7
女は、私のその声をしっかり聴いてくれて、田中達に言う。
「お前らは友達じゃないってよ?なんで嘘つくの?いじめっこさん?」
「う...っ!」
田中達は、女の圧に何も言い返せないようで、黙り込んで俯く。
そんな田中達に女は容赦せず続ける。
「なんか言ったら?がくがく震えてかわいそうにね!あんたら、口ついてる?」
「...。」
「本当に、コケはどっちだよ。いざとなったら何も言えないの?」
女は、田中達がおびえていることに気づいていて、わざと大きな声で言う。
「だっせーことばっかやってる暇あんなら、勉強しろや!」
女がいきなりそう叫ぶと、田中達はびくっと肩を震わせた。
すると女のその声が合図のように、周りで見ていた人たちが、ヤジを入れ始めた。
「いじめ?だっさ。」「あれって、綾西高校でしょ?」
「うわあ、まじであるんだ。」「てか、ずっと黙ったまんまじゃん。うける。」
その周りの声に、とうとういてもたってもいられなくなった田中達は、いつの間にか地面に落ちている自分たちのカバンを拾ってそそくさと店から出て行った。
田中達が外に行ったことを確認すると、女は周りにいた人たちに一言
「迷惑かけてすいません、ありがとうございました。」
そういって一礼した。
すると、大きな拍手がその女に向けられた。
女はどうもーって言いながら、私の方に来て、今にも涙を流しそうな私の頭に手を置いて
「よく頑張りました、やればできるじゃん!見直した!!」
とさっきまでの優しい声と明るい笑顔を向けて言ってくれた。
私は、そういってくれたことにも、味方だと言ってくれたことにも、私を見捨てず助けてくれたことにも本当にうれしくて、自然と笑顔で女に言う
「ありがとう、本当に、あり、がとう!」
そういう私に、女はまた笑いかけて、そそくさとプリ機の中に入ろうとする。
「いいってことよ!ほら、はやくプリ撮ろ?」
「うん。」
そう返事して、私の女の方に急ぐ。
プリクラを取り終わった後、シールを受け取って、外に出た。
すると女がいきなり私の方を向いた。
「ねえ、そういえば名前なんて言うの?」
「え、教えない。」
「え!なんでよ、教えてよ!」
確かに、名前をまだ知らない私たちは、呼ぶときにいつも「あんた」とか呼んでいた。
それでも、私は自分の名前が好きじゃなかったから、言いたくなかった。
「じゃあ、先にあんたの名前教えてよ。」
「あたし?あたしの名前は璃廼だよ!」
「りのさん?」
自己紹介って普通は苗字から言わないのかな?
なぜか、自分の下の名前を自信満々に言ってきたこの人のことをつくづく頭の足りない人だと感じた。
そう思っていると、りのが勢いよく聞いてくる。
「りのでいいよ!はい、あたしの名前教えたから、次教えて?」
「....姫乃。市原ひめの。」
私が下を向きながらそういうと、りのは笑顔で言う。
「ひめの?かわいい名前じゃん!なんで教えてくれなかったの。」
「だって、私と真逆だから。」
私は小さいころから、この名前のせいで周りの女子から嫌味を言われてきた。
名前に姫がついてるのに、私は暗くてつまらない人間だから、男子には「落ちぶれた姫」なんて呼ばれるし。
だから私はこの名前が嫌いだった。
私がそういうと、りのは不思議そうにした後私の顔を見た。
「なにが真逆なのかわからないけど、ひめのってひめのにぴったりな名前だね!」
「え?何言ってんの?」