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魔王の見る夢  作者: 木枯 雪
1章
27/41

21.鶸萌黄、少し動いた現状

食事と談笑を終えて、ネオンも仕事をしなければならないということで、麗らかな日差しが落ちる頃にはお開きになった。

あれだけのんびりしていたので細工師の仕事はすぐに終わるものだと思っていた澄蓮は、時間に気づいた時のネオンの慌てっぷりに逆に驚かされた。

目的地もすぐそこだし、今更急がないから期限を過ぎてもいいわよ、と言ったシェイラの言葉に、甘えるわけにはいかないと立ち上がったネオンの姿を見て若干安心したのは内緒だ。

よかった、そこまでダメな子じゃなくて…。

失礼だとは思いつつ安堵の息を吐いた澄蓮は、直後に口の端を引きつらせた。



「オルシスさんとラファエルさんは、今晩はお忙しいですか?」



あれ、なんか…何このデジャヴ?

固まった澄蓮の疑問に同感だったカインがぎこちなく空を仰いでいると、洗い物を移動させていたシェイラがあっさりと首を振って答えた。



「?いえ、これといった用事はないわよ」



「ちょ、シェイラ!?」



この村にはあたくしの杖の修繕に立ち寄っただけのようなものだから。

なんでそんなことを聞くの?と言いたげなシェイラを見、慌ててカインがシェイラの口を塞いだが、時すでに遅く。

嬉しそうに手を打ったネオンが、ゴーグルの下で目を輝かせたのを、澄蓮は目にしてしまった。



「そうですか!じゃあ、ぜひ今晩も夕食を食べていってください!」



やっぱりねー…。

ネオンの人の良さは、もはや一種の才能だろう。

人が良いというラインも愚かしいというラインをも飛び越えて、いっそすがすがしいまでだ。

しかし口をはさむにはさめない澄蓮は助けを求めてカインを見上げたが、残念なことにカインはシェイラに足を踏まれて悶絶するのに忙しいようだった。

澄蓮がシェイラの袖を遠慮がちに引っ張ったことでようやくシェイラも自分の失態に気づいたのか、期待を込めたネオンの視線にたじろくばかりで。



「…シェイラさん、もしご予定がなければですけど……」



申し訳なさそうに家主兼雇い主の望みに沿おうとする澄蓮を見て、シェイラは面倒そうに頭を掻いた。

答えはもちろん、了承の言葉だったけれど。

嬉しそうに部屋に戻って行ったネオンを見送り、脱力したシェイラが遠い目をした。

暗欝な空気を背負って、ぶつぶつと呟いている姿は…見ていて辛くなる。

いろんな意味で。



「…くそ…ちくしょう…なんで?どうしてヒマとか言ったのよ…なんでなのよ…なんであの子あんなに自己犠牲的なのよ…なによあの偽善…ありえない…それ以上にそれに釣られたってどうなのよ、何なのよあたくしの愚か者…ッ!」



「おいセラ、いい加減落ち込むのやめろよ」



「…シェイラさん、あれがネオンなんですよ、きっと善意だけで言ってるんです。だからその……ね?」



その善意が問題なんだけど、とじっとりとした目で見てくる二人に何も言えず、澄蓮はサッと視線を逸らした。

だってその善意に(ある意味)付け込んで、住まわせてもらうことになった身なのだし。

しばしの沈黙を挟み、ややあってカインが口を開いた。



「どうせヒマなんだしさ、ついでに夕食の仕込みでもするか」



疲れを吹き飛ばそうとするような声色からは、切り替えができた大人の雰囲気が窺えた。



「…分かってるわよ。それに、スミレちゃんに色々教えないとね」



「…よろしくお願いします」



お手数おかけします。

数日後にはこの村を旅立つ二人に、澄蓮は深々と頭を下げた。

少しずつこの世界での自分の輪が広がっていくような感覚が、なんだかちょっとだけくすぐったかった。


夕食の準備をしたり、洗濯物を畳んだりしながらシェイラとカインは絶え間なく澄蓮に話しかけてきた。

大都はそれぞれルールが異なっていて、たとえば大都【紅】は領主が代々大都を牛耳っているだとか、反対に大都【白】は毎年代表者が変わるから面白いだとか。

この世界の話なのに、全然実感がなくて(まあここに来てまだ二日程度だから当然か)、しかも元々ここは『国』って単位より『地方』とかいう感じだったからか、地域ごとの特色が強くて不思議な感じ。

今じゃ『国』になったから他の地域に移動しても変な目で見られることが少なくなったらしいんだけど、服装だけでなく髪の色や瞳の色も地域によって違うってのがすごくネックになっていたらしい。

シェイラの深緑の髪や紫の目は大都【白】…つまり国の北西の辺りに多く、カインの住んでいた北東とは違うせいで小さい頃は(文字通り)毛色の変わった子として見られて嫌だったとか。

澄蓮の黒髪や一見黒に見えるこげ茶色の目は、ものすごく変わっている、と二人は口を揃えて言った。

太陽の光の下では、どんな染色技術があっても髪や目の元の色が分かるから、陽の下にいる黒髪黒目の澄蓮はかなり変だと。



「…どうにかなりません?」



さすがに染めずに髪の色を変えるなんて無理だ。

滝先輩のように生まれつき色素が薄いタイプならまだごまかせたかもしれないのに…。

今後この村を出て行くなら、アブナイ系の人たちにいちゃもんをつけられて絡まれないためにもなんとかしたい。

そんな澄蓮の切実な願いにカインは鍋をかきまぜながら唸って、そうだ、と声をあげた。



「普通に顔とかまで隠せるマントとかあるしさ、それ被ればいいんじゃね?」



「え、蒸れません?」



「中に着る服を薄手にすればいいわよ。日焼けもしないだろうし」



「ぜひ着たいと思います!」



(ある意味リアルな)夢とはいえ日焼けは困る。

何も考えずに腕時計をして出かけてたら、くっきり腕時計型に焼けた腕になっていた去年の夏の悪夢はもう二度と繰り返さない。

プールで友人に爆笑された記憶もまだ色鮮やかだし…。

なぜかぐったりし始めた澄蓮を見てシェイラが怪訝な顔をした。


その後二人は澄蓮に、主に澄蓮や陽斗の住む『現実』の世界について聞いてきた。

魔術がないならどうやって生活してるんだ、とか。

そっちの寿命とか仕事ってどんな感じなの、とか。

綺麗なお姉さんは多いか、とか。

もちろんカインの質問だ。

この後、シェイラのアッパーによって地面に伸びていた。


あいにく現実(テレビとか以外)で、あたしはシェイラさんほど強烈な美女は見たことがありません。


昼食前にあった気まずい雰囲気になることもなく、楽しい会話も弾んで、気づけば夕方になっていた。

早いなぁ、と暗くなった外を見て、街灯一つない世界の夜を再度実感。

昨日の夜、ランプ持ってたとはいえよく一人で外に飛び出せたよな、あたし!

とんとんとん、とお腹を押さえながら階段を降りてきたネオンが、品数が多くて豪勢になってしまった料理を前に、なんだかお祝い事みたいだと目を輝かせて喜んでいた。



「…なんだか……いいわね、こういうの」



アジックさん自家製のお酒(カブと…何だっけ?何かが材料の、アジュルってお酒)を片手に、シェイラさんがぽつりと言った。

食事であの真っ赤な口紅が薄くなっていて、アルコールが回って頬が染まったシェイラさんの顔が、なんだかあたしと同年代ぐらいの女性に見えた。

それからちょっとだけ、寂しそうな感じがした。

何を言ったらいいのか分からなくて、あたしはシェイラさんの杯にお酒を注いだ。

シェイラさんは目を丸くした後、ちょっと笑ってあたしの頭を撫でた。

シェイラさんは、カインさんのお母さんたちのいる森に帰りたいんだろうか。

そんなことを考えていたら、なんだか無性に、お母さんに会いたくなった。





……はずなのに。

実際に胡蝶世界で寝て現実世界で起きて、お母さんいるかなー、とリビングを覗いたら、ソファーで優雅にコーヒーを飲みつつ新聞を広げているパジャマ姿の母の姿がそこにあった。

脱力した。

家の中とはいえせめて着替えてよ。お客さんが来たらどうすんの…。

あれ、お母さん仕事じゃないの?…とうっかり言いそうになって思いだした。

体感時間ではもうとっくに月曜日な感じだったんだけど、そういえば今日ってまだ日曜じゃん。

うっわ…昨日なんか寝倒してて記憶があんまりないんですけど!?

せめて今日は出かけて思い切り羽を伸ばそう。

家の中にいたら眠くなりそう……たっぷり寝たはずなのに今も微妙に眠いし。


ひそかに決意してトーストを焼いてかじる。

いつものトーストの味なのに、なんだかあんまり美味しくなかった。

胡蝶で食べるパンの方が癖はあるけど美味しかったからだ、と思いついて、なんか染まってきてるなぁ、とため息を吐いた。

蜂蜜でも塗るか、と顔をあげたら、いつの間にか母親がじーっとこっちを見ていた。

…怖い。

なにごと?



「澄蓮、あんた体調でも悪いの?」



「え、なんで?普通に元気だけど?」



「だってなんだか一昨日からよく寝てるみたいだし…あ、でもその前の日に夜更かししてたんだったっけ?」



「あー…。あれはちょっと睡魔に抵抗してただけ」



とある先輩が夢の中でウザくて。

…とは言えず、蜂蜜をたっぷりかけたトーストにかじりついた娘に母親は納得していなさそうな顔で相槌を打った。



「よく分からないことしてるのねぇ…。あたしにもその元気を分けてほしいわよ…」



それはあたしも言いたい。


寝て寝て寝倒しているはずなのに、眠いし。

学校の勉強だけでなく夢の中…もとい、胡蝶の世界の中でも覚えることがいっぱいすぎてもう…きっついんだよ!



「まあそういうわけだから。今からちょっと遊びに…」



「ちょっと待った!」



「な、何…?」



「あんた、ヒマでしょ?ヒマよね?」



あ、なんか嫌な予感。



「……ヒマって言ったら…?」



用事を押しつけられたらさっさと逃げてやろう、とじりじり出入り口の方に逃げる澄蓮に、母親はにんまりと笑顔を浮かべた。

さながら獲物を前に舌なめずりをする肉食獣のようであった、と後に澄蓮は思い返す。



「ちょうどよかった!昨日買い物に行った時買い忘れちゃった物があるのよね。買ってきて☆」



「ええー!?」



「ほらほら、文句言わない!はい、このメモに書いてるから。お金は後で払うから立て替えておいてちょうだい。じゃ・行ってらっしゃーい☆」



嫌だと言う間もなく澄蓮は外に放り出された。

いってらっしゃーい、と笑顔で手を振る母親が玄関で仁王立ちしているので戻ることもできない。

なんで嫌な予感がした時に部屋まで逃げなかったんだろう、あたし。



「…ふじょーりだ」



母親といい陽斗といい…なんだか最近周りに流されっぱなしな気がする。

そしていずれに対しても太刀打ちできないという現状。

重いため息を吐いた澄蓮は、異様に重たい体を引きずって商店街に向かった。

面倒だしさっさと終わらせて遊びに行ってやる!

という勢いで色々な買い物を済ませた澄蓮は、メモに残されたいくつかの品物を見て悩んだ。



「そういえば滝先輩の病院って川の方にあるんだよね…」



木曜の午後、貴司と途中まで一緒に帰ったあの時。

『隣町にある病院だよ。陽斗が入院してるし、見舞いに行く日だからさ』

そう言っていたのを思い出して、澄蓮は少し考えた。

今、荷物はそれほど重くない。

隣町で病院って言ったらあの病院しかない、というぐらいの病院があるから、陽斗が入院しているならたぶんそこだろう。

でもってあと買わないといけない品物は、隣の駅前にある薬局とかでも買えたはず。


ついでだから病院にも寄っちゃおうかな…?

森谷先輩もいるかもしれないし。

…あ、下心はなしで!

あたしは何をすればいいのかとか、そういう相談をしようと思ってですね…!


誰に言うでもなく心の中で言い訳をしていた澄蓮に、不意に背後から聞いたことのある声がかけられた。



「あれ…?芳村さん?」



「っ!…あ、も、森谷先輩っ!?」



今まさに考えていた人物が目の前にいて、澄蓮は奇妙なぐらい裏返った声で驚いてしまった。

しかし貴司はそれを気にするでもなく、あの好青年な笑みを浮かべて近づいてきた。

まだ梅雨前だが暑いらしく、涼しげな半袖の上着の下はタンクトップだった。

先輩、鎖骨が(良い意味で)目に痛いです…!



「うっわ、偶然!なになに、買い物?」



「そうなんですよ、親に押しつけられて…じゃなくて!」



「テンション高いなぁ。何かあったのか?」



「森谷先輩に聞きたいことがあるんですよ!」



「え、俺?」



「はい!もうこれからあたし何をどうすればいいのか……」



お金ないと動くに動けないし。

働く所と住む所をゲットできたはいいけど、魔法…じゃない、魔術とか使えないと火すら起こせないとかあの世界ちょっとふざけてません!?

ていうかあたし羊の出産手伝うとか初めてだったんですよ怖かったんですよ!?

羊でかいし!

そもそも滝先輩の『親友を助けてくれ…!(涙キラリ』(誇張表現含む)とか言って無一文で一番遠い村に放り出すとかって何なんですか!

あの人あたしのことバカにしてると思いません!!?


言いたいことが山ほどあるのに、全部が全部いっぺんに口から飛び出してこようとするものだから、何を言いたいのか自分でもさっぱりだ。

ただ言いたいことが山ほどある、というのは伝わったのか、森谷先輩があたしを落ちつけようと優しく微笑んでくれたので、ちょっぴりドキッとした。

…あ、恋愛的な意味でなく、良い先輩に出会えたことへの感謝で。

え、親友想いの滝先輩?

あれは論外。っていうか枠外。



「ちょい待ち、落ち着け。はい、深呼吸~…」



「…バカにしてます?」



やっぱり滝先輩の親友は滝先輩の親友ってことなのか…。

ステキで良い先輩…!とか感動したあたしの気持ちを返してください。

ジト目で睨みあげたら、先輩は後輩の睨みに軽く笑った。



「いやまさか。で?」



「あ、えっとですね…滝先輩に森谷先輩たちを助けるように言われたのはいいんですけど、具体的に何をどうすればいいのかがサッパリで…。ていうか無一文で身一つで一体何をどうすればいいのかが、もう、分からなくて…」



「ああ、なるほど…」



要約するとそんな感じ。

もうちょっと具体的な指示を仰ぎたい。

縋るような澄蓮の視線を受けた貴司は一つ頷いて、澄蓮に尋ねた。



「じゃあまずは芳村さん。今どこにいる?」



「若苗色の村、だそうです」



っていうかこれで通じるのか?

それどこ、と言われたらネオンたちに描いてもらった地図でも描いて説明しようと思っていたが、貴司はどうやら思い当たる場所があったらしい。



「若苗色?ああ、あそこか」



「知ってるんですか?」



「ああ。平和でいい村だろ?しかもよそ者にも排他的じゃなくて」



「あ…確かに」



最初はみなさんの視線が痛かったですけど…と続けようとしてやめた。

あの視線はネオンを心配したからこそ、だったから。



「国の最年少の細工師もいるし、割と名は通ってると思うぜ。確か名前は…」



「それってまさか…ネオンですか?」



「そうそう、なんか電灯みたいな名前の。ってもう会ってたのか?」



「っていうかお世話になってるんですけど…」



「へぇ…いい奴なんだな」



お互いに目を丸くした。

友達の友達が自分の知り合いだったような感じだ。

…まさか違う世界を介してそんな感じになるとは、と驚いたが。



「にしても、若苗色の村か…。ならすぐ行けるな」



納得したように頷いた貴司の言葉を聞いて、澄蓮は道路の商店街の真ん中だということも忘れて叫んだ。



「ええっ!?先輩、近くにいるんですか!?」



「おう。今いる砂漠に近いしな」



「砂漠って…まさか、荊棘の砂漠……?」



「知ってたのか。つか芳村さんとは一回あそこで会ったんだったよな、忘れてた」



「いい思い出ってわけでもないですしね…。あれは…超怖かったですよ…」



あの変な味の砂、目を開けるのも困難な一面の砂漠…。

忘れたくても忘れられない、最悪の場所。

盛大に顔をしかめた澄蓮を見て、貴司は同感だ、と苦笑した。


まさかずっと砂漠をさ迷う夢を見ていたっていうのか、この人…。

あたしなら一日も耐えられない。



「ま・何はともあれ、今晩ってのは無理だろーが急げば明日の夜にはそっちに着く。…あ・夜っつか胡蝶のな」



ということは、今晩を凌げば明日の夜には再会できるということか。

…めちゃくちゃ近いんだ。

間違っても絶対に砂漠の方向には行かないぞ、と決意して、澄蓮はようやく安心に頬を緩めた。



「そうですか…分かりました。…良かった」



「良かった?」



「あ、いえ……なんか色々、大都とか魔術とか…よく分からないことばっかりで――」



「ああ、困ってた?」



「はい。周りの人たちは優しいけど事情を全部話して相談できないのが、なんていうか、困ったっていうか…辛かったんです」



シェイラさんたちにはほとんど喋ったも同然だけど、滝先輩の親友を助ける、ということについては話していないようなものだ。

滝先輩は…魔王は、彼女たちが微妙な感情を抱く相手。

そんな人に頼まれてやってきました、なんて言ったら…どう思われるのか。

しかもシェイラさんは滝先輩の一部(確か【王部オーブ】とか…)を欲しがっている。

『敵以外に刀を向けない。誓うわ』

そう言った彼女の敵に、あたしはなりたくない。

だから言わない、言えない。

たぶん、これからも。

ていうか言ったとたん首筋にナイフとかありそうで怖い。

怖すぎて言えない。

冗談抜きで、マジで。



「…そっか。まあ、無理をするなとかは言えないけどさ、俺たちもできるだけ、頑張るから。よろしくな」



「はい。頑張りましょう」



「おう!…っと、そうそう、一個忘れてた。俺、今晩から他校と合宿試合なんだよ。だから木曜まで学校行けねえんだ」



「へぇ……ってぇええっ!?」



がんばるぞ、と固められた決意がさっそく崩壊しそうだ。

いや、別に明日の昼間に会えなくても、明日の夜には会えるのだから心配するようなことにはならないのだろうけれど。

それでも澄蓮にとっては、ようやくできた相談できる相手だったのだ。

ガクリと肩を落とした澄蓮に貴司は申し訳なさそうに笑った。



「わり!これでも一応副主将だからさ、体調悪いわけでもねぇのに抜けられねぇんだ。それに今年最初の試合だしな」



「そ、そう…ですか……」



仕方ない…といえば仕方がない。

貴司も澄蓮と同じで、胡蝶の生活もあれば現実での生活もあるのだ。

それに2年のこの時期で副主将になっている彼の実力は、部の要なのだろうし。

目指せ全国!なのだろうし…。



「まあ向こうで会えんだし。な?」



「うぅ…分かりました。応援してます、頑張ってください!」



「ははっ。サンキュー」



わっしゃわっしゃ、と犬を撫でるように頭を撫でられた。

森谷先輩はカインさんと気が合いそうだ。

でもってシェイラさんは滝先輩とは仲が悪そうだ。


そんなことを思いながら貴司と別れて、結局澄蓮は隣町まで足をのばさず、近場のスーパーで買い物を終えて家に戻った。

そして何事もなかったように普通に昼食を食べて、普通に夕食を食べて、普通に風呂に入っている時、思い出した。


そういえば…森谷先輩に言うのを忘れていた。

シェイラさんとカインさんに、あたしが現実世界から来たってことをばらしちゃったんだった。

でもってシェイラさんは【王部】を狙ってるんだった…しまった、忘れてた……。

つか先輩に渡された鎖、結局どこにやったんだっけ!!?


急にそのことを思い出して飛び起きた澄蓮は、派手な水音に驚いた母親が「ちょっと、大丈夫!?」と聞いてくる声に気付かなかった。



(鎖どこにやったんだっけ!!?)



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