…緑…銀…」



深緑の庭も銀の一閃も、同じ側近たち。

先程の男女は恐らくただの旅人たちだ。

服も容姿も村人とは異なる色彩だった。

緑や紫なら、恐らく北西か南西の出自だろう。

話していた内容から察するに、彼らは【王部】を探しに来たのだろう。

深緑の庭が託された【王部】は、【制御装置】…鎖だった。

対象となる膨大な魔力さえあれば、その魔力を自在に操ることができる。

前魔王はそれを用いて国を一つにまとめた。

運命さえも操る可能性を持つ。

あるいは、命だって。



「………」



表情が抜け落ち、造形の美しい人形のようになっていた彼の白い顔に、甘美な苦痛を味わうような、歪んだ笑みが微かに浮かんだ。

復讐の鬼を象った面のような、禍々しく美しい無機物。

もはや彼は人間には見えなかった。

出来の良い人形、あるいは化け物か。



「…鎖があれば…!」



膨大な魔力など、世界中を探せばすぐ見つかる。

その大半が身の内の魔力を制御しきれていないのだから、こちらが利用する隙など掃いて捨ててもまだ余る。

鎖、鎖さえあれば!

薄汚れた紫紺のマントを羽織り、彼は白い服を隠した。

マントの色はじわりと滲んで闇に溶けた。

そしてまた、夜が深くなった。



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