00.無色に蝕まれた魔王
魔王は笑った、哀しませないために。
強制的に魔力を奪われ、その負荷として『魔王』を形作る全てをも解体されかけた今の彼に、時間はなかった。
それでも、親友たちに、笑いかけた。
もう、自分を解体させた人物も、この場所を嗅ぎつけてくる頃だろう。
そして自分が消える、時間も。
『みんなを、守ってくれよ』
一番自分を憎んでいたはずの友が、今にも泣きそうな顔で頷いて、紅い鍵を受け取った。
その拍子に涙が一滴、零れ落ちた。
『絶対、戻して殴ってやる』
頼もしいな、と笑うと、真っ赤な顔で怒られた。
『後を、ヨロシク』
生まれた時からの幼馴染は、唇を真一文字にしていたけれど、やっぱり何もかも承知していたように無言で頷いて。
黒い水晶玉を手渡した。
『まかせろ』
握手をした彼女の震える手は、温かかった。
『…あんまし泣かんといてぇな?』
世界で一番愛せたのはお前だけだから、誰より一番、哀しませたくない。
透けた手で涙を拭って、白い結晶を持たせた。
『愛してる……』
密やかに囁かれた言葉が嬉しくて、笑ってしまった。
『アイツを、止めてくれ』
人生で最も気の合った親友は、いつもの安心させるような微笑みで頷いた。
無理をさせるが、コイツにしか頼めない。
最後の欠片、金の鎖を託した。
『おう!…またな』
短い言葉に込められた万感の想いが、琴線に触れた。
世界一の親友たちが、とても頼もしくて、嬉しいのに、別れが寂しくて、完璧な笑顔ができない。
けれど心はとても、凪いでいる。
ひょっとしたら、これが本当に最期の時かもしれない、と皆が分かっているから。
かえって、心休まるのかもしれない。
『みんな、生きろよ。どんなことして生き延びてもええから…せやから、俺の知らん間に死ぬんやないで。絶対』
みんなの、泣きそうな笑顔。
記憶に、魂に、目に焼き付けて。
魔王は笑う。
来るべき時を嘲笑うように。
『またな!』
明日学校で会おう、といつものように、魔王は宣言するように叫び。
そして、魔王は――――――
異世界人、滝陽斗は、静かに消えた。
遅筆で長編小説になりますが、地味に更新していこうと思っています。
序章だけでもかなり長くなる予定です…。
改行を使いまくって見やすい文章を目指すので、もっと見やすく工夫できる点があれば教えてください!